2021.09.01

共働きと男女の役割について

藤田医科大学病院 救急総合内科 渡瀬博子

共働き: 夫婦が共に雇用され働いていること。一般に結婚したカップルの双方に賃金収入がある状態をさす。一般的には、夫のみならず、家庭内において妻の位置にある女性も社会的な労働に従事することを指す。


共働きの割合増加と妻のサブエンジン
内閣府2020年版『男女共同参画白書』によれば専業主婦のいる世帯を意味する「男性雇用者と無業の妻から成る世帯」と共働きを意味する「雇用者の共働き世帯」は下グラフのように1980 年は11:6でしたが、2019年では1:2とほぼ逆転しています。


令和2年度版 男女共同参画白書より

一見すると、このグラフは先進的な流れのように感じます。しかし、共働き世帯が増加はしていても、子供を持つ夫婦の状況を見ると、20代後半から40代の妻の「仕事時間」は約4時間、夫の「仕事時間」は妻の就業有無に関係なく約9時間となっています。
つまり妻の就業形態はパート(週間就業時間35時間未満)の世帯数が上昇しており、共働き増加の大部分は妻がパートよるものであると言えます。つまり夫婦の就業状況における妻の役割はサブエンジンにとどまっているということなのです。夫婦ともにフルタイムで働くダブルエンジン型の共働き世帯は実は今でも低いままであり、20代後半から40代のダブルエンジン型は共働き夫婦のたったの2割にとどまっています。

これを読んでくださっている医療従事者の方々も思い当たるのではないでしょうか。出産後、当直や休日、夜間の呼び出しを免除してもらって勤務している女性医師は少なくないと思います。

もちろん「ダブルエンジン型が正しい、望ましい」という訳ではなく、それぞれの家庭で、夫婦ともに心地よい形が良いと思いますが、次に述べるような理由で、やむなく仕事を制限している人も居るかもしれません。


なぜダブルエンジン型が少ないのか
一番の理由は日本の一人当たりの仕事時間が長いからでしょう。毎日朝7時に出て夜10時に帰宅するという猛烈な働き方をする人が家の中に2人いたら家庭は成り立ちません。フルタイム労働は残業や出張、単身赴任も厭わない、医師であれば休日出勤、頻回の呼び出しや当直など長時間労働が前提となっています。こうした長時間労働を評価する労働市場が女性の仕事と家庭の両立を阻んでいます。「タイムマッチョ」という言葉で男性的な時間の使い方が求められる労働社会において女性が仕事と家庭を両立していくことの難しさがあります。

子供を持つ20代後半から40代の妻の「家事、育児、介護」時間の推移を見ると、共働き世帯、専業主婦世帯どちらにおいても1975年からほぼ変化していません。一方、夫の「家事、育児、介護」時間は妻の就業有無による差はなく、ここ10年間で6分しか増加していないそうです。
「家事、育児、介護」の負担が女性に偏っている現状があり、生活満足度などへの影響、仕事との両立の難しさにつながっている状況にあると予想されます。これは男性自身の家庭への参画の意識の変革と同時に、女性側も男性に家事、家族ケアを任せられるようにする意識も大切であると思います。


海外における共働きの実態は
以前、アメリカで中国やアメリカ人女性医師、また日本人医師夫婦と出会う機会がありました。日、中、米の女性医師の働き方を比べてみると様々で非常に興味深かったです。もちろん国によって分けるべきではなく、個人や夫婦で異なることが多いとは思いますが、敢えて国別に分けてみると、、、。

🇯🇵日本
夫の留学が1-3年以内の場合、女性医師である妻は仕事を一時中断してアメリカへ帯同している多くの夫婦に出会いました。しかし逆に、妻である女性医師が留学し、夫が帯同しているケースはたったの1組だけでした。

🇨🇳中国
夫と子供を中国に残して一年間米国留学に来ている中国人女性医師にたくさん出会いました。私の周りには男性医師の留学生よりも女性医師の方が多数でした。夫は中国で仕事を続け、両親が子供の面倒、家事を担っているとのことでした。中国も日本と同じく医者は激務のようで、普段から中国で家事、子育ては両親に頼り、自分は仕事中心の生活をしてきたという人がほとんどでした。「女性だからといって仕事をセーブする意味がわからない」と言っていたのが印象的でした。

🇺🇸アメリカ
アメリカ人は夫婦により大きく異なる印象です。二人ともタイムマッチョ的に働きたいからベイビーシッター(たまに住み込み)を雇う、妻が仕事をセーブしている、旦那が医師ではなく専業主夫もしくは在宅勤務で家事、子育てを担っているなど様々でした。

そこで私感だけではなく、一般的な中国、アメリカの共働き事情について調べてみました。

🇨🇳中国は男女による労働意識の差がない
中国は、中華人民共和国が設立されてから、男女問わず平等に働くことが基本であり、男女平等に働く社会で育った女性は結婚、出産後、経済的な理由だけではなく自己実現のために就業を望むなど、総じて働く意欲が高いようです。2012年に行われた調査では専業主婦になることを「考えたことがない」人の割合は62%であり、理由としては経済的理由に次いで、「社会から離れたくない」「自分のやりたいことや理想を追い求めて仕事をしている」などが上位にあがっていました。働く女性の教育レベル、勤務時間を見ても男性と差がないとのことでした。

🇺🇸アメリカは公的補助が少ない分、自分達で分担しながら頑張る意識
子供を持つ世帯の60%は共働き、働く既婚女性は世帯の44%の収入を担っているというデータもあり、女性の経済的影響力は大きいようです。しかしその一方、アメリカは共働き世帯を支援する制度があまり整っていません。国として産休、育休制度はなく、州や雇用主の裁量に任されています。また託児所も非常に料金が高く(月約25万円を超えることも)、質の担保も課題のようです。制度が頼りない中、まずは家族で助け合うという意識が強いようです。家事の分担率を見ても男女差が一番少ないのはアメリカであり、家事が好きと答えた男性はアメリカで9割になります(日本は5割)。また子供がいる世帯に家政婦やベビーシッターなどの代行サービスを利用したことがあるのはアメリカでは8割以上、日本は1割という差がありました。


日本の共働き社会の未来は明るい!?
このように日本の共働きに対する動きは、中国やアメリカより鈍いようにも思いますが、興味深い調査結果もありました。
下記グラフのように日、中、米の意識調査結果があります。意外にも「女性は結婚したら家事、育児に専念すべきである」「家族の介護、看護は女性が中心に行うべきである」の項目で、日本がアメリカや中国を大きく下回っています。女性の役割としてこうあるべきという社会通念については否定的な考え方を示す日本人が中国、アメリカより多かったのです。「家事は夫婦で協力して行うべきである」「育児において母親と父親では平等に参加すべきである」などの項目でアメリカ、中国とあまり大きな差が見られず、日本人は意識の面では男女平等が進んでいると言えるのです。


知的資産創造 2015年8月号

しかし、一方で日本の男女共に理想の女性像として、「家庭生活や趣味などプライベートに重きをおいている女性」というのが1位であり、「男性並みかそれ以上に働く有能で高収入なキャリア女性」という女性像に共感する人は男性で7%、女性でも9%しかいませんでした。日本人は上記のグラフのように、総論的には性別役割分担を拒否する一方で、各論的(自分のこと)には男女ともに家庭に軸足をおいた女性像を望んでいることがわかります。このように総論と各論での意識のギャップは筆者も痛いほどによくわかります、、、。

誰もが活躍する世の中にするには
まずは男性の労働時間を短縮することが重要になって来るでしょう。男性を家庭に帰すこと、家庭を共に支える男性がまずワークライフバランスを実現し、男女ともに当たり前のように家事や育児、趣味の時間を持ち、協力しあえる社会を作ることが大事でしょう。またもう一つ大事なのは、女性自身も夫婦間で「就業」ではサブ、「家事、育児、介護」ではメインでなければならないという軛(くびき)から逃れることです(自戒を込めて)。

男女間での仕事、家庭におけるメイン、サブといった役割の分担の偏りが緩和されれば、「イクメン」などの男性の家庭人としての自覚が進んできたように、女性においても「稼ぎ手」としての自覚が進むのではないでしょうか。

今後は職業を問わず、夫婦ともにフルタイムで働くダブルエンジン型の共働き世帯、もしくは女性に限らず誰もが社会に強制されることなく自分と家族にとって最適なワークライフバランスを選択し、その中での労働に対して正当な報酬を得られる社会を構築することが重要となって来るだろうと考えます。男性・女性にかかわらず、したいこと(それが仕事でも、家庭でも、趣味でも)を追求されることが許される世の中になっていくといいなと思います。

【参考文献】
三枝佐枝子著『共働きの人間学』
株式会社平凡社世界大百科事典 第2版
令和2年度版 男女共同参画白書
2015年社会階層と社会移動 (SSM) 調査研究会
知的資産想像2015年8月 野村総合研究所Nomura Research Institute