2024/07/18 文献紹介
7月前半の文献紹介をお届けします!
いや~、本当に暑いですね。
この時期といえばやっぱり、敗血症、ケガ、そして熱中症ですよね。
今回は、それに関連した3つの文献をご紹介します!
①敗血症性ショックに対する血管収縮薬投与のタイミング
②必見!小児頚椎損傷のPECARN予測ルール
③熱中症のガイドラインを見直しておこう
①Ahn C, et al. Comparison of early and
late norepinephrine administration in patients with septic shock: a systematic
review and meta-analysis.
Chest. 2024 Jul 5:S0012-3692(24)04581-1.
Epub ahead of print.
PMID: 38972348.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38972348/
敗血症性ショックに対するノルアドレナリン投与のタイミングは議論の的となっています。
EMA文献班からもCLOVERS試験を紹介しました。
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001261)
さてさて、最近発表された「日本版敗血症診療ガイドライン 2024」を見てみましょう。
「低血圧を伴う敗血症に対する初期蘇生において、蘇生輸液と並行して、早期に血管収縮薬を投与することを弱く推奨する(GRADE 2C)」と記載があります。
どちらかというと血管収縮薬を早めに使用するのがトレンドになっています。
実臨床ではどのようなタイミングで血管収縮薬に手をのばしていますか?
この議論に関するメタ解析が出たので紹介します。
成人の敗血症性ショックに対するノルアドレナリン投与のタイミングに基づく転帰の評価がされたRCTおよび観察研究を対象にしました。
このメタ解析は12研究7281人が対象となり、最近の大規模RCTであるCLOVERS試験も含まれています。
ノルアドレナリン投与のタイミングについて、早期群と後期群の分類は各試験で使用された定義に従ってなされています。
たとえば、CLOVERS試験であればランダム化(輸液1-3Lを受けた時点)から中央値1.8時間、他の研究ではER受診から中央値25分、輸液開始から中央値18分でのノルアドレナリン投与などと早期ノルアドレナリン投与の定義は研究によりばらつきは大きいです。
大体ER受診または輸液開始から1-3時間以内ということに収まりそうです。
primary outcomeである死亡率には群間差はありませんでした。
secondary outcomeでは、これまでの試験でよく見てきたように早期投与群で肺水腫発生率の低下、人工呼吸器不使用日数の増加が報告されました。
最新のRCTを含んだメタ解析であり、最近のトレンドから早期ノルアドレナリン投与によるメリットが強調される可能性を期待しながら読んでいましたが、
優劣をつけられるような結果にはなりませんでした。
しかし、肺水腫を避けられる潜在的なメリットはありそうです。
まだノルアドレナリン投与の最適なタイミングはわかっていないと言わざるを得ませんが、
ガイドラインの推奨と同じように、ショックに対して輸液と並行してノルアドレナリン投与を行う自分の診療はこれまで通りになりそうです。
「ノルアドレナリンを早く投与する」ことから「輸液を制限する」ことが強調されすぎて、蘇生がうまくいっていないシーンを見受けます。
一昔前は大量輸液をすることで、ER診療やってる感というか、してやったり感というかそんな感覚を感じることがありました。
でも、現在ではあまり多く輸液をするとそれだけで時代遅れな医療をしているとみられているような罪悪感を感じることがあります。
トレンドとは逆なのかもしれませんが、この極端な解釈をしてしまいがちな流れを少し不安にも感じます。
輸液と血管収縮薬は歯車のようにカチッと合えば、有害事象を起こさずにうまく治療ができることを経験します。
両輪が揃ってベストな治療になります。
「Best is best.」を目指して、適切な輸液と血管収縮薬投与を行う意識が重要ではないでしょうか。
少し本筋とはずれてしまいましたが、ノルアドレナリン投与の最適なタイミングが解明されるのが楽しみですね!
②Leonard JC, et
al. PECARN prediction rule for cervical spine imaging of children presenting to
the emergency department with blunt trauma: a multicentre
prospective observational study.
Lancet Child Adolesc
Health. 2024 Jul;8(7):482-490.
PMID: 38843852.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38843852/
小児頚椎損傷のPECARN予測ルールがついに出ました!これは必見ですね!
米国のPECARN提携小児外傷センターで行われた研究です。
対象は外傷チームにより診療された、鈍的頸部損傷が疑われるまたは既知の鈍的頸部損傷がある、救急搬入された患者です。
合計22430人が登録され、最終的に433人が頚部損傷を特定されています。
※ここでの頚部損傷の定義は、頚椎骨折、靭帯損傷、頸部脊髄内出血、椎骨動脈損傷、頚髄損傷です。
対象となった患者の約半数が導出コホート、残りの半数が検証コホートに割り振られました。
これらの患者のデータを使用して臨床予測ルールを導出および検証して、頚部損傷の主要なリスク要因を特定しました。
そのリスク要因を、高リスク要因と無視できない(中等度の)リスク要因とに分類しました。
そして、それぞれに対してCT or レントゲンを考慮することとしました。
・高リスク要因:CTを考慮する
-意識状態の変化(GCS 3-8 または AVPU = U)
-ABCDの異常
-診察で神経学的異常所見あり
・無視できないリスク要因:レントゲンを考慮する
-首の痛みまたは後頚部正中の圧痛
-意識状態の変化:GCS 9-14、AVPU = VまたはP、その他の意識状態の変化の兆候
-重大な頭部または胴体の損傷
・上記リスク因子がない場合:画像診断を行わないことを推奨
こういった高リスク要因と無視できないリスク要因を組み合わせて使うことで、感度94.3%、特異度60.4%、陰性的中率99.9%という結果が示されました。
見逃された29人に関して、20人が分類ミス、9人は手術介入を要さない損傷でした。
ちなみに、サブグループ解析では被虐待児を評価しており、感度や陰性的中率はおおむね変わりませんでした。
見逃しが最小限にもかかわらず、CT使用が半減したことは大きな収穫と言えそうです。
個人的に、PECARN予測ルールができてよかったと感じたことは2点ありました。
1点目は、やっと小児に使える予測ルールができたことです。
頸部損傷に関しては、これまでNEXUSやCCRといった臨床予測ルールを使用していました。
でも、小児分野にはあまり強くありませんでした。CCRは16歳未満には適用できませんし、NEXUSは1歳以上(~101歳まで)の小児にも使うことができましたが、対象となった小児が少数かつ頸部損傷は1%未満しか含まれていない弱点がありました。
PECARNの予測ルールはこの点をクリアしています。
2点目は、画像検査の推奨が示されたことです。
これまでの臨床予測ルールでは画像検査を推奨されていてもCTかレントゲンかの具体的な推奨はありませんでした。
PECARNはこの点が優秀でしっかり指示してくれています。
また、実際にCT使用が半減したのは子供にとって有益と考えられます。
ぜひ日常診療に取り入れていきたい臨床予測ルールだと思いました。
外的妥当性を評価する研究がこれからどんどん出てくるのでしょうね。
③Eifling KP, et al. Wilderness Medical
Society Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Treatment of Heat
Illness: 2024 Update.
Wilderness Environ Med. 2024 Mar;35(1_suppl):112S-127S.
PMID: 38425235.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38425235/
(※日本版熱中症ガイドライン(案)が先日公表されましたが、これから正式なガイドラインとして発表されると思いますのでそちらを改めてご参照ください)
熱中症まっさかりですね!熱中症のガイドラインを見ておきましょう。
熱中症による高体温をどれだけ早く下げられるかどうか、が初期診療のカギです。
まずはそのスイッチを入れることが重要ですが、
日本版熱中症ガイドラインでは重症度分類が変更され、より早くスイッチを入れられるように工夫されています。
これまでにIII度としてきた重症群の中にさらに注意を要する最重症群があるということで、IV度「深部体温 40.0°C以上かつ GCS≦8」が新たに提唱されました。
この最重症群ではactive coolingを含めた集学的治療を早急に開始することが推奨されています。
※active coolingとして冷水浸水、蒸散冷却法、胃洗浄、膀胱洗浄、血管内体温管理療法、体外式膜型人工肺、腎代替療法、ゲルパッドによる水冷式体表冷却、クーリングブランケット、局所冷却が挙げられています。
では、実際の診療でどのactive coolingを選択すればよいのでしょうか?
日本版熱中症ガイドラインでは、明確な推奨はできないとしてどれを冷却手段として第一選択とするかは明言されていません。
一方、WMSのガイドラインでは冷水浸漬を第一選択として推奨しており、浴槽がない場合の代替手段に関しても記載されています。
たとえば、コロナ窩によく見かけた遺体収納袋に患者と氷を詰めて、顔を出してファスナーを閉め、10分間パッキングするなど。いろいろ工夫ができそうですね。
他にも血管内体温管理療法、体外式膜型人工肺、腎代替療法、ゲルパッドによる水冷式体表冷却などについても言及はされていますが、氷水に入れること以上に時間と特別な機器の準備が必要になり、冷却の遅延の可能性があるとしています。
結局は各施設の実情に合った治療法を選択するしかないように思います。
最高効率で治療できるよう事前に戦略を練りましょう!