2021.12.31

2021/12/31 文献紹介

2021年最後の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①ショック適応の院内CPA、1/4以上が除細動前にアドレナリンを投与されていた。…こりゃショック!
Erin Evans et al. Epinephrine before defibrillation in patients with shockable in-hospital cardiac arrest: propensity matched analysis.
BMJ. 2021 Nov 10;375:e066534.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34759038/ (無料で読めます)

VF患者に、アドレナリンを投与しますか?
では、除細動後もまだVFだったら?

今回のスタディは、
「1/4以上が除細動前にアドレナリンを投与されていた」
という内容です。

もちろん、これはガイドラインに反しています。
でも、身近にありうるなぁ…(^◇^;)

以下の条件で行われました。
・2000年から2018年
・米国の約500の病院
・VFまたは無脈性VTによる院内CPA患者
・除細動の前にアドレナリンを投与された群 vs. アドレナリンを投与されなかった群(傾向スコア・マッチさせた)
・後ろ向きコホート

結果です。
34820人の患者のうち、9630人(27.7%)が除細動の前にアドレナリンを投与されていました。

除細動の前にアドレナリンを投与されたら…
・除細動が遅延します。
(中央値3分 vs. 0分)
・生存退院率が低下します。
(25.2% vs. 29.9%; 調整オッズ比0.81; P <0.001)
・神経学的に良好な退院率が低下します。
(18.6% vs. 21.4%; 0.85; P<0.001)

やはり、除細動前にアドレナリンを投与すると、予後が悪くなりましたね…。

ガイドラインでは、「少なくとも2回の除細動後にアドレナリン投与」です。

これを機会に再確認できましたね。
ぜひ院内でも共有しましょう〜。

②ブジーでも挿管成功率は変わらなかったRCT
Brian E Driver et al. Effect of Use of a Bougie vs Endotracheal Tube With Stylet on Successful Intubation on the First Attempt Among Critically Ill Patients Undergoing Tracheal Intubation A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Dec 8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34879143/

ここ数年、「スタイレットではなくブジーを用いた方が、挿管の成功率が上がる説」がありました。

根拠となる直接比較RCTは1つだけでした。
しかも、単施設RCTで、しかもこれは日常的にブジーを使用していた施設でした。

にもかかわらず、この説は多数派になりつつありました。

今回の論文は、「ブジーでも挿管成功率は変わらなかった」という多施設RCTです。

以下の条件で行われました。
・米国の15施設(救急外来7とICU8)
・他施設、非盲検、RCT
・最初にブジー vs. スタイレット使用

結果です。
・1102人が対象でした。
・初回挿管成功率はブジー80.4%、スタイレット83.0% で有意差なし(P=0.27)
・重度の低酸素血症 はブジー11.0%、スタイレット8.8% で有意差なし
でした。

今回の結果に、正直ほっとしています。
自分の実臨床での感覚と一致しているからです。

…もちろん、挿管レスキューとしてのブジーは信頼しています。
1回目スタイレットで、もし挿管が難しそうなら、またお世話になりますね、ブジーさん。




福岡徳洲会病院の鈴木です。
蘇生のガイドラインって、少ないエビデンスの中で最適な推奨を出していて凄いですね!
でも蘇生に慣れてきたら、独自の治療法を試してみたくなる時はありませんか?
例えば・・・
カルシウムの投与って、心臓を刺激したり、末梢血管をしめたりして良い効果がありそうな気がします。それに何となく安全そうだから、心停止でも投与を試してみたくなっちゃいますよね。
実際にアメリカのレジストリーによると、院内心停止の成人の25~30%にカルシウムを投与していたとの事です。
1つ目はこのテーマについて調べた研究です。

③院外心停止の患者にカルシウムの投与を行っても予後は改善しない。むしろ悪化するかもしれない。
Mikael Fink Vallentin, et al. Effect of Intravenous or Intraosseous Calcium vs Saline on Return of Spontaneous Circulation in Adults With Out-of-Hospital Cardiac Arrest: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Dec 14;326(22):2268-2276.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34847226/

ガイドラインでは心停止に対するカルシウムのルーチン投与は推奨されていませんが、その根拠となったのは古い小規模Studyが中心で、質の高いRCTはありませんでした。
本研究はデンマークの1200人以上の院外心停止の中から、アドレナリン投与の適応のある400人を対象に、アドレナリン投与直後にカルシウムを投与する群とプラセボを投与する群に分けて調べました。
もともとカルシウム投与の適応があった症例(高Kなど)は除外されています。

カルシウム投与群の19%、プラセボ群の27%がROSCしました。
中間解析でカルシウム投与による害を指摘され、途中でTrialは中止されました。
相対危険度に有意差はなかったものの(RR,0.72[95%CI,0.49 to 1.03])、Trialが続いていたら有意差がでた可能性は十分にあります。

筆者らはこの原因として、「Stone Heart(カルシウムによる心臓の過収縮)」が悪さをした可能性を挙げています。Stone Heart...知らなかったです(汗)。
やはり心停止に対するカルシウムのルーチン投与は控えて、高Kやカルシウム拮抗薬中毒による心停止などに限定した方が良さそうです。また心停止によって結果的に高Kになっているのか、高Kが原因の心停止なのかについても毎回検討した方が良いと思います。


④救急外来での昇圧剤のボーラス投与について。フェニレフリン(ネオシネジン®)の静注と、希釈したアドレナリンの静注を比較。
Elizabeth Nam, et al. Comparison of push-dose phenylephrine and epinephrine in the emergency department. Am J Emerg Med. 2021 Nov 25;52:43-49.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34864289/

次に紹介するのは、救急外来での昇圧剤のボーラス投与についての論文です。
三次だけの救命センターでは昇圧剤のボーラス投与は日常的に行われていると思いますが、ER型救急病院でも昇圧剤のボーラス投与を行っているでしょうか?
当院ではよく100倍希釈のノルアドレナリンを静注していますが、たまに最終兵器として希釈したアドレナリンを投与する先生を見かける時があります。
またフェニレフリン(ネオシネジン®)、エフェドリン、エチレフリン(エホチール®)などを使用している施設もあるかと思います。

本研究は救急外来でのフェニレフリンと希釈アドレナリンの投与によって、30分以内にどの程度のバイタルサインの変動がみられたかを検証した単施設後方視的研究です。
シンプルな観察研究であり、薬剤選択の理由や昇圧剤投与後の治療法で調整されていない点には注意が必要です。

97人がフェニレフリンを、39人が希釈アドレナリンをボーラス投与されました。
当施設ではフェニレフリンは100μg(ネオシネジン®なら1Aを10mlに希釈して1ml)前後、アドレナリンは10μg(アドレナリン0.1%注®なら1Aを100mlに希釈して1ml)前後の投与が多かったようです。
結果として脈拍の変化はフェニレフリン群で0bpm [−7, 6] 、希釈アドレナリン群で – 2bpm [−15, 5]でした。意外なことにどちらもほとんど脈拍は変化していませんでした。
収縮期血圧の増加分は26mmHg[8, 51]と33mmHg [24, 53]で、有意に希釈アドレナリンの方が血圧を上げていました。
またボーラス投与した昇圧剤の種類だけでは、有害事象の有無や死亡率やICU滞在期間などの予後に有意差はでませんでした。
ただ、アドレナリンの方が文献的な推奨用量(20μgまで)を超えて投与する頻度が、フェニレフリン(200μgまで)よりも多い結果でした。

本文献から、アドレナリンも100倍に希釈して1~2mlずつ静注すれば、ネオシネジンとさほど効果に差がなく安全に投与できることが推察されます。
逆にアドレナリンを10倍や20倍に希釈して静注するのがいかに多い量なのかも理解でき、もしもこのような選択をするならば有害事象に十分に注意しなければいけないと感じます。
筆者らは、アドレナリンを使用する際に用量を間違えてしまうリスクとして、心肺停止に使用する量(1mg)とアナフィラキシーに使用する量(300~500μg筋注)とボーラス投与の量(20μgまで)が著しく異なることを挙げています。各施設で使用する際の参考にしていただければ幸いです。

⑤クリスマスカードを送っても、臨床研究の参加者のモチベーションは上がらない
Elizabeth Coleman, et al. Bah humbug! Association between sending Christmas cards to trial participants and trial retention: randomised study within a trial conducted simultaneously across eight host trials. BMJ. 2021 Dec 14;375:e067742. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34906985/

最後に毎年恒例のBMJのクリスマス特集から、クリスマスカードに関する論文です!
8つの臨床研究に実際に参加している3000人を超える人たちに、クリスマスカードを送る群と送らない群を無作為に割り付けて、フォローアップに協力する割合を比較したRCTです。

・・・なんと!!
クリスマスカードを送ってもフォローアップの協力者の割合にまったく変化がありませんでした。

クリスマスカードを贈る人件費などで、1枚につき1.02$のコストがかかったと試算されました。
また臨床研究の4割で実際に参加者にクリスマスカードを送っていることから、イギリスでは年間4.5トンのCO2を排出させていると試算しました。

クリスマスカードだけにこの本気度。よっぽどクリスマスカードを贈る習慣を辞めたいんでしょうか。
でもFigureが可愛くて、ホントはクリスマスカードの事が好きなんだろうなぁとも思います。
日本でも年賀状をやめる企業が増えていると聞きます。年賀状の効果を研究する追試をすれば、皆さんもメジャー誌に論文を載せる事ができるかも!?

それでは皆さん、良いお年を!!