2022.11.04

2022/11/03 文献紹介

少し遅くなりましたが、激寒の青森より10月後半の文献紹介をお送りします。
仕事を終えたら、こたつに籠って論文を読むのにいい時期になりましたね。。

今回は以下の3論文です。

①②心停止後の酸素飽和度や血圧の目標はどのくらいを目指せば良いか?
③創洗浄は生食?水道水?

①Schmidt H, et al. Oxygen Targets in Comatose Survivors of Cardiac Arrest.
N Engl J Med. 2022 Oct 20;387(16):1467-1476. doi: 10.1056/NEJMoa2208686.
PMID: 36027567.

②Kjaergaard J, et al. Blood-Pressure Targets in Comatose Survivors of Cardiac Arrest.
N Engl J Med. 2022 Oct 20;387(16):1456-1466. doi: 10.1056/NEJMoa2208687.
PMID: 36027564.

心停止後のケアとして、酸素飽和度や血圧はどのくらいを目指せば良いか?

NEJMから2つ論文を紹介します。

心停止後の死亡の原因として、低酸素性虚血性脳損傷が最多であるとされています。
この脳損傷を防ぐための治療として、TTMの有効性には疑問の余地はありません。

TTMに加えて、血圧や酸素飽和度の目標値を変えることで、理論的には脳損傷を減らすことができそうです。

心停止後の脳では自動調節機能が低下しています。
そのため、十分な灌流圧が必要になります。UpToDateには脳灌流を適正化するためにMAPを80-100mmHgに設定するのがよいと記載もあります(2022年10月27日時点)。

しかし、より高いMAPを目標とすることで血管収縮薬の必要量が増え、合併症を増やしてしまうのではないかという懸念があります。

また、酸素療法についても制限が過度になれば低酸素症のリスクとなりますし、逆に重症患者においては過剰な酸素投与が有害であることは証明されています。
ただし、蘇生後に関してはまだ不明でした。

血圧も酸素飽和度も高い方がいいんでしょうか?よくわかりません。

そこで、デンマークの2施設において、心原性が推定されるOHCAからのROSC後患者(GCS<9)789人を対象としたRCTが行われました。

two-by-two factorial designを採用し、2つの血圧目標および酸素化目標のいずれかを満たす患者群にランダムに割り付けました。
血圧目標は高値群:MAP77mmHg, 低値群:MAP63mmHg、酸素化目標は制限群:PaO2 68-75mmHg, 自由群:PaO2 98-105mmHgと規定されました。

上記管理と並行して、TTMとして36度で24時間管理されています。

心停止からランダム化までの時間の中央値は146分、shockable rhythmが85%、ROSCまでの時間は21分でした。
9割で即時CAGが行われ、42%でPCIが実施されました。

primary outcome:90日後死亡または不良な神経学的転帰(CPC3-4)発生率には全群で有意差がありませんでした。
血圧:高値群 vs 低値群 = 34% vs 32%, adjusted HR, 0.95; 95% CI, 0.75 to 1.21; P = 0.69
酸素化:制限群 vs 自由群 = 32.0% vs 33.9%, HR, 1.08; 95% CI, 0.84 to 1.37; P = 0.56

limitationとして、患者は心原性が疑われるOHCAに限定されておりそのほかの原因による心停止については不明、これらの数値より高い場合にはどうかについては不明、血管収縮薬としてドパミンを使用された患者がいたこと、ランダム化まで2時間以上経過しており、より早期の介入による有効性が見落とされている可能性などが挙げられます。

また、JAMAよりOHCA患者に対する病院前~ERでの酸素化目標を検討した、同じような研究が出ています(https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2798013 )。
こちらでは、病院前~ERでの酸素飽和度の目標を介入群:SpO2 90-94%、対照群:SpO2 98-100%としてRCTを組みました。
primary outcome:生存退院率は介入群で低い傾向がありましたが、有意差はありませんでした(38.3% vs 47.9%, 差 -9.6%, 95% CI -18.8 ~ -0.2, P=0.05)。
残念ながらCOVID-19の流行により研究は早期に中断されてしまったことが最大のlimitationです。

良好な神経学的予後を目指した心停止後のケアにおける血圧と酸素化の目標値は、まだ未確定で議論が残る分野のようです。
ERで初療してROSCした患者には、これまで通り、血圧はMAP>65mmHg, SpO2 94%以上(でも100%を目指す必要はない?)を目標にする診療を続けることになりそうです。
その後の目標値設定は個別に考慮すべきでしょうか。

③Fernandez R, et al. Water for wound cleansing.
Cochrane Database Syst Rev. 2022 Sep 14;9(9):CD003861. doi: 10.1002/14651858.CD003861.pub4.
PMID: 36103365; PMCID: PMC9473482.

創洗浄は生食?水道水?

前回、「ERでの創傷処置、滅菌手袋してますか?」を紹介しました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001254

それに関連して、創傷の洗浄に使う溶液を何にするか問題について言及したSR&MAを紹介します。

創傷の洗浄について、生食とそれ以外の水(水道水、蒸留水、煮沸後に冷却した水など)を用いて効果を比較した13RCT2504人を対象としたメタ解析です。

主な関心事としては、感染率や創傷治癒率といった臨床に直結した結果と思われますが、いずれも有意差はありませんでした。
そのほか費用、疼痛、患者満足度などについても同様の結果が報告されています。

ERの外傷に限定した研究ではなく、手術創や慢性創傷なども含まれているのはlimitationとなりますが、洗浄に使う溶液は、生食でも水道水でも大差ないようです。

個人的に意識している「ERでの創洗浄を効果的にする秘訣」をまとめておきます。
ズバリ、溶液の「量」と「圧力」が重要です。
創傷1cmに対して50-100mlほどの溶液が目安になります(もちろん汚染の程度によってさらに大量に必要になることがあります)。
適切な圧をかけることも意識します。高度な汚染創ではない限り、およそ5-8psiでの洗浄圧が適切だろうと考えられています。これは50mlシリンジに18Gの静脈留置針を装着して押し出すことで達成されます。

今回のメタ解析結果からも洗浄に使う溶液の種類はあまり重要ではない可能性が高そうです。
そんな細かいことどっちでもいいじゃん、と考えてしまいそうになりますが、根拠を意識して診療しなさいと諭されているように感じた研究でした。