2024.03.06

2024/03/06 文献紹介

今回の担当は東京ベイ浦安・市川医療センターの竪 良太と聖マリアンナ医科大学病院の山本一太です。

今回ご紹介する文献は以下の4つです。

①CPR中、胸骨圧迫を中断せずに大腿動脈でのドップラーエコーでROSCを判断できそう
②小児敗血症・敗血症性ショックの新基準Phoenix sepsis criteria
③脳出血患者への抗凝固薬のリバースのタイミングと予後の関連
④転院搬送が脳梗塞患者への血管内治療の成績に及ぼす影響

東京ベイ・浦安市川医療センターの竪 良太です。私からは2つの文献を紹介します。

① Romolo J Gaspari, et al. Femoral Arterial Doppler Use During Active Cariopulmonary Resuscitation
Ann Emerg Med 2023 May; 81(5): 523-531

  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36754697/

1つ目は胸骨圧迫の中断なしに大腿動脈でのドップラーエコーでROSCを判できるかもしれないという概念実証研究です。

以前「大腿動脈でのパルスドップラーを用いたCPR中のパルスチェックは有用なのか!?」という文献を紹介させていただきました( https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001240

)。その際は胸骨圧迫を中断中に大腿動脈でのパルスドップラーをチェックするというものでしたが、今回の研究ではなるべく胸骨圧迫の中断時間を減らすために、胸骨圧迫を継続した状態で大腿動脈でのパルスドップラーをチェックしています。

胸骨圧迫中のパルスドップラー、胸骨圧迫中止中のパルスドップラー、心エコーの3つを16人のCPA患者に実施し、自己心の拍動をCPRの作りだした拍動と区別できるか、パルスドップラーでの自己心の拍動の速度や頻度は心エコーでの心臓の拍動の状態と相関するかを検討しています。

Figure1に胸骨圧迫中と中止中の大腿動脈でのパルスドップラー所見が並んで載っており、胸骨圧迫中でも自己心の拍動を捉えられる事が分かります。また心エコーで十分な心臓収縮があれば、十分でないケースよりパルスドップラーの最大収縮期速度がわずかに大きく、頻度はわずかに多かったです。つまり胸骨圧迫中でも有効な自己心の拍動を捉えてROSCの判断ができる可能性があります。

自己心の拍動をCPRの作りだした拍動と区別できるかを調べた研究は今回初めてであり、今後はこの結果を実証する大規模研究に期待したいと思います。大腿動脈でのドップラーエコーを使用することで、パルスチェックの際に胸骨圧迫を中断せずに済み、ROSC率の改善につながるような研究が今後出てくるかもしれません。

② L Nelson Sanchez-Pinto, et al. Development and Validation of the Phoenix Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock
JAMA 2024 Feb 27; 331(8): 675-686

  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38245897/

2つ目は小児敗血症の新しい定義の紹介です。

成人の敗血症の最新の定義は2016年のSepsis-3ですが、小児に関してはこの際に見直されず、2005年に小児敗血症コンセンサス会議(ISPCC)において定義された「感染症(または疑い)による全身性炎症反応症候群(SIRS)」が使用されてきました。そしてこの度19年ぶりに小児敗血症の定義が見直される事になりました。その名もPhoenix sepsis criteriaです。

5ヶ国10施設で実施された後方視コホート研究をもとに呼吸器系、循環器系、凝固系、神経系の4臓器からなるPhoenix sepsis criteriaが作られ、敗血症は2点以上、敗血症のうち循環器系が少なくとも1点あれば敗血症性ショックと 定義されました。

Phoenix sepsis criteriaの開発は成人のSepsis-3と似ている箇所もありますが、汎用性を最大限にするために医療資源の多い状況、少ない状況の両方からの患者をデータベースに組み入れている点は異なります。他に異なる点としては病院到着して最初の24時間以内の敗血症の診断に焦点を当てています。これは小児敗血症の大多数はその時間内で診断されるからです。ちなみにPhoenix sepsis scoreには、成人のSOFA scoreに含まれている肝臓系、腎臓系が入っていません(肝臓系、腎臓系に加えて内分泌系、免疫系も含んだPhoenix-8 scoreも開発されました)。

結果ですが、4臓器からなるPhoenix sepsis criteriaは2005年のIPSCC criteriaと比較してより高い陽性的中率、同等かそれより高い感度がありました。

小児敗血症を診療する機会はかなり少ないと思われますが、今回の敗血症の定義改変をきっかけに小児敗血症について改めて勉強してみてはいかがでしょうか?Table2にPhoenix sepsis scoreが載っていますので、時間がない先生はそれだけでもチェックして頂ければと思います。

聖マリアンナ医科大学病院の山本一太です。私からは脳卒中に関する2つの文献を紹介します。

③ Time to Anticoagulation Reversal and Outcomes After Intracerebral Hemorrhage.
Sheth KN, Solomon N, et al.
JAMA Neurol. 2024 Feb 9.
doi: 10.1001/jamaneurol.2024.0221.
PMID: 38335064.

『お早めに戻しましょう』

何を戻すかというと、抗凝固薬のリバースのことです。
そう、脳出血患者の抗凝固薬のリバース、みなさんどれくらい急いでますか?

めっちゃ急ぐ人とか、急ぎますけど時間は意識しませんとか、あると思います。
まあ、急いでリバースした方が良いかも?って、チョット思いますよね。
ということで今回紹介する文献です。

この研究はGWTG strokeというレジストリを用いて抗凝固薬のリバースのタイミングと予後の関連を調べています。

9492人の抗凝固薬内服中の脳出血が対象です。
ワーファリンの85%、DOACの70.2%がリバースされており、到着からリバースまでの時間、つまりdoor-to-treatment time(DTT time)の中央値は82分でした。
82分か…みなさんの実経験と比較してどうですか?早いですか?

抗凝固薬のリバースは入院死亡率の低下と関連していました(調整オッズ比 0.74; 95%CI, 0.62-0.88)。
DTT timeを60分で区切ると、DTT time≦60分は入院死亡率低下とホスピスへの退院の複合アウトカムと関連しており、調整オッズ比は0.82(95% CI, 0.69-0.99)でした。

実は入院死亡率のみでは有意差は出ておりません。
とはいえリバースは早いほど良いというのは感覚的に理解できます。
60分以内目標は一つの指標になりそうです。
いや、普通にハードル高い…(^_^;)

④ Endovascular Thrombectomy Treatment Effect in Direct vs Transferred Patients With Large Ischemic Strokes: A Prespecified Analysis of the SELECT2 Trial.
Sarraj A, Hill MD, et al.
JAMA Neurol. 2024 Feb 8:e240206.
doi: 10.1001/jamaneurol.2024.0206.
PMID: 38363872

『お早めに送りましょう』

脳梗塞の血管内治療、今や一般的に行われてますね。
が、すべての患者が、血管内治療のできる病院に搬送されるとは限らず、転院搬送が必要になるケースもあります。

転院搬送を行う側は大変ですよね、まさに時間との戦いです。
刻一刻と時間が過ぎていく中で、その間にも患者さんのペナンブラが消失していくと思うと震えますね…

搬送までにかかった時間が長い場合、果たして本当に治療の恩恵を受けられるのか不安になります。
安心してください、結論を言いますと、搬送後も血管内治療は効果がありそうです。

SELECT2 trial(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36762865/)という血管内治療のRCTの二次解析です。

転院搬送された211人のうち108人(51.2%)が搬送後血管内治療を受けています。

搬送時間の中央値は176分(128-231)でした。
この時間は、最初の施設で画像撮影した時間から、搬送先の施設で再撮影されるまでの時間で、実際の搬送にかかった時間とは異なるので注意が必要です。

搬送時間が3時間未満だった場合、良好な機能的予後と関連しているのですが(調整オッズ比 1.92; 95% CI, 1.21-3.04)、搬送時間が3時間を超えていても、血管内治療による機能的予後の改善が見られたようです。(調整オッズ比 1.15; 95% CI, 0.73-1.80)。

ただし、搬送後の画像所見の悪化は見られます。
血管内治療を受けた患者では、搬送前後でのASPECTSが1(0-3)ポイント悪化しており、搬送1時間あたりでは0.4(0-0.9)ポイントの悪化が見られました。
搬送によるASPECTSの悪化は機能的予後の悪化と関連していました(調整オッズ比 1-搬送前後のASPECTS値の低下あたり 0.89; 95% CI, 0.77-1.02)。

搬送時間や搬送による画像所見の悪化はあるものの、搬送しても血管内治療の恩恵は受けられるそうです。
とはいえなるべく早く搬送するに越したことはなさそうですね。