2020.07.13

リーダーシップ

Monash university・新潟市民病院 佐藤 信宏

<1.はじめに>
なぜウェルネスについての話題なのに、今回のテーマはリーダーシップなのでしょうか?
それは、リーダーシップ能力の高いリーダーがいると、バーンアウトのリスクが下がると報告されており、リーダーシップとウェルネスは関連があるからです1。リーダーがウェルネスについて知っていると、職場のバーンアウトを減らすことが出来る可能性があるのです。

<2.リーダーシップとは>
 リーダーシップには、多くの定義があり、唯一のものはありません。リーダーシップを定義しようとする人の数だけ、定義があるとさえ言われています。リーダーシップに関する多くの文献がありますが、トヨタ、Googleなど企業の成功例に基づいたものがほとんどであり、エビデンスは極めて弱い分野です。「マネジメントの父」とも呼ばれるPeter・F・Druckerは、「リーダーの唯一の定義は、フォロワー(従うもの)を持つ人」、リーダーシップを「組織の使命を明確にメンバーに提示できること」と言っています2

<3.リーダーシップとマネジメント>
リーダーシップという言葉と共によく出てくるものが、マネジメントです。リーダーシップとマネジメントは、何が違うのでしょうか?
マネジメントは、目標を達成するためのプロセスです(図1)3, 4。リーダーシップ論の権威である、ハーバードビジネススクールのJohn Kotterは、「リーダーシップは変革能力であり、マネジメントは管理能力である」と言っています。
実際に、我々医療者は、診療現場で働く場面でも部門を運営する場面でも、両者の役割を果たすことが多いです。また、有能なリーダーは、マネジメント業務を他の人に上手に委ねます。
皆様の周囲にいる優れたリーダーは、仕事を分配するのが上手ではありませんか?


図1. リーダーシップとマネジメント

<4.良いリーダーとは>
自分自身・仲間のことをよく知っている(長所と短所)
自信を持っている(過信ではない)
戦略を仲間に上手く説明できる
皆で共有できるビジョンを作る
チーム内の仲間の才能に気づき成長させることが出来る
他の人に仕事を任せることが出来る
倫理観があり、信頼されていて、チームメンバーに尊敬される
技能が優れている上、自らの限界を知っている
模範となって統率する
一貫していて安易にあきらめない
挑戦していく準備が出来ていて、変化にポジティブに反応する
失敗・挫折の生かし方を知っている(例)

(例)
・Walt Disneyは、青年期に想像力・独創性がないと新聞社を解雇されている。
・Michael Jordanは、高校入学時、身長が小さくてバスケットボールチームに入れなかった。
・Steve Jobsは、自ら始めたApple社を追放された。

<5.リーダーシップ教育>
リーダーシップは、才能なのか、後天的に得られるものなのか、リーダーシップに唯一の定義がないため、その答えも様々です。後天的に伸ばすことが出来るとされるリーダーシップ能力も、短期間での習得は難しく、リーダーシップについての学習から効果が出るまでに時間がかかるとされています5
教育方法として、①自分自身を省察し失敗から学ぶこと、②繰り返しの学習が効果的とされています。
オーストラリアの救急医のウェルネスの団体、WRaP EMでは、リーダーシップについて、ケーススタディを掲載していますが(https://wrapem.org/modules/leadership/) 救急外来や部門運営で遭遇しそうなシチュエーションを取り上げ、複数人でディスカッションするのも1つの学習方法かと思います。
EMAでは、救急部門長のためのコースDirector’s Academy(https://www.emalliance.org/event/fd/) を開催し、リーダーシップについても取り上げています。興味のある方はぜひご参加ください(2020年7月現在、新型コロナウイルスの影響を鑑み、中止しております)。

<6.まとめ>
 今まで、医療業界では、ウェルネスという概念は軽視されていました。しかし、バーンアウトは、医療の質、医療安全、医療者の離職など様々な問題に関連するため、昨今注目されつつあります。ウェルネスにおいて、今が変革期だからこそ、古い思考や、固定観念を取り払う、リーダーシップが必要とされます。我々救急医は、診療現場はじめ、様々な場面でリーダーとしての働きを求められることが多いです。リーダーシップを持って、仲間のウェルネスを改善することで、バーンアウトを減らしたいですね。

お勧め図書
・WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う サイモン・シネック 日本経済新聞社
「本物のリーダー」とは?従わざるをえないリーダーではなく、仲間を奮起させ、感激させるリーダーになるコツについて書かれています。
・プロフェッショナルの条件 P.F.ドラッカー ダイヤモンド社
一流の仕事をするために、いかに成果をあげ、成長するか。マネジメントで有名なドラッカーが自己実現していく方法について書いた1冊。

参考文献
1.Shanafelt TD, Noseworthy JH. Executive Leadership and Physician Well-being: Nine Organizational Strategies to Promote Engagement and Reduce Burnout. Mayo Clin Proc 2017;92:129-46.
2.Peter F Drucker. プロフェッショナルの条件. ダイヤモンド社.2000.
3.Bohoris G, Vorria PE. Leadership vs Management: Business Excellence/Performance Management Review. Lund University Helsingborg.
4.Kotterman, J. Leadership vs Management: What’s the difference?, Journal for Quality & Participation 2006; 29(2): 13-17.
5.Health Workforce Australia. Leadership for the sustainability of the health system: Part A Literature Review. Adelaide. 2012