2019.05.17

沖縄県立中部病院 救命救急センター

本院は総合病院であると同時に救急告示病院、研修指定病院であるので、救急疾患については他のどの病院より力を入れて取り組んでおります。救命救急センターに勤務している医師はすべての救急に初期対応できるようにトレーニングされております。診療専門科以外もまず、救命救急センターの医師が診察し、対処いたします。その場合患者さんの重症度、緊急度にあわせ適宜専門医を呼び出し診察してもらう体制となっています。

当科の特徴

1次から3次までの幅広い救急疾患に初期研修医、後期研修医、救急スタッフが対応して初期治療を行う、いわゆるER型救急を実践している。
入院病棟を持たないため救急医は救急医療に集中できている。
歴史的に救急を通じて病院が発展してきたために各科の救急に対する協力体制が整っている。例えば重症な外傷であれば外科医は飛んでくるし、高齢者の発熱など専科がはっきりしない入院患者でもジェネラルケースと称して内科が持ち回りで担当している。とくに後者は各専科がジェネラリストというベースの上にスペシャリストとしての技能を持っているためcommon diseaseを診ることに抵抗がない。
救急医がいるため各専科は軽症で呼ばれることがない。
病院全体で救急を支える体制が出来ており専科のバックアップが十分であるため救急車を断ることがない。周辺救急病院の協力もあり、沖縄県中部地区では救急隊から1回目の照会で99%以上が病院選定できている。
モチベーションの高い研修医が多く、時間があると興味深い症例がいないか救急室にやってくる者もいる。

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後期研修カリキュラム

理念:「地域で必要とされる救急医療を理解し提供できる医師」を育成する。
当院では後期研修のみの募集は今まで行われていなかったが、平成22年度より救命救急科専攻医として後期研修の募集が行われている(ホームページ参照)。4年間のプログラムで、各専門科ローテーションと救急センター勤務より成る。1例を下記に示す。

PGY3:内科(4.5ヶ月 呼吸器、循環器、消化器、感染症)、一般外科(2ヶ月)、小児科(2ヶ月)、整形外科(1ヶ月)、麻酔科(1ヶ月)、救急(1ヶ月)、休暇(0.5ヶ月)
PGY4:ICU(2.5ヶ月)、CCU(2.5ヶ月)、休暇(0.5ヶ月)、救急(6.5ヶ月)
PGY5,6:救急

選択として上記救急となっている期間に脳外科、神経内科、腎臓内科、耳鼻科、産婦人科、皮膚科などをローテーション可能である。他施設院外研修も可能である。

カンファレンス/レクチャーの頻度

・月に1回のM&Mカンファレンス
・2週間に1回のスタッフレクチャー
・月に1回の消防隊との症例検討会
・2週間に1回の総合内科との救急から外来フォローにした症例の検討会
・週に1回の病棟回診(救急から入院した患者さんのフォロー)
・年に1人程度、約1週間アメリカから救急のDrを招聘。
・救急をローテーションしている初期研修医には毎日勤務終了後にポートフォリオを用いた振り返りを行っている。ポートフォリオの実際は次に示す。

ポートフォリオは初期研修医がER研修の自己目標、今日新しく経験したこと、今日上手くいかなかたこと、今の気持ち、今後学びたいこと、今日学んだこと、印象に残った患者さんの項目について勤務終了後10分程度で記載し、それを救急スタッフか後期研修医と15分程度で振り返る。メリットは記録として残り、記憶が鮮明なうちにフィードバックができるため初期研修医からのアンケートでも評判は良い。後期研修医にとっても教えることで自らが学ぶことは多い。

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センター概要

【概要】
・名称:沖縄県立中部病院 救命救急センター
・所在地:沖縄県うるま市宮里281
・従業員数:7名(女性医師0名)/後期研修医6名(PGY3-PGY5・女性医師1名)
・Webサイト:http://www.hosp.pref.okinawa.jp/chubu/departments/er.html

【勤務体制】
卒後4年目以降の後期研修医を含むER専従医が下記のように3交代勤務を行っている。ただし、卒後4年目に関して、年度初期は日勤を行い、救急スタッフのバックアップのもとで勤務し、年度途中よりスタッフの合議のもと単独で準夜あるいは深夜の勤務を開始する。卒後3年目後期研修医が救急をローテーションしている時は日勤で勤務する。

【年間救急搬送件数&救急受診総数(2008年12月~2009年11月)】
・救急受診総数:39349名(小児患者数11515名) (入院率 19.4%)
・救急搬送件数:6010名
・入院者数:7639名

【ICU、独自ベッドの有無】
当院では救急医が病棟入院患者を担当することはない。病棟転床は原則として日中に行われるため夜間の入院適応患者は救急室の経過観察ベッドにて初期治療を行う。
ただし、手術後や心カテなどの手技後、救急室の経過観察ベッドが込み合っている状況であれば夜間でも病棟に転床している。
救急室は22床の経過観察ベッドを擁している。(陰圧室1つ)。
救急室に2泊以上滞在することは原則としてない。
ICUへは24時間入室でき、救急医が救急室で初期治療を開始して、ICU医へ引き継ぐ。

学生実習、研修医見学の連絡先

学生見学は春季、夏季に行っています。
短期医師研修も行っています。
詳細はホームページを参照してください。
http://www.hosp.pref.okinawa.jp/chubu/departments/er.html

今後の目標、夢

皆様はじめまして。沖縄県立中部病院にて救急後期研修をしている大久保雅史です。
現在はER大好き後期研修医として救急に携わっています。いろいろな方に「先生は何科の先生ですか?」と聞かれることがありますが「救急です」と言うと少しおやっとされる方もいらっしゃいます。これは世間一般に救急医ってどんな職業かということがあまり認識されていないのでしょう。患者さん、社会から必要とされ、専科の疲弊を防ぐための医師として1次から3次まで、小児から高齢者まで診る救急医は社会のなかで認知されていくと確信しています。今はER型救急にとっては黎明期でありER型救急に携わっている医療従事者は大変な思いをしながら歯を食いしばって日本の救急を支えていらっしゃると思います。(もう少ししたらERという言葉も使わずにEmergency departmentになっているでしょうね。) そのような方々とEMAを通じて交流できることがとても楽しみです。救急はその地域地域にて求められるものが違うと思います。20年後くらいに今を振り返ってみなさんとあのころは大変だったねと笑って話せたらこの上ない幸せです。

抱負

救急をやりたいと思ったきっかけは大学6年生の時にたまたまカナダで病院実習をする機会に恵まれました。2か月のうち1か月を救急室で過ごしました。あまり強く救急を希望した訳ではなかったですが、衝撃的な日々でした。肩関節脱臼を整復したかと思えば心筋梗塞の患者を診ている救急医の姿を見て当時の私は「これしかない」と救急に進む決意をしました。どこで卒後研修したらよいか考えた時に沖縄県立中部病院はアメリカ式に研修をしているようだという話を聞き、やってきました。

初期研修は時間に追われる日々でもう1度やりなさいといわれてもやりたくないですが救急室、病棟で多くの経験ができました。楽しい思い出も悲しい思い出も沢山あります。

救急は思い描いていたように1次から3次まで、小児から高齢者まで幅広い患者さん、疾患を診ることができます。研修を始めてから救急はますます面白いと感じるようになりました。学ぶことがとても多くてそれもまた魅力の1つだと思います。ER型救急を行うには病院全体の救急に対する理解、各専科のバックアップが不可欠です。その点では恵まれた環境で研修できており大変感謝しています。

EM allianceが若手救急医にとって横のつながりを築き、お互いに刺激を与え合い、ともに学び支え合いER型救急を日本で広げる場となることを願っています。今回、大きな可能性を秘めたEM allianceに参加できたことは光栄ですし、微力ながらお役に立ちたいと思っています。よろしくお願いいたします。

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写真左:沖縄県立中部病院にて救急後期研修をしている大久保雅史です。
写真中央:ERマガジン2009年季刊秋号に特集がありますのでよろしければご参照ください。
写真右:同じ中部地区の読谷村残波岬です。周りにはこんなに美しい自然があります。