2022.09.02

2022/09/02 文献紹介

気づけばもう9月に突入し、後半戦スタートですね!
まだまだ暑い日が続きますが、残暑に負けない(?)熱い文献を湘南鎌倉総合病院の田口梓と中東遠総合医療センターの大林正和がお届けします!

①Soo YK, et al. Point-of-care ultrasound compression of the carotid artery for pulse determination in cardiopulmonary resuscitation. Resuscitation.2022 Jul 2; S0300-9572(22)00590-1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35792305/

先日は心肺蘇生中のパルスチェックで大腿動脈POCUS(エコー)が使えるかもしれないという論文をご紹介いたしました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001240

ただしエコーだと時間がかかるのではないか?という懸念がありました。
今回は短時間でできるPOCUSを用いたパルスチェックの方法について検討した論文です。

韓国の単施設の前向き研究です。
P:18歳以上の院外心停止または院内心停止かつ救急外来で心肺蘇生を行った患者
I: POCUS-CAC(Carotid Artery Compression)プロトコルで脈の有無を評価
C:大腿動脈で用手的に脈の有無を評価(MP: Manual Pulse check)
O:パルスチェックにかかった時間の平均の差

POCUS-CACの方法はシンプルです。CVを入れる時のように、リニアプローベで頸静脈と頸動脈をエコーで描出し、まずは頸静脈が潰れるまで圧迫します。
・頸動脈に拍動が見える、または動脈の管腔構造が保たれて潰れない→脈あり
・動脈も頸静脈のように潰れる→脈なし
と判断しました。ドップラーエコーは使用していません。

25人の患者が組み込まれ、Primary outcomeであるパルスチェックにかかった時間はPOCUS-CACでは1.62(IQR:1.14-2.14)秒、MPでは3.50(IQR: 2.99-4.99)秒と0.44倍に短縮されました。またPOCUS-CAC群では10秒を超えるパルスチェックは1回もなく、5秒以上のパルスチェックにかかった患者の割合もMPに比べ有意に少なかったです。

POCUS-CACプロトコルでは2分ごとのパルスチェックに加えて胸骨圧迫中も30秒ごとに評価をしていました。興味深かったのは、10例のROSC症例のうち6例では胸骨圧迫中のPOCUS-CACの所見で脈ありと判断し、次のパルスチェックで実際にROSCと判断されたことです。
まだ夢物語かもしれませんが、胸骨圧迫を中断することなくパルスチェック、ROSCの判断ができる日も来るのかもしれません。さまざまなlimitationがある文献でまだまだ一般化はできませんが、今後もこの話題は続きそうです。

次は日々の診療を見直すきっかけになればと、Digital nerve block、指ブロックのレビューをご紹介いたします。

②M. Gottlieb, A. Penington, and E. Schraft, DIGITAL NERVE BLOCKS: A COMPREHENSIVE REVIEW OF TECHNIQUES, Journal of Emergency Medicine, 2022 July
https://www.jem-journal.com/article/S0736-4679(22)00428-0/

指先の処置などに指ブロック、日々使いますよね。
主に3つの方法があり
・Dorsa web space block (手背側からwebつまり水掻きのような部分に2回注射をする)
・Transthecal Block (手掌側から屈筋腱鞘に1回注射をする)
・Volar Subcutaneous Block (手掌側から皮下に1回注射をする)
と呼ばれています。みたことがない方はこちらをご参照ください。
(https://www.youtube.com/watch?v=NThhhrdhC84 )
みなさまどのように使い分けなどを考えていますか?

それぞれ成功率は60-92%, 94-100%, 89%で、効果発現までの時間は3.9-4.5分、2.8-7.2分、1.6-3.3分でした。方法によって効果発現までの時間が異なるので、麻酔後にしっかり待つことも重要です。

方法の具体的なステップや麻酔の量は本文に記載があります。以下はピックアップしたポイントです。
・Volar Subcutaneous Block とDorsal Web Space Blockで手背側での麻酔の効果を比較すると基節骨レベルで48%vs88%、中節骨レベルで75%vs96%、末節骨レベルで82%vs93%でした。
→Volar Subcutaneous Blockは背側に効きにくい。末梢ならば効果は82%。
・Volar Subcutaneous Blockの変法としてMP関節のシワの部分ではなく、MP関節とPIP関節の間の基節骨の中心に3.5ml1%キシロカインを注射すると背側にも効きやすいかもしれない。
・Transthecal BlockとVolar Subcutaneous Blockは足趾での効果は研究が乏しく推奨されない。
・Volar Subcutaneous Blockで母指にも効果があったとする文献もある一方で母指と母趾には効きづらい可能性がある。Dorsal web space block+1回穿刺のThree-sided ring Blockがよいかもしれない。

これらから結論としては、
・掌側の損傷に対してはVolar Subcutaneous Block
・背側の損傷に対しては Transthecal Block or Dorsal web space block
・足指の損傷にはDorsal web space block
・母指または母趾の損傷にはThree-sided ring block
となります。

基本的な手技でご存じの内容も多いと思いますが、復習や指導にお薦めです。

③Eloy J T-V, et al.
Clinical presentation and virological assessment of confirmed human monkeypox virus cases in Spain: a prospective observational cohort study.
Lancet. 2022 Aug 8 ; Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35952705/
「従来と違う?現在世界で流行中のサル痘」

サル痘は、中央アフリカから西アフリカにかけて流行しているウイルス感染症で、日本国内では感染症法上の4類感染症に指定されています。
手元にあった感染症診療やトラベルメディシンの成書にもほとんど記載がない疾患だったので、これを機会に一度勉強しましょう!

2022年5月にイギリスでのサル痘感染者が発見されてから、欧州での感染拡大が報告されました。
流行初期に報告されたサル痘の臨床的特徴は、アフリカの国々で報告されている従来のサル痘と異なっていることが示唆されていたため、スペインで前向き観察コホート研究が行われました。

スペインのマドリッドとバルセロナにある3つのSexual Healthクリニックで診断が確定した181名の特徴は以下の通りです。

・166名(92%)がゲイ、バイセクシャルなどのMSM(Men who have Sex with Men)で、年齢の中央値は37.0歳
・6名(3%)は女性
・32名(18%)に天然痘ワクチン接種歴
・72名(40%)がHIV陽性(71名は抗レトロウイルス薬で治療中)、8名(11%)がCD4細胞数<500/μL
・天然痘ワクチン接種と未接種、HIV陽性と陰性では臨床的特徴に差はない
・31名(17%)が他の性感染症を併発
・全員が皮膚病変を呈し、肛門や性器病変が141名(78%)、口腔や口唇周囲が78名(43%)
・合併症として、直腸炎が45名(25%)、扁桃炎が19名(10%)、陰茎浮腫が15名(8%)、皮膚膿瘍が6名(3%)、外耳道炎が8名(4%)
・発熱などの前駆症状があったのは87名(48%)
・潜伏期の中央値は7.0日(5.0〜10.0)
・同一患者から皮膚病変、肛門、口腔咽頭のスワブ検体を採取した場合、肛門や咽頭に比べ皮膚病変の検体でウイルス量が多く(リアルタイムPCRのCt値が低い)、陽性率も高い

従来のサル痘は、接触や飛沫が感染経路とされていましたが、現在流行しているサル痘は性行為における密接な接触による感染拡大が主なようです。そして密接な接触感染のためか、従来よりも潜伏期が短く報告されています。
従来は皮膚病変は顔面に多いとされていましたが、今回の流行では性器や直腸などの局所病変が多く、また皮膚病変が出現する前の全身症状が少ないといった特徴がありました。

日本でも感染者の報告例がでており、救急外来に患者が来るかもしれません。
論文に掲載されている病変の写真も印象的ですのでぜひご覧になってください。

New England Journal of Medicineにも16カ国のケースシリーズが発表されていますので、あわせてどうぞ。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35866746/

④Nathan H, et al. Synovial Fluid and Serum Neutrophil-to-Lymphocyte Ratio.
J Bone Joint Surg Am. 2022 Jun 20. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35726876/
「化膿性関節炎診断に役立つ新しいバイオマーカー」

化膿性関節炎は適切な治療を行わないと、急速な関節破壊や死亡につながる重篤な疾患です。
診断のゴールドスタンダードは関節液培養の結果ですが、診療初期には関節液内の白血球(以下、SF-WBC)が50,000/μL以上または多形核白血球分画(SF-%PMN)が90%以上を占めることが、診断の補助として使われています。
ただこれらの基準も感度・特異度ともに高いわけではありません。

そこで著者らは、様々な臨床場面の診断および予後判定バイオマーカーとして注目されている好中球対リンパ球比(以下、NLR)が化膿性関節炎に応用できないかと考え、関節液NLR(以下、SF-NLR)とSF-WBC、SF-%PMNと診断精度を後ろ向きに比較しました。

膝、肩、股関節の化膿性関節炎を疑われて、関節穿刺を行った598名の患者が対象となり、化膿性関節炎の診断は関節液の細菌培養結果が陽性であることとし、血清および関節液中の白血球数絶対好中球数・絶対リンパ球数、ESR、CRPなどの検査マーカーを収集しました。

結果は、SF-NLR(AUC, 0.85 [95% CI, 0.82 to 0.88] )がSF-WBC(AUC, 0.80 [95% CI, 0.76 to 0.83]),SF-%PMN(AUC, 0.81 [95% CI, 0.77 to 0.84])と比較して有意に高い診断精度を有していました。
Youden indexにより決定されたSF-NLRの最適閾値は25で、SF-WBC > 50,000/μL(感度56%、特異度80%)、SF-%PMN(感度65%、特異度78%)と比較して、感度78%、特異度81%という結果でした。

計算は必要ですが新たな検査項目を追加する必要がないのは大きいですね。
一般的に関節穿刺液の結果は多核球と単核球で報告されることが多いので、そのまま計算できない点には注意が必要です。
自施設では「依頼があれば単核球の内訳を報告します!」と心強い言葉をいただけました。
みなさんも臨床検査技師さんに確認して、ぜひ活用してみてください。
この研究ではNLRの予後判定能力についても述べられていますので、そちらにも注目です。