2024.08.16

2024/08/15 文献紹介

京都府立医科大学附属病院の中村です。

今年もさらなる猛暑で、熱中症との戦いになっています。

パリオリンピック・パラリンピック、甲子園などでも熱い戦いが繰り広げられていますね!

 

8月前半の文献紹介は、聖路加国際病院の宮本と共に、以下の5文献をお送りします。

敗血症にβラクタム系抗菌薬、持続投与しますか? 〜最新RCT

敗血症にβラクタム系抗菌薬、持続投与しますか? 〜最新システムティックレビュー・メタアナリシス〜

"腸管径の拡大"の判断基準は?

FAST偽陽性って何をみてるの

LUS-ARDS Score

 

まずは京都府立医科大学附属病院の中村から、βラクタム系抗菌薬にまつわる2文献です。

 

「敗血症にβラクタム系抗菌薬、持続投与しますか?」

 

βラクタム系抗菌薬は時間依存性に効果を発揮するため、理論上は、従来の間欠投与ではなく、持続投与を行うことで最大限に効果を引き出すことが期待できます

 

その理論を裏付けようと、これまで複数のRCTが組まれてきましたが、効果の優位性については結果が分かれていました。

 

それらの結果を受け、敗血症ガイドラインSSCG2021や日本版J-SSCG2024では、従来の短時間の間欠投与よりも、「持続投与や投与時間の延長を弱く推奨」されています。

 

直近では、20236月に発表されたRCTMERCY試験、PMID: 37326473)で607人を対象として比較されましたが、持続投与の優位性は示されませんでした。

 

今回、その10倍以上を対象とした最新のRCTBLING 試験)と、同時に同RCTを含んだシステマティックレビュー・メタアナリシスが発表されましたので、2文献をご紹介します。

 

 

Dulhunty JM, et al. Continuous vs Intermittent β-Lactam Antibiotic Infusions in Critically Ill Patients With Sepsis: The BLING III Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024 Jun 12:e249779.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38864155/

 

BLING 試験はオーストラリアを中心に実施されたRCTで、7カ国、7202人が対象となりました。

 

対象者は2018326日から2023111日までに、ICUで敗血症に対してメロネムまたはピペラシリン・タゾバクタムによる治療を受けた18歳以上の患者です。

 

対照群(間欠投与群)では間欠的に各回30分以上かけて、介入群(持続投与群)では24時間以上持続して、投与されました。

 

1日あたりの投与量は、群間で同等になるように用量調整されています。

 

主要評価項目は90日死亡率で、持続投与群24.9% vs 間欠投与群26.8%(絶対差-1.9% [95%CI, -4.9%-1.1%]; オッズ比0.91 [95%CI, 0.81-1.01]; P=0.08)と有意差はありませんでした。

 

副次的評価項目では、14日目の臨床的治癒率でのみ、持続投与群が優れる結果となり(絶対差5.7% [95%CI, 2.4%-9.1%]; オッズ比1.26 [95%CI, 1.15-1.38])、その他の項目では有意差はありませんでした。

 

大規模RCTで、持続/間欠論争に終止符を打つかに思えましたが、決着には至らなかったようです。

 

 

次にシステマティックレビュー・メタアナリシスも見ていきましょう。

 

Abdul-Aziz MH, et al. Prolonged vs Intermittent Infusions of β-Lactam Antibiotics in Adults With Sepsis or Septic Shock: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA. 2024 Jun 12:e249803.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38864162/

 

前出のBLING 試験を含めた17RCTが特定され、9014人が対象となりました。

 

オーストラリアのクイーンズランド大学病院などが中心となって分析しており、BLING 試験と同じ研究チームのようですね。

 

間欠投与群は各回2時間未満で投与された症例で、持続投与群はそれ以上かけて投与された症例でした。

 

複数のRCTでメロネムやピペラシリン・タゾバクタム以外のβラクタム系抗菌薬も対象となっています。

 

主要評価項目は90日死亡率で、持続投与群で有意に優れる結果となりました。(リスク比0.86 [95%CI, 0.72-0.98]; I2=21.5%; 高い確実性)

 

副次的評価項目では、持続投与群で有意にICU死亡率が下がり(リスク比0.84 [95%CI, 0.70-0.97]; 高い確実性)、臨床的治癒率が上がる(リスク比1.16 [95%CI, 1.07-1.31]; 中等度の確実性)結果となりました。

 

以下のサブグループ解析も行われましたが、いずれも有意差はなく、どういった患者群で、特に持続投与の効果が得られるのかは特定できませんでした。

1. メロネムvsピペラシリン・タゾバクタム

2. 培養検査陽性vs陰性

3. グラム陰性菌vsグラム陽性菌

4. 腎代替療法ありvsなし

5. 呼吸器感染症vsその他の感染症

6. 敗血症vs敗血症性ショック

7. 男性vs女性

 

90日死亡率に関して、NNT (Number needed to treat) 26となり、結構いいじゃないと思いましたが、いかがでしょうか。

 

RCTでは渋い結果となりましたが、メタアナリシスでは優位性が示されました。

 

シリンジポンプの必要数や、ルートの数、配合変化、院内ルールや薬局との取り決めなど実施するうえではいくつかハードルはあるかと思いますが、ガイドラインを変えうるほどのインパクトはありそうです。

 

但し、あくまでICUで生まれたエビデンスであることには注意が必要です。初期対応では従来通りの短時間の間欠投与を実施するプラクティスは変わらなさそうです。

 

 

 

続いて、聖路加国際病院の宮本から、エコーに関する3文献です。

 

Shokoohi H, et Al. Optimal bowel diameter thresholds for diagnosing small bowel obstruction and surgical intervention with point-of-care ultrasound. Am J Emerg Med. 2024 Jul 14;84:1-6. 

PMID: 39043061  DOI10.1016/j.ajem.2024.07.019

腸管径の拡大の判断基準は?」

 

今年6月の文献紹介で小腸閉塞(SBO)POCUSに関わる文献を紹介しました(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001294)

 

SBOを疑う所見の一つとして腸管径の拡大が挙げられますが、皆さんは何cmを基準に判断していますか?

 

多くの文献では過去のCTを使用した研究の結果をもとに2.5cm以上を陽性の基準にしていますが、一方でPOCUSでの測定とは結果が異なるという報告もあります

 

今回、SBOの診断がついた計367名を検討したところ、

従来よく用いられる腸管径>2.5cmでは

感度85.2%( 95%CI 78.3%-90.6%)、特異度59.1%( 95%CI 52.4%- 65.6%)、でした。

 

AUCをもとに最適閾値を検討したところ、

腸管径>2.75cmが、感度71.8%(95%CI: 63.7%- 79.1%)、特異度67.1%(95% CI :60.6%-73.2%)AUC:076の最大値を認めました。

 

SBOに対するPOCUSでは腸管径の閾値を従来より少しだけ大きい>2.75cmに変えてもいいのかもしれません。

 

ただし、積極的に疑いたいのか、それとも除外したいのか、によって必ずしもこの閾値に依存しなくても良いでしょう。

また、前回紹介した内容のto-and-fro signKeyboard signや腹水などと合わせることで自分の中での検査前確率をグッと上げることができるでしょう。

 

ちなみに今回の研究では

最大感度は<1.7cm100%(特異度:21.8%)最大特異度は>4.0cm90.7%(感度:28.2%)でした。

 

 

 

Maria A. Parker, et al.The Lipliner Sign: Potential Cause of a False Positive FAST Examination,The Journal of Emergency Medicine,2024 

https://doi.org/10.1016/j.jemermed.2024.06.013

FAST偽陽性って何をみてるの?」

 

FASTで陽性だと思ったのにCTで何もなかった、後輩がFAST陽性と判断したけどCTでは何もなくてフィードバックに困った、経験をしたことはないでしょうか。

 

それに対して一つの答えとなりうる所見に関して述べられた文献です。

 

今回報告された”Lipliner Sign”は、肝臓や脾臓などの固形臓器の縁にあらわる線状の低エコー域です。

遊離液による低エコー域は楔形で組織平面に沿って徐々に幅が小さくなりますが、Lipliner Signによる低エコー域は線状で幅が変わらないのが特徴です。

 

過去に似たようなFASTの偽陽性所見としてDouble Ring Sign(DRS)が報告されています。

DRSでは、肝臓と腎臓の間の低エコー領域(腎周囲脂肪)が高エコーの線(Gerota筋膜)で輪郭を描出されることにより生じますが、Lipliner Signでは高エコー域で囲まれない点が特徴です。

 

Lipliner Signの特徴を知っていると、偽陽性が疑わしい症例においては初回FASTの結果を陽性としてチームに共有するのではなく不確定として経時的な評価を意識することができるようになり、不要な放射線検査や造影剤使用を減らすことができるかもしれません。

 

 

こちらの文献、無料で読むことができますので是非ご参照ください!

 

 

Smit MR, et al. Lung ultrasound for diagnosis and management of ARDS. Intensive Care Med. 2024 Jul;50(7):1143-1145. 

PMID: 38656359 DOI: 10.1007/s00134-024-07422-7

LUS-ARDS Score

 

コロナが流行って以降、ARDS肺エコー駆使して評価する機会も増えたのではないでしょうか。

 

実際に、2012年のベルリン定義ではレントゲンもしくはCT検査で評価することが前提となっていましたが、2023年に公表されたARDSの新しい国際定義においては、肺エコーで両側にB-linesもしくはconsolidationsを認めることが追加記載されておりその有用性はいうまでもないでしょう。

 

ただ、ARDSの重症度によってそのエコー画像の見え方も変わるよね、ということで数値化したものが今回紹介するLUS-ARDS scoreになります。

 

実際の画像はFigure 1を参照いただければと思いますが、

Score 0A-linesのみ

Score 1<50%の範囲のB-lines

Score 2>50%の範囲のB-lines

Score 3consolidation

としています。

 

もちろんこれらの所見だけでは心不全に伴う肺水腫などとは区別しきれないので、ARDSに特徴的な「“Abnormal pleura/ Subpleural consolidations”も同時に評価しましょう」

ということに関しても記載されています。

 

これらの局在性やスコアの変化を観察することで、CTを繰り返すことなくARDSの経日的な定量評価ができそうです。

 

ICU管理中の評価に関して触れられた文献ではありますが、救急外来においてもBLUE protocolと組み合わせることで、診断に迫る、かつその重症度を予期することができそうです。

特に、画像検査へ行く余裕がない場合など、準備デバイスの選択にも役に立つかもしれません。

 

 

京都府立医科大学附属病院 救急医療科 中村侑暉

聖路加国際病院 救急部・救命救急センター 宮本颯真