2024/07/06 文献紹介
7月も始まって1週間ですが、竪、山本の東京ベイコンビの文献班から文献紹介をお届けします。
今回は以下の2文献です。
① 小腸閉塞に対するPOCUSの精度
② NIVを用いた挿管前酸素化(PREOXI)
東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科(救急外来部門)の竪です。私からは小腸閉塞に対するPOCUSの精度に関する研究を紹介します。
①Krol, Katarzyna et al.
“Integrating Pre-test Probability and Point-of-Care
Ultrasound (POCUS) in the Emergency Department (ED) Diagnosis of Small Bowel
Obstruction (SBO).”
Cureus vol. 16,3 e56397. 18 Mar. 2024,
doi:10.7759/cureus.56397
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38638773/
急性腹症でエコーを実施し、keyboard signやto-and-fro signがあれば、CT撮像して腸閉塞で間違いない事がほとんどだなという印象を持っている先生が自分含めて多いのではないでしょうか?実際、先行研究で、POCUSは感度92%、特異度94%とCTに近い精度である事が示されていました。今回はアメリカのニューヨーク州の単施設で、検査前確率と合わせたPOCUSの精度が調べられました(gold standardはCT)。
結果は、感度・特異度については前述の先行研究とほぼ変わらない結果でした。検査前確率と組み合わせた検討については、検査前確率がhighのケースで、POCUSが陽性、陰性の場合には、検査後オッズがそれぞれ39.6%、0.4%でした。一方検査前確率がlowのケースでは、POCUSが陽性、陰性の場合には、検査後オッズがそれぞれ2.1%、0%でした。ちなみに検査前確率は、high(>80%)、medium(50-80%)、mild(20-49%)、low(<20%)と分類されています。
Discussionでは、検査前確率がhighの場合にはPOCUSが陰性でも、他の原因精査のためにCTを撮像する事に変わりはないので、lowの場合にPOCUSの結果がCT撮像をするか否かに関わると書かれていました。陰性ならCTは不要ですし、陽性でもCTは有用でないかもしれません。NNTならぬNNS(number needed to scan)が50以下と本文では記載されてました。検査前確率がlowで、POCUSが陰性でも、腹痛があればCTを撮像する事にはなりそうですが。
POCUSを実施したのはPOCUS資格のある救急医(17人もいるようです!)である事は大きなlimitationですが、小腸閉塞に対するPOCUSの精度の良さを再確認できる研究だと思いました。
後半は山本です。今回は、挿管前の酸素化にNIVを用いたら!?というRCTをご紹介します。
②Gibbs, Kevin W
et al.
“Noninvasive
Ventilation for Preoxygenation during Emergency Intubation.”
The New England journal of
medicine vol. 390,23 (2024): 2165-2177. doi:10.1056/NEJMoa2313680
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38869091/
ERやICUで挿管する際、前酸素化は大切です。
NIVを前酸素化に用いること、あると思います。
では、エビデンスってどうなのよ!?ってなると、実はあまりエビデンスがありませんでした。
MACMANN試験の事後解析ではNIV >
BVM > NRBという結果でしたが(PMID: 30707125)、NIVの有用性を検討した小規模のRCTでは、相反する結果が出ています(PMID: 16627862, PMID: 29406184)。
今回紹介する研究は、ER7箇所とICU17箇所で実施され、1,301名の成人挿管患者がランダムに最低3分間のNIV(FiO2 1.0,
EPAP≧5cmH2O, IPAP≧10cmH2O)か酸素マスク(BVM 用手換気なし
or NRB, ≧15L/min)による前酸素化に割り付けられています。
ERとICU、両方から対象患者を集めたというのはポイントです。
結果、主要アウトカムの低酸素血症(SpO2<85%)の発症率はNIVで酸素マスクよりも低いとのことでした(NIV9.1% vs 酸素マスク18.5%)
NIVは心停止の発生率も誤嚥リスクも増加させません。
またサブグループ解析ではBMI≧30の患者に特に効果を発揮しました。
NIVすごい!!となりそうですが、若干注意が必要です。
緊急挿管が必要、すでに陽圧換気をされていた、嘔吐・吐血など誤嚥リスクありの患者は除外されています。
切羽詰まっておりNIVを準備する余裕がない、呼吸状態が悪くすでに陽圧換気をしていた、こんな人達は除外されていそうです。
対象患者のconditionも6割が意識障害、5割弱が敗血症です。
それを反映してか、挿管1時間前の最低SpO2の中央値は両者とも95%、薬剤投与時の酸素化中央値もSpO2 100%なんですよね。
そこまで酸素化はキツくなさそうです。ただサブグループ解析では、低酸素血症を伴った急性呼吸不全に効果が高かったみたいですよ。
また明らかに誤嚥のリスクが高くない人では、NIVを用いた陽圧換気は安全であることが証明されたとも言えます。
ではそういう人全員に挿管前にNIVを用いるかと言われると...ルーチンでは不要と思いますし、他の陽圧換気の手段がありますし、回路のコストもかかります。
肥満や急性呼吸不全の人には、予防的に使用しても良いかもしれない。
そしてもう一つ大切なこと。
実はサブグループ解析でERの挿管に絞ると、差がついていません!!
アレ、今までの紹介文は何のためだった...!?
それでもNIVが有用なのは実感しています。
以上、竪、山本がお届けしました。次回もお楽しみに。