国立国際医療研究センター
紹介者:萩原 佑亮(Yusuke Hagiwara)
研修内容の具体例
最初の1年間は救急外来専属で働き、約2000台の救急搬送患者を担当することができました。来る日も来る日も鳴り止まない2次・3次の電話が正直恐怖 でもありましたが、ER physicianとして明らかな成長を実感できるこの環境はそうはないと思います。新宿という土地柄もあって、ありとあらゆる患者が搬送されてきます。 診断・治療はもちろんですが、その患者背景、侵襲度、医療費などを考慮した形で最善の治療戦略を組み立てることは救命センターとは違ったERの醍醐味と 思っています。
レジ2年目になり、救急病棟専属で働いた期間は、多発外傷や敗血症性ショックの患者の集中治療を学びました。瀕死であった重症患者が歩いて退院していく 姿は救急医冥利に尽きます。その一方で、高齢化社会における日本の医療の社会的問題にも直面しました。医療は患者個人だけでなく、社会のシステムの問題で あることを実感しました。
国立成育医療センターでは、小児救急を集中的に研修しました。3ヶ月間で約450例の患者を診療し、発熱からドクターヘリ症例まで幅広く研修ができまし た。集中治療を要する重症小児患者を自らリーダーシップをとってマネージメントできるとまでは言えませんが、基本的な小児救急対応は可能になりました。ま た、改めて産科救急を研修したことで、先日も墜落分娩の母体と新生児の初期対応を産婦人科医・新生児科医の到着まで何とかこなすこともできました。
カンファレンス/レクチャー
【平日の毎朝:フィードバックカンファレンス】
昨日の救急外来の症例をピックアップし、初期研修医にはその疾患や病態の必須の知識、レジデントには診断への筋道・治療戦略の組み立て方を中心にディスカッションする。
【毎週水曜日:レジデント・ジャーナルクラブ】
軽食を食べながら、気になる論文を読む。
【月1回:ERカンファレンス】
国立国際医療研究センター、東京医療センター、聖路加国際病院、国立成育医療センターの4病院で行われる定期開催の救急関連のカンファレンス
【他:M&Mカンファレンス、フォローアップカンファレンス、放射線カンファレンス】
平成10年4月より開設され活動を開始しました。24時間365日、2次・3次を問わず、救急車を受け入れています。
救急車による搬送患者は、救急部が24時間365日救急外来で初期診療に携わり、内因性疾患は当該科に初期診療後に振り分け、敗血症性ショック・重症敗血症などの集中治療を要する疾患、または外傷・中毒・環境障害など外因性のものは救急部がそのまま病棟でも担当するというシステムをとっています(小児内科 や産婦人科の分娩に関わるものなどは、小児科・産婦人科が直接担当します。ただし、妊娠中であっても分娩と関連がはっきりしなければ、まず救急部が診療します。)
年間8000件を超える救急搬送患者を扱っており、3次救急患者は11~14%です。約60%が内因性疾患であり、これは東京消防庁の救急搬送患者における急病の割合とほぼ一致しています。
walk-in患者は年間15000人程度ですが、現在、救急部は直接walk-in患者を担当していません。しかし、緊急時や重症時には救急部が担当できるように 常に注意を向けています。病院としては、今後は救急部がwalk-inも担当する形としていくプランではあるようです。
7階南病棟が救急部病棟+経過観察病棟(20床)として独立した看護単位を持っています。夜間の救急入院患者は、小児、産婦および個室を希望する患者を除き原則的に救急病棟に収容され、翌日各病棟に転棟するシステムをとっています。入院率はwalk-inから11%、救急搬送から11%となっています。2010年7月に新病棟が完成した際には、救急ICUベッドを完備するため益々の充実が図られます。
完全2交代制のシフト勤務で働いており、後期レジデントは9名です。毎年3~4名の新レジデントが増えています。指導医2名(専門医4名)と大学病院に比べれば少ないスタッフ数ですが、その分、レジデントが積極的に診療にあたり、責任感から大きな成長を得られています。
平日の毎朝に昨日の救急外来の症例をピックアップして、フィードバックカンファレンスを行います。初期研修医にはその疾患や病態の必須の知識、レジデントには診断への筋道・治療戦略の組み立て方を中心にディスカッションをし、その判断根拠が曖昧なときには厳しい追及を受けることもあります。常に根拠を求める姿勢がこのカンファレンスで身に付きます。また、月1回行われるERカンファレンスでは、東京医療センター、聖路加国際病院、国立成育医療センターと行うため、他病院の知識や方法を学ぶいい機会になります。
センター概要
【概要】
・名称:国立国際医療研究センター
・所在地:〒162-8655 東京都新宿区戸山 1-21-1
・Webサイト:http://www.ncgm.go.jp/sogoannai/kyukyubu
・スタッフ&レジデント数:スタッフ7名(うち女性医師1名)、レジデント7名(うち女性医師2名)
・指導医数:日本救急医学会指導医2名(日本救急医学会専門医7名)
・勤務体制:完全2交代制
【救急来院患者数 成人/小児それぞれ(年)】
walk-in 15000人程度、救急車10000台程度(うち3次は11~14%)
小児内因性疾患は約30%、小児外傷は約5%
【入院率】
全体で約20%(walk-in11%、救急車11%)
【ICU、独自ベッドの有無】
救急部病棟+経過観察病棟(20床)、新病棟完成時には救急ICUベッド完備
学生実習、研修医見学の連絡先
Email:medical_qq(アットマーク)yahoo.co.jp
臨床研修以外に興味のあること
後期研修中には、付属の国際臨床研究センターで臨床疫学研究の基礎を学び、2つの原著論文を投稿することができました。試験管を振るような研究にまったく興味のなかった自分にとって、研究や論文は関係ないものと思っていました。しかし、臨床疫学研究は、多くの患者を診ているからこそ、できる研究であり、 その結果が次の日から患者の診療を変えることは衝撃的でした。
今後の目標、夢
複雑化する社会の中で、医療自体も複雑性を増しています。患者の安全性を確保した上で、それをシンプルになるように治療戦略やフォローを考え、安全性と 低コスト・低侵襲といった相反するものを如何に両立させていくかが、ER physicianとしての大きな目標です。救急医療はその地域やそのシステムに非常に影響を受ける領域なので、公衆衛生的な視点を持ちつつ、実際の医療 現場では、患者にとっては医療の水先案内人、医療者にとっては指揮者のような存在でありたいと思います。
EM allianceを通じて、すばらしい人々と巡り合え、救急を選んで本当に良かったと思っています。これまで臓器専門性がないことでIdentity crisisを実感したこともあります。日本のER型救急の発展のためにはER physicianのIdentity確立が必須であり、そのために日々の救急医療をscienceとして高めることが重要だと考えています。
まだまだ未熟な自分ですが、こんな自分でもここまで成長をさせてくれた環境に感謝しています。現在、私自身が勤める施設は変わりましたが、この施設が自分にとっての原点です。これからも頑張らせていただきます。