2023.02.18

2023/02/18 文献紹介

EMA文献班より、2月前半の文献紹介です。
今回は、京都府立医科大学附属病院の中村と、聖路加国際病院の宮本からお送りします。

ラインナップは以下の3つです。
①AKIでも造影CT、ためらわないで!
②難治性心停止へのERCP、予後改善する?
③アルコール関連疾患に関する白書。救急外来でのCQ16選!

まずは京都府立医科大学附属病院の中村から、2文献です。

①Ehmann MR, et al. Renal outcomes following intravenous contrast administration in patients with acute kidney injury: a multi-site retrospective propensity-adjusted analysis. Intensive Care Med. 2023 Jan 30. PMID: 36715705.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36715705/

造影剤投与は、その後のAKI(急性腎障害)持続と関係なし

「造影剤腎症」という言葉がある如く(厳密にはCI-AKIという表現が正しいかもしれませんが)、腎臓に対する造影剤の悪影響は一般的な見解となっています。しかし、ここ数年で造影剤と長期的な腎機能予後に関連がないことを示唆する報告が散見されるようになってきています。

今回、紹介する文献は、ジョンズ・ホプキンス大学主導で行われた、多施設レトロスペクティブ研究です。2017年7月から2021年6月に大学関連の3病院を救急受診した患者が対象となりました。

PECOは以下の通りです。
P:18歳以上で、受診時にKDIGO AKI stage1以上の患者
E:造影剤投与あり
C:造影剤投与なし
O:退院時のAKIの持続

受診時にAKIの基準を満たさない、受診180日前までの血清Cre値の比較データがない、維持透析中、ベースの血清Cre値が4mg/dL以上、入院せずに帰宅となった患者は除外されました。

14449例が解析対象となり、2658例が造影剤投与あり、11791例が造影剤投与なしでした。
主要評価項目の「退院時のAKIの持続」は、入院中最後に採取した血清Cre値を入院前のベースラインと比較して評価され、副次的評価項目として「受診から180日以内の透析開始」が評価されました。

結果、造影剤使用とAKI持続との関連性はなく、180日以内の透析開始リスクも上昇していませんでした。
また、受診時eGFR<30 mL/min/1.73m2の患者群(5544例)や、ICU入室した重症の患者群(1853例)でもサブグループ解析が行われ、いずれの群でも同様にAKI持続との関連性はありませんでした。

Limitationとして、レトロスペクティブであること、単一の医療システムからのデータであること、入院患者のみを対象としていること、直近180日間の血清Cre値が得られなかった患者は除外されたことなどが挙げられるものの、本研究で造影剤投与とその後のAKI持続との関連性がないことが示唆されました。

少なくとも、「AKIを理由に、必要な造影CT検査を見送る必要はない。」と言えそうです!

②Suverein MM, et al. Early Extracorporeal CPR for Refractory Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med. 2023 Jan 26;388(4):299-309. PMID: 36720132.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36720132/

難治性院外心停止に対して、ECPRは予後を改善しない

これまで、pVT/VFによる難治性院外心停止に対するECPRを扱ったRCTは2件あり、ECPRでの予後改善の優位性については相反する結果となっていました。

今回紹介する文献は、そんな中に一石を投じる研究となります。INCEPTION trialと名付けられた、オランダの多施設RCTです。
2017年5月から2021年2月までに、心臓外科センターを有する10病院へ搬送された患者が対象となりました。

PICOは以下の通りです。
P:18〜70歳、初発のpVT/VF、15分以内にROSCしない目撃あり院外心停止の患者
I:早期VA-ECMOの導入(ECPR群)
C:標準的なACLS(従来CPR群)
O:30日後のCPC score 1または2(良好な神経学的予後)

15分以内のROSC、NYHAⅢ以上の末期心不全、GOLD3以上の重症COPD、播種性腫瘍疾患、妊娠、両側大腿バイパス術後、ECPRに対する既知の禁忌、DNAR、心停止からカニュレーションまで60分以上が想定、元々のCPC score 3以上、ISS>15の重症外傷は除外されました。
現場での15分間のACLSにも関わらず、心停止が継続している場合、病院への搬送が開始されました。その段階で無作為に割り付けられ、救急隊員は割り付けの結果を知りませんでした。ROSC後は、ガイドラインや施設プロトコールに従って、TTMなどの全身管理が行われました。

160例が割り付けを受け、最終的な対象はECPR群が70例、従来CPR群が64例となりました。
結果、主要評価項目である、30日後のCPC score 1または2(良好な神経学的予後)であったのは、ECPR群で20%(14/70例)、従来CPR群で16%(10/62例)であり、有意差はありませんでした(OR: 1.4, 95% CI 0.5〜3.5; P=0.52)。副次的評価項目である、退院時生存率、6ヶ月後の神経学的予後も有意差はありませんでした。

病院到着からカニュレーション開始までの中央値が16分、カニュレーション開始からECMOフロー開始までの中央値が20分となっており、心停止からECMOフロー開始までの中央値は74分という結果になっています。導入まで時間がかかっており、今回の研究で予後改善を示せなかった要因とも考えられています。

マンパワーや症例数、地域背景など様々な要因に左右されるため、ECPRの実施は一概には決められないことだと思います。今後も、施設毎のプロトコールに沿って、実施の有無を決めていく流れは変わりなさそうですね。

続いて、聖路加国際病院の宮本からです。

③Emergency Department Management of Patients with Alcohol Intoxication, Alcohol Withdrawal, and Alcohol Use Disorder: A White Paper Prepared for the American Academy of Emergency Medicine
The Journal of Emergency Medicine: 2023 Jan 21
https://doi.org/10.1016/j.jemermed.2023.01.010

忘年会・新年会シーズンはすぎ、一段階落ち着いた様相を見せてはいますが、救急外来診療はアルコール関連疾患とは切っても切り離せません。

今回、米国医療学会より、アルコール関連疾患に関する白書が発行されましたので共有させていただきます。

内容は下記の16項目より構成されています。

- Q1. アルコール離脱症候群(AWS)はいつ疑い、診断はいかに行うか?
- Q2. AWS(もしくは疑い)患者で入院管理が必要な患者、外来管理が可能な患者とは?
- Q3. どのようなAWS患者で症状が現れる前にAWSの治療を行うべきか?
- Q4. 軽度から中等度のAWS患者の治療には、どのような薬剤を用いるべきか?
- Q5. 重症のAWSは、救急外来でどのように発見され、管理されるべきか?
- Q6. 救急外来より帰宅するAUD(アルコール使用障害)患者に使用すべき薬剤は何か?
- Q7. アルコール中毒(AI)と推定される患者に対する一般的な管理原則は何か?
- Q8. アルコール依存症と思われる患者に対して、血中アルコール濃度の測定など、どのような補助的な検査を考慮すべきか?
- Q9. アルコール中毒患者の管理におけるビタミンと水分の役割について。
- Q10. アルコール中毒による興奮への対応。
- Q11. AIやAUDの患者さんによくみられる病状や合併症は何か?
- Q12. アルコール中毒の患者を退院させる際の注意点は?
- Q13. AUD患者の日々の健康状態を改善するために、救急外来ベースでどのような戦略を立てるか?
- Q14. AUD患者のうち,AIで救急外来を受診する頻度の高い患者には,どのような配慮が必要か?
- Q15. アルコール依存症のスクリーニングにおける救急部の役割とは。
- Q16. アルコールに起因する危険運転の可能性の報告や法医学的サンプリングにおける救急科の役割。

個人的着目ポイントを上げるとすると。。。
・AWS mimics(鑑別疾患)として、以下がある
覚せい剤や抗コリン剤中毒/オピオイド離脱/甲状腺中毒/セロトニン症候群/DKA/AKA/敗血症など
・AWSは繰り返し発症することで、次のエピソードを重症度↑/治療抵抗性↑にする燃え上がり(kindling)現象がある
・軽症AWSの治療薬としてカルバマゼピンやガバペンチン、バルプロ酸などの非ベンゾ系・非バルビツレート酸系薬剤の有効性を示す研究が増えてきている
・最近の流れとして、重症AWSにはフェノバルビタールを早めに使用していくことが推奨される
・難治性AWSにはケタミンやDEXも補助として使用可能
・ビタミンB1だけを考えがちだが、他のビタミンや微量元素欠乏も大事!
・アルコールにより激越している場合にはミダゾラムの使用に軍配がありそう
でしょうか。

一部、日本とは社会制度などが異なるため全てが本邦の診療でも同様に使用できる訳ではありませんが、日々のアルコール疾患患者への対応に関して考え直し、勉強し直すにはいい内容になっているかと思います。

以上、3文献のご紹介でした!
皆様の今後の活動の一助となりましたら幸いです。