2022.10.17

2022/10/17 文献紹介

日頃の診療お疲れ様です。
第7波も段々と落ち着きつつあり、気づいたら秋に移り変わってきましたね。
秋といえば読書の秋!ということで、EMA文献班より10月前半の論文紹介です。

今回は前半が聖マリアンナ医科大学病院の川口先生、後半は国際医療福祉大学成田病院の井桁より、以下の4つの論文を紹介します。
①外傷チームトレーニング
②葉酸投与すると自殺企図リスクが減少?
③ERでの創傷処置、滅菌手袋してますか?
④フレイルチェストは手術した方が良いかも

①Bredin IC et al. Trauma team training in Norwegian hospitals: an observational study. BMC Emerg Med. 2022 Jul 5;22(1):119.
PMID: 35790905
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35790905/

外傷チームトレーニングの内容と頻度

頻度は少ないものの年に何度かは遭遇する重症外傷。
振り返りを行うたびにチームダイナミクスの大切さを痛感します。
でも一体どうすれば外傷のチーム医療が向上するのか、具体的な方法ってあまり確立されていない気がします。

本文献は外傷チームトレーニングが義務付けられているノルウェーでの研究です。
ノルウェーではNational Trauma Register(NTR), National Trauma Planといった外傷診療に関する国のシステムが整備されています。

2020年にノルウェー国内の外傷センター+外傷診療を行う急性期病院の計38施設それぞれに所属する外傷コーディネーター(そんな人がいるんですね)にオンライン質問票で外傷チームトレーニングの頻度、方法、割当時間などを聴取しています。

外傷チームトレーニングには以下の内容が含まれます。(J Trauma. 2008;64:1613-1618.)
1. Treatment priorities, ABCDE-format principles
2. How to create optimal teamwork
3. Communication pitfalls
4. Change in hospitals
5. Efficient communication
6. Well functioning cooperation
7. Leadership

多くの施設では事前の予告なしに発令される"trauma alarm"を合図にトレーニングが始まり、模擬患者やマネキンを用いた症例シミュレーションが行われたようです。日本の訓練やシミュレーションとは結構違いますね。多くの病院で国が用意した教育ツールを使用しており、各施設のニーズに合わせた内容にアレンジされています。
開催頻度は年に5-9または10-15回が多く、2013年の同様の研究と比較して増えているそうです。日本よりも随分多く、だいたい月に1~2回くらいのイメージでしょうか。毎回同じメンバーが参加するわけではなく、個々人の参加は年1回以上が望ましいとされています。

トレーニングの効果を客観的に評価する方法がなかなか難しいところですが、参加者たちはこれが外傷診療の質の維持・向上に寄与していると感じているとのことでした。
系統的な外傷診療システムにより死亡率の減少を実現するには10年以上の月日がかかるという先行研究もあります(JAMA. 2000;283(15):1990.)。

うまく実現するコツとしては「地域で取り組むこと」「行政支援」「戦略的計画」「ファシリテーター」の4つが挙げられています。
我々の日常にすぐに取り入れることは難しい内容もありますが、まずは半年〜1年に1回程度、外傷診療シミュレーションの開催を目指してみてはいかがでしょうか。

②Gibbons RD et al. Association Between Folic Acid Prescription Fills and Suicide Attempts and Intentional Self-harm Among Privately Insured US Adults. JAMA Psychiatry. 2022 Sep 28. PMID: 36169979.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36169979/

葉酸投与が自殺企図リスクの減少と関連

自殺は米国の主要な死因の1つとなっており、社会的に大きな問題と捉えられています。
日本の救急外来でも、自傷行為や過量服薬など自殺企図にまつわる受診は多いのではないでしょうか。

本研究の筆者は、自らが開発した「iDEAS」というアルゴリズムで保険データを解析し、医薬品と自殺企図の関連性について調べました。
自殺企図リスク増加:アルプラゾラム、プタルビタール、ヒドロコルチゾン、コデイン/プロメタジン配合剤
自殺企図リスク減少:葉酸、ミルタザピン、ヒドロキシジン、ジスルフィラム、ナルトレキソン

この中でも特に葉酸に注目し、シアノコバラミン(Vit B12)と比較した結果が報告されています。

葉酸が欠乏すると選択的セロトニン再取り込み阻害剤の効果が低下するため、葉酸の補充に抗うつ効果があるという仮説が立てられました。
また、葉酸は炭素サイクルにおけるメチル化経路への関与により生体内の神経伝達系に作用する抗うつ剤の効果を高める可能性もあるとされています。

結果:葉酸の自殺イベントに対する調整ハザード比HR0.56(95%CI 0.48-0.65)
対照群はHR1.01(95% CI 0.80-1.27)

本研究が示したのはあくまで関連であり因果関係ではないので今後の研究に期待がかかります。

自殺企図でERを受診した患者さんを精神科へ紹介するときに「救急外来で葉酸は始めておきました」という一言をつけ加える日が来るかもしれません。

③Zwaans JJM et al. Non-sterile gloves and dressing versus sterile gloves, dressings and drapes for suturing of traumatic wounds in the emergency department: a non-inferiority multicentre randomised controlled trial. Emerg Med J. 2022 Sep;39(9):650-654.
PMID: 35882525.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35882525/

ERでの創傷処置は非滅菌手袋でOK?

皆さんERで傷を縫合する場合は滅菌手袋してますか?
「え、当然するでしょ」という人も、「実は面倒でやってない…」という人も、今回の論文は興味深い内容になっています。
オランダで行われた多施設単盲検RCTです。概要は以下です。

P:縫合が必要な外傷でERを受診した18歳以上の患者
I:非滅菌の手袋を使用
C:滅菌の手袋を使用
O:処置後5-14日の創部感染

2012~2016年で2468人が登録され、1480人が非滅菌群(733人)、滅菌群(747人)へ無作為化されました。
除外基準は複雑な創(骨、血管、腱、神経、軟骨の損傷あり)、咬傷、手術室での処置が必要な場合、受診時すでに感染していた、受傷後24時間以上経過していた、などであくまでシンプルな創傷を対象にしていました。
共通のケアとして汚染の除去、水道水による十分な洗浄、クロルヘキシジン消毒、局所麻酔、滅菌縫合糸、滅菌器具の使用はどちらも同様に行われました。
創部感染しているかの判断は局所所見や抗生剤、創部の開放と洗浄の追加を施行したか否かで行っています。

結果は非滅菌群で5.7%(95%CI 4.0~7.5%)、滅菌群で6.8%(95%CI 4.0~7.5%)で平均差は-1.1%(95%CI -3.7~1.5%)となりました。
感染した創は下肢で多く、免疫抑制剤を使用している患者で多い傾向にありました。

オランダの救急医療の変革で患者参加率が著しく低下し、予定より少ない患者数での解析となったためパワー不足の可能性があります。
また手洗い、マスク、帽子、ガウン、シューズカバーなどは観察項目に入っていなので不明です。

筆者らとしては「非滅菌でもあんまり大きな差はないんじゃないの」と結論づけています。
非滅菌でアウトカムが変わらないのであれば、コスト的に良いですよね。

④Dehghan N et al. Operative vs Nonoperative Treatment of Acute Unstable Chest Wall Injuries: A Randomized Clinical Trial. JAMA Surg. 2022 Sep 21.
PMID: 36129720.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36129720/

フレイルチェストは手術した方が良いかも

重症胸部外傷を診る機会は時々ありますが、手術を積極的にされている施設の方はいますでしょうか。
胸部外科(呼吸器外科)が常勤でいない施設も多いので、保存治療で乗り切っているところも多いのではと思います。
多発肋骨骨折は疼痛管理、呼吸管理など結構大変な思いをしながらケアをすることが多いのではないでしょうか。
今回はフレイルチェストに対して手術をする群としない群で行われたRCTを紹介します。

P:16~85歳のフレイルチェスト、もしくは重度の胸郭変形がある外傷患者
I:手術(プレートやスクリュー固定)
C:非手術
O:Primary outcomeは受傷後28日間のventilator-free days(VFDs)、Secondary outcomeは死亡率、入院期間、ICU滞在日数、合併症(肺炎、人工呼吸器関連肺炎、敗血症、気管切開)の発生率

全体で207人組み入れられ、手術群108人と非手術群99人に分けられました。
患者背景としては肋骨骨折は平均10本折れており、約90%は気胸、約75%は血胸、約50%は肺挫傷を伴い、ISS 25程度とそれなりに重症胸部外傷の患者が登録されています。
手術ができない患者、重症頭部外傷や上気道損傷など他の理由で長期の人工呼吸器管理が必要な患者は除外されています。

Primary outcomeであるVFDsは手術群で2.1日短くなっていましたが、有意差ありませんでした(手術群 22.7日 vs 非手術群20.6日、95%CI -0.3~4.5days; p=0.09)。
死亡率は非手術群で有意に高く(0% vs 6%)、合併症の発生率と入院日数は同等の結果でした。
サブグループ解析ではランダム化の時点で人工呼吸器を使用していた患者を対象に解析しており、手術群は非手術群と比較して入院期間を短縮させていました(30日 vs 32日, HR 1.4; 95%CI 0.9-2.1,p=0.02)。

多施設研究なので手術方法や人工呼吸器管理、鎮痛管理などばらつきがあった可能性はありますが、筆者らは「手術した方がちょっと良さそう、特に人工呼吸器を必要とする様な重症例にはいいかもね」という結論にしています。
Primary outcomeではないですが、死亡率は手術群の方が有意に良いという結果はインパクトがありますね。
今後は重症度を絞って人工呼吸器管理を要した症例などで研究をしていくとさらに良い結果が出ることを期待します。

以上4本でした。
今後の診療の参考になれば幸いです。