2020.09.05

EMA症例112:8月症例解説

今月の症例のテーマは「切断指」でした。
169名の方にご回答いただきました。
みなさまありがとうございます、勉強になりました!

ご回答いただいた方の属性は以下の通りです。

 救急科専攻医の先生が最多です。初期研修の先生にも積極的にお答えいただきました。切断指の経験については、経験のある方が55%と、ギリギリ過半数でした。

 では早速、処置について設問2から順に見ていきましょう。

 

<設問2>どの糸を選択しますか?

みなさまの回答は、ナイロン糸のみ、ついで爪床は吸収糸、その他はナイロン糸となりました。

 施設によって使用できるリソースにも違いがあると予想されますが、爪床は、爪が伸びて来ると後日抜糸できない可能性があるので、爪床の縫合に用いるのは吸収糸が適当と思われます。指腹部の縫合は、吸収糸またはナイロン糸を使用しますが1)、病院へのアクセスが比較的良い日本では、ナイロン糸で縫合し後日抜糸するのが一般的と思われます。

 今回のような指尖部外傷では、指の長さを保つこと、新しい爪の成長のスペースを保つこと、指先の感覚を保つこと、が目標となります1)。切断指の治療としては、以下に挙げるような4つの方法が考えられます。

  1. 再接着術:血管吻合+神経吻合をして指をつなぐ方法。顕微鏡下で行う手術です。
  2. 断端形成術:断端を皮膚で覆う方法
  3. composite graft:血管や神経の吻合はせずに切断端を乗せて縫う方法。
  4. 保存療法:断端を洗浄し湿潤療法などで肉芽の回復を待つ方法。

治療に関してはそれぞれにメリット・デメリットがありcontroversialです。1の方法は専門科へのアクセスがなければ不可能ですが、再接着率は近年では良好とされています。切断指の分類には玉井分類2)、指尖部に関してより細分化した石川分類3)などが知られていますが、玉井分類zoneII以上ならば再接着に必要な血管が得られる可能性が高いので、専門家へのコンサルトを考慮すべきです。2の断端形成術では指の長さが犠牲になりますが、より短期間での治癒を目指せる可能性があります。


▶︎玉井分類(T)と石川分類(I)(文献4の図1と図2より)

3のComposite graftは、患者が切断断端を持参した場合には選択肢となります。小児では良好な生着率が得られる一方で、成人では多くの場合生着せず感覚も戻りませんが、結果的に壊死したとしても生物的な被覆材となります5)。なるべく針数を少なく縫合しましょう。成人の場合、脂肪を除去した皮弁として生着させる方が、生着率は高いとされます6)

一方で大人で先端から1cm以下、小児で2cm以下の骨折を伴わない創傷は、4の保存療法で多くの場合に良好な結果が得られます5)7)8)。骨が軟部組織で完全に覆われない場合は骨短縮術が必要になることもありますが、基本的にDIP以遠の指の切断に関しては救急医の開始する初期治療で良好な治癒が得られます。患者の年齢、職業、好みを考慮して方針を決定しましょう。

爪床の損傷がある場合は特別な注意が必要です。爪床を縫い合わせておかないと、新しい爪が爪床損傷を避けるように生えるため、split nailなどの合併症を起こし、永続的な爪の整容の問題を残すことがあります5)。段差のないように丁寧に縫合しましょう。爪床の縫合のために爪の抜去が必要になることがあります。小児の場合は爪床が柔らかく、繊細な縫合が必要です。

 

 

次に爪の処置について見ていきます。

 <設問3> も剥がれています。どうしますか?

  1. 元の位置に戻す
  2. 外しておく

約70%の方に、爪を元の位置に戻すとお答えいただきました。
推奨は「爪は元の位置に戻す」です。

新しい爪が生える爪母と爪上皮の間隙を保つため、爪は元の位置に戻しましょう。その際には指尖部の解剖的な知識が必要です(下図参照)。爪のある指のほうが指先の感覚が良いとされ、さらには整容的にも良いです5)。爪の損傷が激しく使用できない場合は、清潔な縫合糸のパケージのフィルム部分を適切なサイズに切って使用する方法もあります。

▶︎指尖部の解剖(文献1のp192の図13-18より)

爪を本来の位置に戻す方法について解説します。

<爪の縫合>

  • 爪に18G針などで穴を開ける
  • 爪を爪上皮と爪母の間隙に挿入する
  • シラー法などで固定する

 ※縫合せずダーマボンドなどでそのまま固定する方法も同様の効果があると報告されています9)

 ▶︎シラー法(文献10のp216の図3より)

 

 

設問5は縫合以外の処置についてでした。

<設問5>抗生剤は投与しますか?

  1. する
  2.  しない

投与するが90%、投与しないが10%でした。

開放骨折に準じて治療される場合が多く抗生剤が検討されますが、指尖部外傷において感染は稀で、予防的な抗生剤が有効であるという根拠はないとされています5)11)。指尖部損傷を含む末節骨開放骨折において、予防的な抗生剤投与群とプラセボ群では創部感染率はそれぞれ3%と4%で差がなかったという報告や12)、露出した骨を含む指尖部損傷で、抗生剤を投与しなかった29例にも感染症は発生しなかったという報告があり13)、抗生剤のルーチンの投与に関しては推奨されていません。汚染が高度の場合や受傷から8時間以上経過している場合には抗生剤が考慮されますが1)、適切な創部の洗浄の方がむしろ重要と思われ、患者によく説明すること、患者自身がなんらかの事情で創洗浄をできない場合は通院で創洗浄することを考慮しましょう。

抗生剤の検討とともに、全ての創傷において適切な破傷風の予防接種の考慮が必要です。本症例は破傷風の危険が大きい創傷に該当するため、破傷風の予防接種とテタノグロブリン投与が望ましいです。過去のEMA教育班の破傷風に関する記事もご参照ください。
https://www.emalliance.org/education/case/syourei58kaisetsu

 

 

最後に、帰宅時の爪床の保護についてです。

<設問6>縫合後の処置はどうしますか

  1. 軟膏+ガーゼ
  2. 軟膏+ガーゼ+スプリント固定

選択肢の設定に乱れがありすみませんでした。軟膏+ガーゼにする方(約45%)と軟膏+ガーゼ+スプリント(約53%)の方が大体半々となりました。部位にもよるかとは思いますが、局所の安静を保つため、再診日まではスプリントを併用することが望ましいです。適切なスプリントは創部の現状以上の損傷を予防し再生を促し、創部の疼痛を軽減します5)

実際の症例では、Composite graftを選択し以下のような処置を行いました。

  • 指尖部の感覚・運動を評価後に、指ブロック(手指の神経ブロック麻酔)を実施した
  • 指尖部や切断端は生理食塩水にひたしたガーゼに包んでおいた
  • 手袋で作成した指ターニケットを装着した
  • 爪床損傷の有無を確認し、十分に洗浄した
  • 6-0ナイロン糸で皮膚を縫合した
  • 6-0吸収糸で爪床を平らに縫い合わせた
  • 指尖部に付着していた爪を用いてシラー固定した

 

▶︎手袋でターニケットを作成する方法(文献10のp29の図9より)

 

 ▶︎縫合後の創部(本人より承諾を得て掲載)

 破傷風トキソイド、テタノブリン250U、セフトリアキソン1g divを投与し、ガーゼ+軟膏+アルフェンスシーネで創部を保護しました。外来でセファレキシン250mg 8T4×を合計8日間内服継続しました。ゲンタシン軟膏+ガーゼで経過し、皮膚は壊死しましたが一部軟部組織が生着しました。

 

▶︎創部の経過(本人より承諾を得て掲載)

 

 

<Take Home Message>
指尖部外傷では・・・

  • DIP以遠の切断指は救急医が対応できる
  • 爪床損傷を確認し縫合しよう
  • 爪母と爪上皮の癒着予防を考慮しよう
  • スプリントでの帰宅を検討しよう

 


【参考文献】

1) Alexander T.Trott著 岡 正二郎訳 ERでの創処置 縫合・治療のスタンダード原著第4版
2) Tamai S: Twenty years’ experience of limb replantation- Review of 293 upper extremity replants. J Hand Surg 7A: 549―556, 1982.
3) Ishikawa K, Ogawa Y, Soeda H, et al: A new classifica- tion of the amputation level for the distal part of the finger. J JPN SRM 3: 54―62, 1990.
4) 幸田久男 職業性四肢挫滅損傷および外傷性切断に対する治療法に係る 研究・開発・普及. 日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol. 62, No. 4
5) James R. Roberts and Jerris R. Hedges Roberts and Hedges’ Clinical Procedures in Emergency Medicine
6) 岡崎 睦 外傷処置・小手技の技&Tips p118-119 MEDICAL VIEW
7) Al-Anazi AF. et. al. Fingertip injuries in pediatric patients - experiences at an emergency centre in Saudi Arabia. J Pak Med Assoc 2013 Jun;63(6):675-9.
8) Maciej Kubus, et. al. Fingertip injuries in children treated in Department of Pediatric Surgery and Oncology in the years 2008-2010 Ortop Traumatol Rehabil. Nov-Dec 2011;13(6):547-54.
9) Strauss EJ, Weil WM, Jordan C, Paksima N A prospective, randomized, controlled trial of 2-octylcyanoacrylate versus suture repair for nail bed injuries. J Hand Surg Am. 2008;33(2):250.
10) これ一冊で小外科完全攻略 許勝栄 編著 2014年 日本医事新報社
11) Lloyd Champagne, Joshua W. Hustedt, et. al. Digital Tip Amputations from the Perspective of the Nail. Adv Orthop. 2016
12) Stevenson J, McNaughton G, Riley J The use of prophylactic flucloxacillin in treatment of open fractures of the distal phalanx within an accident and emergency department: a double-blind randomized placebo-controlled trial. J Hand Surg Br. 2003;28(5):388.
13) Rubin G, Orbach H, Rinott M, Wolovelsky A, Rozen N The use of prophylactic antibiotics in treatment of fingertip amputation: a randomized prospective trial. Am J Emerg Med. 2015 May;33(5):645-7. Epub 2015 Feb 7.