2023.12.04

2023/12/04 文献紹介

救急医学会も終わり、いよいよ12月になりました。文献班から11月後半の文献紹介をお送りいたします。
今回は中東遠総合医療センター 大林と湘南鎌倉総合病院 田口が担当します。

まずは湘南鎌倉 田口より、overnightに関するERらしい文献です。
①Melanie Roussel, et al. Overnight Stay in the Emergency Department and Mortality in Older Patients.
JAMA Intern Med. 2023 Nov 6:e235961.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37930696/

Emergency Department(ED)でのovernightを行った経験はありますか?
Overnightとは入院が必要な患者が病棟に入院することができず、救急外来のストレッチャー等の上で夜間を過ごすことを指します。

本研究は高齢患者でovernightによって死亡や有害事象が増えるかを検証しました。

フランス全土の 97 の病院で、2022年12月12日から14日に救急外来を受診し入院した75 歳以上の患者を対象とした前向きコホート研究です。
0時から午前 8 時までEDに滞在してから入院したED群と、0時前に病棟に入院した病棟群の2群を比較しました。ICU入室、0時から午前8時に入院した患者は除外されています。

1598人が解析され、707人(44%)がED群、891人(56%)が病棟群でした。
病院内死亡は各群15.7% vs 11.1%とED群で高く、aRR1.24(95%CI:1.04-1.49)でした。ADLの低い患者に限定すると、aRR1.81(95% CI:1.25-2.61)でした。
また有害事象もED群で高く、30.4% vs 23.5%でaRR1.24(95%CI:1.09-1.85)でした。

私自身はovernightを時々経験しています。理想的にはovernightを0にすることですが、避けられないこともあります。
死亡が増えるメカニズムについてはまだ未知の部分もありそうですが、この論文を受けて、overnightを減らす取り組み、避けられない場合は高齢者を優先的に入院させるなどの順位付け、有害事象対策などを通してより安全なovernightの方法を考えることなどが重要だと感じました。

次は中東遠総合医療センターの大林より、役立つ小ネタとして2つの文献をご紹介いたします。

②Cotton J, et al. The lateral approach water bath: A novel method of ultrasound imaging of the hand.
Am J Emerg Med, Article in Press.

「手エコーは側方アプローチ法(water bath)で画質アップ!」

手足の骨折をエコーで見つける際に、waterbathテクニックを使うといいぞ!という文献を2022年1月に紹介しました。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35016093/
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001237

今回はそのwaterbathテクニックを進化させた側方アプローチを紹介します。
従来のテクニックでは、受傷した手とエコープローブを水槽に浸して水を介して骨や軟部組織を描出していますが、側方アプローチでは水を入れた深めのポリプロピレンケースに手だけを入れて、ケース越しにプローブを当てます。
従来の方法では、関心領域(特に橈側・尺側の側面)を描出するために患者の手を動かす必要があり、時には疼痛のためそれが制限されることもありました。
しかし、側方アプローチでは患者はケースに手を突っ込むだけで、術者は様々な方向から描出することができるようになります。
またこの方法のメリットは、プローブを水中にキープする従来の方法と異なり、ケースにしっかりプローブを固定できるため、安定した画像を得ることができることにあります。

今回の研究は、ケースを介してエコーを当てると音響インピーダンスの影響で画質が悪くなるのでは?という懸念を払拭すべく、従来のwater bath法と側方アプローチ法で得られた画質の比較を行ったものです。

著者の一人の手をモデルに、それぞれの方法で骨や関節、腱や爪床の静止画を40枚撮影し盲検化された状態で2人が評価しました。評価項目は「画質」と「意思決定を支援する有用性」で1(非常に悪い)から5(非常に良い)までのリッカートスケールで評価されました。

結果、すべての画像において「画質」「有用性」ともに側方アプローチ法のほうが高いスコアとなりました。
(画質スコア:4.2 vs 2.6、有用性スコア:4.0 vs 2.6 (ともにp値 < 0.001)

ポリプロピレンケースにプローブを固定できることでモーションアーチファクトが軽減されるということ、そしてポリプロピレンの音響インピーダンスがとても低いため画質にほとんど影響しなかったことが、画質が良くなった理由のようです。

早速100均(全国チェーン)に行って深めのポリプロピレンケース(粉ものストッカー)を購入し、自分の手で試してみたところ、とても鮮明な画像を得られて感動しました!
今回の研究で使われたような背の高いポリプロピレンケースはなかなか見つけられませんが、指を曲げることができれば手関節ぐらいまでは容易に観察することができます。
みなさんもぜひ試してみてください。

③Francesco B , et al. Simple detecting of elevated ICP through liquor flow after lumbar puncture .
Am J Emerg Med. 2023 Oct :30:75:128-130
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37944297/

「髄液圧上昇は流出速度から推定できる!」

髄膜炎などを疑って腰椎穿刺をした際に測定する髄液圧ですが、測定用のマノメータを接続したり、三活回したりするのが面倒だなと思ったことないですか?(自分はあの手順が不安定で苦手です)
マノメータを使った測定がゴールドスタンダードであるのは間違いないのですが、もし使えない状況であった場合に髄液の流出量で髄液圧上昇が推定できればいいよね、ということで行われたのが今回紹介する研究です。

皆さん、ハーゲン・ポアズイユの法則というものを覚えていますか?細い円管を通る粘性流体の流量は管の両端の圧力差と管の半径の4乗に比例し、管の長さと流体の粘性に逆比例するというものです。穿刺針の太さ、長さ、髄液の粘性が一定なら髄液圧と髄液の流出量は正比例するという点に著者たちは注目しました。

52人の患者(最終診断がせん妄、脳出血、脳虚血、脳腫瘍、CIDP、ボツリヌス症、髄膜炎、脳炎など)に長さ90mm、22Gの穿刺針で腰椎穿刺を行いマノメータで初圧を測定後、30秒間で流出する髄液の滴下数を数えました。
25cmH20以上を髄液圧上昇と定義し、17例で髄液圧上昇があり滴下数の中央値は47滴/30秒(30~74滴/30秒の範囲)、35例は髄液圧が正常で滴下数の中央値は23滴/30秒(14~34滴/30秒)という結果が得られました。
統計解析した結果、22G90mmの穿刺針を用いた場合、髄液圧上昇の最適なカットオフ値は29滴/30秒以上という結論に至りました。

今回の研究で用いられた穿刺針とみなさんが使っている穿刺針では太さや長さが異なる可能性があるため、上記の結果をそのまま使うことはできませんのでご注意ください。
(ちなみによほどの細胞増多がなければ粘性はほとんど影響しないようです)

間接的に髄液圧上昇を推定するアイデア、ぜひ頭の片隅にでもとどめておいていただけると幸いです。

以上、11月後半の3文献でした。次回もお楽しみにお待ち下さい!