2022.02.01

2022/01/31 文献紹介

2022年が始まってもう1ヶ月、早いですね!
1月後半の文献を紹介します!

湘南ERの田口です。私からは虫垂炎の文献2つと、ER医の超基本となるバイタルサインに関する文献をご紹介します。

①糞石があると虫垂炎の手術リスクは約2倍
②糞石がない場合、虫垂径>15mm・38℃以上の発熱は抗菌薬治療失敗の因子
③バイタルサインに閾値はあるのか?

①Writing Group for the CODA Collaborative, Parsons C, Shapiro NI, et al. Patient Factors Associated With Appendectomy Within 30 Days of Initiating Antibiotic Treatment for Appendicitis. JAMA Surg. 2022 Jan 12;e216900.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35019975/

「糞石があると虫垂炎の手術リスクが約2倍」

虫垂炎への手術ではない治療として、内服も含めた抗菌薬治療の可能性を示す文献が増えてきています。

2020年にCODAトライアルという虫垂炎に対する抗菌薬治療は手術に比べて非劣性であると示したRCTがありました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33017106/ )
ただし抗菌薬治療後に手術を受けた方もおり、今回の文献では抗菌薬治療を開始したにも関わらず30日以内に手術をすることになった患者を抽出し、関連する因子を解析しました。

RCTのデータを使用した後ろ向きコホート研究であり、2016年にアメリカの25の病院でCT所見から虫垂炎と診断がついた患者を対象としています。
手術をせず抗菌薬治療を開始した776名のうち、症状増悪などを理由に後に手術した方が154名(21%)いました。
その中でも糞石の存在OR2.56(95%CI, 1.73-3.79)、虫垂直径が1mm増加するにあたりOR1.14(95%CI, 1.06-1.22)の2つが特に30日以内の手術と関連していました。
2個目の文献とは相反する結果ですが発熱は手術とは関連しないとされましたOR1.28(95%CI, 0.82-1.98)。
ちなみに糞石は虫垂炎患者212人(27%)に認め、そのうち65人が手術を受けました。

②Jussi Haijanen, et al. Factors Associated With Primary Nonresponsiveness to Antibiotics in Adults With Uncomplicated Acute Appendicitis: A Prespecified Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Surg. 2021 Dec 1;156(12):1179-1181.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34613361/

「糞石がない場合、虫垂径>15mm・38℃以上の発熱は抗菌薬治療失敗の因子」
続けてまたまた虫垂炎文献です。

2020年4月にも登場したAppendicitis Acuta (APPAC) trialという多施設RCTのpost-hoc analysisの1つで、単純性虫垂炎に対して手術or抗菌薬治療を行った患者のうち抗菌薬治療を開始したものの反応が悪く手術をした患者に関連する因子を解析しました。(2021年4月EMA文献紹介https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200401-journal )
オリジナルのAPPAC trialでは、フィンランドの9つの病院で成人患者のCTで診断された合併症のない虫垂炎患者が、手術 or 抗菌薬治療に割り付けられました。なおこの文献では3mm以上の噴石を伴う虫垂炎はcomplicated 虫垂炎とされるため、includeされていません。

抗菌薬治療群は583人で29人(5%)が抗菌薬への反応が乏しく、手術を受けました。
虫垂径15mm以上、入院時の体温38℃以上はそれぞれAdjusted Risk Ratio5.5(95% CI, 2.4-12.5), 4.1(95% CI, 1.6-10.7)で抗菌薬の効果が乏しい因子として関連がありました。

糞石なければ、虫垂>15mm、38℃以上の発熱は抗菌薬が効きにくい可能性があります。

離島などでなければ救急医が治療を決めることは少ないと思いますが、①、②のようなエビデンスを知ることでより的確な判断、コンサルトを目指していきたいですね。

③Candel BG, et al. The association between vital signs and clinical outcomes in emergency department patients of different age categories. Emerg Med J. 2022 Jan 11;emermed-2020-210628.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35017189/

「バイタルサインに閾値はあるのか?」

何を突然と思われるかもしれませんが、たとえばqSOFAの「血圧100mmHg以下」「呼吸数22回以上」などは各バイタルサインへ単一の閾値を用いています。しかし、そもそも果たして死亡などを予測する年齢関係なく使える単一のカットオフ値は存在するのか?だとしたらいくつなのか?が研究のテーマです。

場所はオランダ、患者は18歳以上、ERで少なくとも一つの何らかのバイタルサインを測定された方です。2017年から2019年に都市部のERや3次救命センターの3病院のデータで、後方視的に行われたコホート研究となります。

年齢は18-65歳、65-80歳、85歳以上の3つのグループに分けられ、バイタルサイン(収縮期血圧 [SBP]、拡張期血圧 [DBP]、平均血圧 [MAP]、心拍数 [HR]、呼吸数 [RR]、体温 [BT]をそれぞれ層別化した)と死亡やICU/HCU入室との関連を調べました。
死亡に対する全年齢での閾値が存在したのはMAP70mmHg以下, RR20/min以上, BT35℃以下の3つでした。
集中治療室入室については全年齢での閾値が存在したのはSBP70mmHg以下、MAP60mmHg以下の2つでした。

その他の指標の特徴では、SBP,SpO2は低ければ低いほど死亡率は低いという線形的な関係を示すものや、DBP,MAP,HRでは値が低過ぎても高過ぎても死亡率があがるU字型のグラフを描くなどの特徴がみられました。
また年齢ごとに比較すると、当たり前のようですが、すべてのバイタルサインで高齢者は若年者と比較して絶対死亡率の増加が大きかったとされました。

ただしこの文献ではShock indexなどバイタルサインの組み合わせについては検討おらず、大きなLimitationと言えます。

この文献一つでなにかプラクティスが大きく変わるわけではないですが、
ER医としてそれぞれのバイタルの特徴には詳しく、的確に評価していきたいというメッセージ性を感じました。 単一の閾値はシンプルで簡便ですが、今後のリスク層別化ツールは年齢別やAPACHEⅡのように点数性が主流になる可能性もあります。

続いて、中東遠総合医療センターの大林から3本小ネタを紹介します。

④Marcus N. et al. Working with estimation-formulas to predict nasopharyngeal airway insertion depth in children: Looking at magnetic resonance images - A prospective observational study (WEND: LI-Study)
Resuscitation. 2021 Nov;168:95-102.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34600970/

「小児で経鼻エアウェイを選ぶ時は、鼻孔〜耳朶−10mmで」
経鼻エアウェイを選択する基準として「鼻孔〜耳朶まで(以下、NT)」や「鼻孔〜下顎角まで(以下、NM)」の距離がガイドラインで推奨されていますが、実はこの長さには臨床的なエビデンスがありません。2019年に鼻孔から下咽頭まで距離とNTやNMの距離をMRI画像をもとに比較した報告では、経鼻エアウェイの長さをNT−10mmとすると高い確率で正しい位置に留置されるとされ、今回筆者らはそれを検証しました。

対象となったのは神経疾患などで頭部MRIを撮影するために深い鎮静を必要とする12歳未満の92人の小児で、上気道の維持のためにNT−10mmの長さの経鼻エアウェイを挿入しました。(距離の測定は巻き尺を顔面に沿わせて測定)撮影したMRI画像において、先端位置やMRI上の鼻孔から下咽頭までの距離を確認しました。
エアウェイ先端は、軟口蓋遠位端から喉頭蓋の間に位置する必要があり、今回の検証では軟口蓋遠位端から喉頭蓋の距離の25%〜75%に収まっている状態を理想とし、軟口蓋遠位端から喉頭蓋の間に位置するものは許容と定義しました。

結果、34人(37.0%)が理想、71人(77.2%)が許容の位置に収まっていました。しかし8人(8.7%)は軟口蓋遠位端より手前に、13人(14.1%)が喉頭蓋より奥に留置されていました。
仮にNMやNTの距離だった場合は以下のとおりです。
NM:理想 38%、許容 58.7%、近位 17.4%、遠位 23.9%
NT:理想 13.0%、許容 28.3%、近位 0%、遠位71.7%

なんと、NTを参考に経鼻エアウェイを入れると、7割近くが遠位に位置してしまいました。今回遠位に留置されていた13人では特に呼吸に関するトラブルは認められなかったようですが、先端が遠位にあると喉頭反射を起こしたり、食道近位部まで入って気道を塞いでしまう危険性があります。

まだ知見の蓄積は必要ですが、今のところNTやNMよりはNT−10mmの方が理想的な位置に留置できそうです。

⑤Smoot WA. et al. Ultrasound-Guided Great Saphenous Vein Access: Revisiting an Old Freiend in New Location.
J Emerg Med. 2022 Online ahead of print
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34996672/

「静脈路留置困難な時は大伏在静脈を探してみては?」

ベテランの救急看護師さんに「先生、ルート取れません!」って泣きつかれて「いや、あなたが取れないんだったら無理やって」と心の中でつぶいやいたことが皆さん1度はあるんじゃないでしょうか?そんな時に頼りになるのがエコーで、上肢の静脈探しや蘇生のような状況では鼠径部で大腿静脈を描出するのに使われていることと思います。

静脈路確保が困難な症例において、大伏在静脈が静脈路の代替場所となりうるかを検討したのが今回紹介する論文です。
過去に静脈路留置が困難だったことがあるか看護師が2回失敗した19名の救急患者(女性12名、男性7名、平均BMI 28.8)を対象にエコーガイド下大伏在静脈路留置を試みたところ、11人(58%)が初回で、全体では14人(73.7%)で留置に成功しました。留置できた静脈路で採血や輸血、造影剤投与、ノルアドレナリンの投与などが行われましたが、問題はありませんでした。なんと11日間もの期間留置継続していた症例も中にはあったようですが、感染や血栓症、血管外漏出といったトラブルはなかったとのことです。

早速ストレッチャーで座位をとって自分の大伏在静脈を探してみたところ、簡単に描出することができました。(BMIは22です)大腿静脈と違って、陰部からも離れており汚染されにくく、股関節の運動も妨げないので留置困難症例に出会ったら、一度試してみてください!なお、研究では長い静脈留置針(約45mmや約63mm)を使用していますので、体格や深さを考慮してカテーテルを選択していただくとよいでしょう。

⑥Nicholas JD et al. Clinical utilization of a sous vide device in the acute rewarming of frostbitten extremities. AM J Emerg Med. 2022 Feb;52:200-202
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34954564/

「低温調理器で凍結した手足を解凍」

凍傷の治療は37〜39度の温水浴で行うのが標準的ですが、温水浴の方法については標準的な方法はありません。患肢をつけた水槽の温水を何度も交換するのは面倒ですし、なにかいい方法がないかと考えた筆者らは、「低温調理器」に目をつけました。そう、素人でもシズル感たっぷりのローストビーフが作れてしまう便利調理器具です。低温調理器には簡単な設定で液体の温度を一定に保つ機能があります。

方法は至って簡単で、低温調理器(今回使用されたのはAnova Precision® Cooker)を水槽に固定し、室温の水を入れて凍結した患肢を浸し、38度を目標温度に設定するだけです。筆者らの報告によると、雪道を裸足で3時間歩いた34歳男性の凍結した足では、約25分で38度に達し、30分後には完全に治療が完了し、長期的なフォローアップでも足の切断は必要とせず、日常生活に復帰できたそうです。

なるほど、その手があったかと唸らされた一報でした。