2023.05.05

2023/05/05 文献紹介

EMAの皆様

EMA文献班より4月後半の文献紹介をお送りします。今回は健生病院の徳竹先生と、防衛医大の山田が担当します!
GWに入って、少し休めている方もいれば、むしろ忙しくなっている方もいるかと思います(ER医はこっちが多い!?)。
今回は5本の文献を用意しました。GWのお供にどうぞ!

①アシデミアがないDKAにご用心!
②一次性頭痛の鎮痛には酸素投与が有効!
③アルコール離脱症候群に対してフェノバルビタールってどうなん?
④外傷患者の挿管、RSIとDSI、どっちが低酸素になりにくい?
⑤「挿管失敗→外科的気道確保」はどれくらい?

①アシデミアがないDKAにご用心!
Cao S, Cao S. Diabetic Ketoalkalosis: A Common Yet Easily Overlooked Alkalemic Variant of Diabetic Ketoacidosis Associated with Mixed Acid-Base Disorders.
J Emerg Med. 2023 Mar;64(3):282-288. doi: 10.1016/j.jemermed.2022.12.023.
PMID: 36849308.

DKAの定義として、血糖値≧250mg/dL、血清または尿ケトン体の存在、pH≦7.3、HCO3≦18mmol/L、AG≧10-12mmol/Lが挙げられます。

ただし、この定義に当てはまらない「はぐれもの」がいます。

そうです、SGLT-2阻害薬常用者に発症するeuglycemic DKAです。最近は高頻度に遭遇するようになり、認知度も高いと思います。

実は、DKAにはもう1人のはぐれものがいます。その名も糖尿病性「ケトアルカローシス」。

DKAは混合性酸塩基平衡を合併することが知られています。
hypovolemiaによる代謝性アルカローシス、Kussmaul呼吸による呼吸性アルカローシス、呼吸筋疲労による呼吸性アシドーシスなどが主なものです。
これらの組み合わせにより、結果的にpH>7.3やHCO3>18mEq/Lとなったり、極端な例だとpH>7.4となることもあります。
この場合を、糖尿病性ケトアルカローシスと定義します。

実は結構多く存在しているみたいです。

2018年~2020年に入院した糖尿病、血清βヒドロキシ酪酸陽性、AG≧16mmol/Lの259人を対象とした単施設における後ろ向き観察研究です。
今回の研究ではpH>7.4の患者を糖尿病性ケトアルカローシスの定義として採用しています。

混合性酸塩基平衡異常を合併した227例のうち53例(23.3%)に糖尿病性ケトアルカローシスを認めました。
糖尿病性ケトアルカローシスと診断された全例にAG開大代謝性アシドーシスが存在していました。

アシデミアがないと"DKA"は見逃されがち。
血液ガスはルーチンでとることも多いかもしれませんが、AGやケトン体測定を忘れることなく、見逃しをしないように心がけましょう。

②一次性頭痛の鎮痛には酸素投与が有効!
Kaçer İ, Çağlar A. High or mid-flow oxygen therapy for primary headache disorders: A randomized controlled study.
Am J Emerg Med. 2023 Mar 29;68:138-143. doi: 10.1016/j.ajem.2023.03.037.
PMID: 37003031.

かねてより頭痛に対する高流量酸素療法は安全で効果的かつ安価であることから、治療選択肢として考えられていました。

…実際、使ってました?
いろんな治療薬を飲んでから来院する抵抗性の強い患者さんが多いので個人的にはしばしば使っていましたが、意外と浸透していない印象です。

三次病院のERで行われた無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー比較試験を紹介します。

一次性頭痛の治療を受けたことのある患者が対象となり、次のER受診時に本試験に組み込まれました。
治療方法として以下の4方法が全参加者に対して15分間、行われました。
 ①高流量酸素(15L/min)
 ②中流量酸素(8L/min)
 ③高流量空気(15L/min)
 ④中流量空気(8L/min)

140人が対象となり、酸素療法を受けた患者(①と②)はプラセボ(③と④)と比較して、15~60分時点でのVASが有意に低下しました。
スコアの差は30分時点で最大となりました。
なお、高流量酸素群と中流量酸素群の間には統計学的な有意差はありませんでした。高流量酸素投与群ではER滞在時間が短縮されるという効果も見られました。

頭痛に対する酸素療法のメカニズムは完全には解明されていません。
でも、安価で安全で効果もありそうなら使ってみるのはテですね。一般的な頭痛治療のスパイスとして検討してみてはいかがでしょうか。

③アルコール離脱症候群に対してフェノバルビタールってどうなん?
Pourmand A, et al. Evaluation of phenobarbital based approach in treating patient with alcohol withdrawal syndrome: A systematic review and meta-analysis.
Am J Emerg Med. 2023 Apr 5;69:65-75. doi: 10.1016/j.ajem.2023.04.002.
PMID: 37060631.

さて、次はAWS(アルコール離脱症候群)の話題です。

えっ、あんまり興味ないですか?
でも一般的なマニュアル本に書かれている内容と大きく変わってきている分野なので一度はさらっておいた方がいいですよ。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001260  を参照してください)

このまえもケタミンあたりを使って挿管を避けた管理を行って早期退院を達成できた患者さんがいました。当方地域はAUD患者が多いんです。

AWSの初期治療はBZDを使用することが一般的です。
最近では、フェノバルビタールも第一選択薬として有用なのではないかという仮説が現実的なものとなってきています。
フェノバルビタールはBZDとは異なる部位でGABA受容体に結合して効果を発揮しますが、作用の開始が早く半減期が長いためAWS管理に適しているとされます。

ただし、AWS管理におけるBZD vs フェノバルビタールについては様々な研究結果があり、まとまった見解がないのが現状です。

そこで今回紹介する研究の登場です。

AWSと診断されたER受診患者で、ERおよびICUで治療を受けた成人患者を対象とした12研究1934人を対象としたSR&MAです。
フェノバルビタールで治療されたのは41.7%(単独:18.9%、併用:28.6%)で、58.3%が別の方法で治療されていました。
その両群において、挿管リスクは同等でした。また、発作の発生率や入院期間、ICU滞在期間は同等でした。

組み込まれた研究の多くが観察研究であり、研究間の異質性が大きいため追試は必要になりますが、もっとフェノバルビタールが一般的な存在になる日は近いような気がします。
これからも研究を追っていきたいと思います。

④外傷患者の挿管、RSIとDSI、どっちが低酸素になりにくい?
Bandyopadhyay A, et al. Peri-Intubation Hypoxia After Delayed Versus Rapid Sequence Intubation in Critically Injured Patients on Arrival to Trauma Triage: A Randomized Controlled Trial. Anesth Analg. 2023;136(5):913-919.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37058727/

救急外来での挿管時に、Rapid Sequence Intubation(RSI)という手法はよく使われていると思います。
しかし外傷患者などで興奮・不穏などのため思ったような前酸素化ができない、ということがあります。
そこで今回筆者らは、Delayed Sequence Intubation(DSI)という手法を用いて前酸素化をしっかりしてはどうか、と考え今回のRCTを行いました。

デザインは、
P:外傷で救急外来を受診し、気管挿管が必要と判断された成人(インドの病院、2019年5〜10月)
※Difficult Airwayが予想される患者などは除外

I:DSI
ケタミンを0.5mg/kgずつ投与、鎮静が得られるまで(上限1.5mg/kg)
→3分間10Lマスクで前酸素化
→サクシニルコリン1.5mg/kg投与、挿管

C:RSI
3分間10Lマスクで前酸素化
→ケタミン1.5mg/kg、サクシニルコリン1.5mg/kg投与、挿管

O:挿管前後(前酸素化から挿管終了1分まで)の低酸素(<93%)

です。

最終的に解析された患者はいずれも100例ずつで、ほぼ全例頭部外傷を伴っており、GCSの中央値はDSI群で6 [四分位範囲, 4-7]、RSI群で6 [四分位範囲, 4-7]と同等でした。
Primary outcomeである挿管前後の低酸素は、DSI群で8%、RSI群で35%に発生しました。
Secondary outcomeである挿管の初回成功率はDSI群で83%、RSI群で69%という結果でした。いずれも卒後2年目の麻酔科レジデントによる挿管です。

いかがでしょうか?
頭部外傷など気道緊急ではないものの挿管が必要な場合など、DSIは1つのオプションとしてアリかも知れませんね。
初回成功率に差がありすぎな印象も受けますが、筆者らは、RSI群で手技中に低酸素が多く発生したために、一旦BVM換気を挟んだからだと解釈しています。
短い論文ですので、興味を持った方は本文をぜひ読んでみてください!

⑤「挿管失敗→外科的気道確保」はどれくらい?
Offenbacher J, et al. Incidence of rescue surgical airways after attempted orotracheal intubation in the emergency department: A National Emergency Airway Registry (NEAR) Study . Am J Emerg Med. 2023;68:22-27.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36905882/

挿管をトライするも挿管できない、しかも換気もできない(Can’t Intubate, Can’t Ventilate: CICV)…そんな時気道確保の最終手段として外科的気道確保は重要です。
と言っても頻繁に行う手技ではありません。過去の研究だと、救急外来で挿管に失敗して外科的気道確保に踏み切った例は、挿管症例全体の0.3〜1.1%と言われています。
しかしこれらはビデオ喉頭鏡が普及する前の2000年代のデータを用いた研究で、現状を反映していないと筆者らは考え、今回の研究を行いました。

本研究ではアメリカの救急外来での挿管レジストリであるNational Emergency Airway Registry (NEAR)に2016~2018年に登録された19,071例のデータを用いています。
救急外来で確実な気道確保の手段として最初に挿管を選択された14歳以上の患者は17,720例(レジストリ全体の92.9%)で、そのうち挿管できずに外科的気道確保を行われた患者は49例(0.28%)でした。 その49例のうち、25例(51.0%)が外傷患者でした。気道確保の根拠としては頸部外傷(7例:14.3%)が最も多かったようです。挿管トライ回数の中央値は2回で、ビデオ喉頭鏡を使われた例は約50%でした。細かい内訳が気になる方は本文をご覧ください。

結論として、ビデオ喉頭鏡が普及した現在、救急外来で気管挿管できず外科的気道確保が必要になるのは、挿管症例全体の0.28%(95%信頼区間 0.21〜0.37)と既報に比べるとやや低いことがわかりました。

やはり稀とは言っても、常に備えておかねばなりませんね。
ただ、解釈で少し注意が必要なのが、初めから外科的気道確保を選択された症例は除かれている(外科的気道確保の件数自体はもっと多い)ということと、気道確保の根拠として頚部外傷(おそらく本邦に少ない鋭的外傷が原因)が多いということです。
あくまで参考程度に…ですが、是非本文もご覧ください。

以上です。参考になれば幸いです!5月前半の文献紹介もお楽しみに!