2024.02.01

2024/01/16 文献紹介

EMA文献班の徳竹雅之です。

能登半島地震において現地で活動されている方々、そしてすべての医療従事者の皆さまの日々の奮闘に心から感謝と敬意を表します。

2024年初回の文献紹介をお届けします。今年もEMA文献班をよろしくお願いします。

①Rahimi M, et al. The Impact of Double Sequential Shock Timing on Outcomes During Refractory Out -of-Hospital Cardiac Arrest.
Resuscitation. 2023 Dec 11:110082. PMID: 38092182.

難治性VFに対するDSED、実用化してますか?

文献班からDOSE VF試験について紹介したことがありました → 
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001257

除細動に3回連続で反応がないことで定義される難治性VFに対して、2組のパッドと除細動器を連続で使用する方法をDSED(Double Sequential External Defibrillation)なんて称するのでした。

DSEDは標準的な除細動方法に比較して、生存退院率を増やすという結果が報告されていました。

ただ、一言にDSEDといっても時期によって少しだけ手法が異なっていました。

2015年~2018年頃までは1人の医療従事者が2つの除細動器のショックボタンを同時押しをしていました。
一方、2018年以降のDOSE VF試験に組み込まれた患者に対しては、除細動器損傷の可能性を考慮して1人の医療従事者がショックボタンを順番に、その間隔(DSED間隔)が1秒未満になるように素早く押されていました。

この「DSED間隔」がどのくらい影響するかを後ろ向きに検討した研究を紹介します。

2015年1月~2022年5月22日までの期間に、救急隊が出動して難治性VFとして最低1回のDSEDを行った成人OHCA患者を対象とした後ろ向きコホート研究です。

除細動器の記録を解析して、2回目の除細動が行われるまでの時間が特定されました。ただし、70msec以下の間隔はそれ以上の細分化はできなかったそうです。

106人が対象となり、69例がDOSE-VF試験(ショックボタン順番押し)に登録され、37例がRCT前にDSEDを受けていた患者(ショックボタン同時押し)でした。

全体としてDSED間隔の中央値は549msecであり、当然ながら同時押しの時期にとられたデータは順番押しの時期のデータよりもDSED間隔が短いことがわかりました。

結論として、DSED間隔が75msecを超えるとそれ未満の間隔に比較してROSC率が低下する結果になりました(OR 0.37、95%CI 0.14-0.98)。

生存退院率や神経学的転帰については有意差がありませんでした。

DSED間隔についての研究は動物実験でしかなかったため、ヒトに対する試験としてはこれが初めての研究でした。
後ろ向きのデータ集めでしたが、さらに大規模かつ前向きの研究が行われることになるのでしょう。

同じ時期の報告から同時押しをした場合の除細動器損傷率は0.1%程度だったという結果も出ていました。…これなら許容範囲!?

現時点では、DSEDをやるなら素早く同時押し、がよさそうです。

②Thiessen MEW, et al. Clinical Policy: Critical Issues in the Evaluation and Management of Adult Out-of-Hospital or Emergency Department Patients Presenting With Severe Agitation: Approved by the ACEP Board of Directors, October 6, 2023.
Ann Emerg Med. 2024 Jan;83(1):e1-e30. PMID: 38105109.

救急外来には重度の興奮状態でやってくる患者がしばしば見受けられます。
特に年末年始は多かったのではないでしょうか…?

言語的な興奮緩和が第一選択ではありますが、それだけではどうしても患者とスタッフの安全性を担保できないことがあり、
その場合には薬物を使った鎮静を試みることがあります。

アメリカ救急医学会より、興奮して救急外来にやってくる患者に対する薬物治療についての臨床指針が発表されましたので紹介します。

学会によれば、ドロペリドールとミダゾラムのコンビネーションが最も強力なタッグとされています。
興奮する患者の治療において最も迅速かつ有効であることが文献で示されています。

ルート確保がされていればよいですが、強い興奮状態の患者に対して速やかなルート確保は困難であり、針刺しのリスクが高まります。
原則的には、筋注が第一選択になるでしょう。

ドロペリドールとミダゾラムの組み合わせならば、それぞれ5mgを筋注するのがよさそうです。

また、ドロペリドールが使用できない場合には非定型抗精神病薬とミダゾラムの組み合わせも推奨されています。
ドロペリドールの添付文書を読むと外来での使用は禁忌と記載されていますので、オランザピン5mg筋注が代替薬になるでしょうか。

個人的にはミダゾラム5-10mg筋注を単剤で使用することが多いですが(投与量は年齢や体型に合わせて)、過鎮静や呼吸抑制といった副作用の観点から抗精神病薬を使用する方がよいと記載がありました…。

ケタミンの使用も注目されており、その速効性と信頼性の高さが魅力ですが、安全性についてはまだ検討の余地があるようです。
日本だと麻薬として保管が必要なので投与へのハードルが少し高そうです。

薬剤ごとの直接比較をした研究の蓄積が待たれる分野ですので今後も注目してみていきたいと思います。

いろいろ紹介しましたが、結局は使い慣れた(もしくは病院ごとに定めた)薬剤を使用すればよいと思います。
鎮静して満足するのではなく十分なモニタリングとともに重篤な疾患が隠れていないか検索して治療することを忘れないように診療したいですね。

③Lai PC, Lai CH, Lai EC, Huang YT. Do We Need to Administer Fludrocortisone in Addition to Hydrocortisone in Adult Patients With Septic Shock? An Updated Systematic Review With Bayesian Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials and an Observational Study With Target Trial Emulation. Crit Care Med. 2023 Dec 29. doi: 10.1097/CCM.0000000000006161. Epub ahead of print. PMID: 38156911.

敗血症性ショックへの補助治療として頻用されるステロイドについての研究です。

一定量の血管収縮薬投与にもかかわらず血圧低下が続く場合には、ヒドロコルチゾン(HC)を使用していることと思います。 SSCG 2021ではHC 200mg/dayの投与が条件付きで推奨されています。

さて、HCとは少し薬理学的作用が異なるステロイドであるフルドロコルチゾン(FC)を併用することはありますか? 私自身はあまり使っていませんが、J-SSCG 2020ではHCとFCの併用が推奨されてはいます。

どうすればいいのでしょうか。

敗血症性ショックを呈する成人患者でHC+FC、HC単独、プラセボを投与した際の有効性と安全性を評価したネットワークメタ解析を紹介します。

19研究95841例が対象となった大規模な研究です。 SUCRAによる評価では、primary outcomeである短期死亡率はHC+FC群でHC単独群やプラセボ群を上回り、治療の優位性がある確率が高いという結果となりました。

有害事象としての上部消化管出血や重複感染を増やしませんが、高血糖を増やす可能性があることが指摘されました。

NNTは21で、なんか使ってみたくなる魅力的な結果です。

ただし、エビデンスの確実性は低く、NNTの範囲も12-500と非常に広いのが難点です。

昨年はビタミンCについて否定的な研究が多かったように思いますが、今年はこの分野の研究がさらに出てくるのでしょうか。 症例を選んでステロイド併用療法を試してみてもよさそうですが、さらなる研究結果が待ち遠しいところです。

敗血症について、もう1ネタ。

④Whitehouse T, Hossain A, Perkins GD, Gordon AC, Bion J, Young D, McAuley D, Singer M, Lord J, Gates S, Veenith T, MacCallum NS, Yeung J, Innes R, Welters I, Boota N, Skilton E, Ghuman B, Hill M, Regan SE, Mistry D, Lall R; STRESS-L Collaborators. Landiolol and Organ Failure in Patients With Septic Shock: The STRESS-L Randomized Clinical Trial. JAMA. 2023 Nov 7;330(17):1641-1652. doi: 10.1001/jama.2023.20134. PMID: 37877587; PMCID: PMC10600724.

頻脈を伴う敗血症性ショックに対して、頻脈を抑えてみたくなる衝動にかられることがあります。

これまでの研究のメタ解析では、頻脈を伴う敗血症性ショックに対するランジオロールの使用は28日死亡率を減少させるという結果が出ていました。

おせおせムードにちょっと待ったをかけた、イギリスの40のICUで行われたオープンラベル多施設RCTを共有します。

ノルアドレナリン>0.1γを24時間使用しているHR≧95bpmの敗血症性ショック患者126人が対象となり、標準治療群とランジオロール静脈内投与群とに均等に割り付けられました。

primary outcomeはランダム化から14日間およびICU滞在中の平均SOFA scoreで、両群における有意な差はありませんでした。

ランジオロール使用は正の効果があるのではないかと思っていたためこの結果には少し驚きました。

早期に試験が終了されたことや中長期的な患者中心のアウトカムを論じたものではないところなどがlimitationです。

敗血症というコモンな分野にも議論がある領域がたくさん残っていて、臨床ってほんと面白いですね。