2020.04.01

バーンアウトについて

大阪大学公衆衛生学教室 花木奈央

<バーンアウトとは>


 バーンアウト(burnout)とは、活発に仕事をしていた人が燃え尽きたように意欲をなくした状態を示し、長期間にわたり人に援助する過程で、心的エネルギーが絶えず過度に要求された結果、極度の身体的疲労と感情の枯渇状態を示す状態といわれます。
 バーンアウトは3つの因子で定義されています。まず、①情緒的消耗感が出現し、続いて②脱人格化が起こり、さらに進むと③個人的達成感の低下が起こります(表1)[1]。

表1:バーンアウトの3因子(文献1より改編)
情緒的消耗感 仕事を通じて心のエネルギーが出尽くし消耗した状態
脱人格化 サービスの受け手(患者)に対する無情で非人間的な対応
個人的達成感の低下 成果の急激な落ち込みと、それに伴う有能感や達成感の低下

 この3つの因子のうち、①情緒的消耗感がバーンアウトの主徴候と考えられていて、医師の場合は職業倫理感により②脱人格化に至らないよう抵抗している例が多いといわれています。③個人的達成感の低下まで至ると仕事を続けられなくなることもあり、完全に燃え尽きる前に気づき対応をすることが重要とされています。

<医療従事者とバーンアウト>


対人援助職のなかでも医師、看護師、教師はバーンアウトのハイリスクとされ[1]、医師の半数がバーンアウト状態であり近年その割合が増加しているという報告もあります[2]。
 救急医を対象とした海外の研究では、特に救急医は、業務量の多さ、高い訴訟リスク、不規則な睡眠などから、バーンアウトに注意が必要とされています[3][4]。

<どういう人がなりやすい?>


 バーンアウトは精神的・身体的ストレスの結果生じる反応と考えられており、個人的要因(性格、年齢、経験年数)や環境要因(過重負担、職場での役割)が関係するといわれています。
 個人的要因としては、まじめ・ひたむき・人と深くかかわろうとする性格や、年齢が若い・経験が少ない方がバーンアウトしやすいといわれています[5]。環境要因としては、仕事の時間や質に対する過剰な要求がなされる過重負担が最も大きな要因とされ、その他には仕事の進め方に裁量の余地が少ない状況や、最も重要な仕事に費やす時間が少ない状況などが知られています(表2)[5]。

 また、欧米においては女性医師の方がバーンアウト率が高いという報告が多く[6]、「家事も育児も頑張りたい」と考える医師が多いという個人的要因や、ハラスメントや、『家事や育児は女性が行うもの』という考えの押し付け等、環境要因の影響が考えられています。

 救急医を対象としたバーンアウトのレビュー[4]では、業務量・仕事満足度・同僚との関係・仕事とプライベートの関係性といった項目が、救急医のバーンアウトに関連する職場環境要因として挙げられています。

<どう予防するか?>


 バーンアウトしないために、自分自身・自分以外・組織としてできる対策をまとめます[5][7]。

表2:バーンアウトに関連する要因(文献4より改編)
個人的要因 性格 まじめ・ひたむき・人と関わろうとする性格
年齢 若年
経験年数 経験年数が少ない
環境要因 荷重負担 仕事の時間や質に対する過剰な要求がなされる
職場での役割 仕事の進め方に裁量の余地が少ない
最も重要な仕事に費やす時間が少ない

・自分自身に対して
 2015年からストレスチェックが健康診断として義務化されています。高ストレス者は希望がある場合は産業医への面談を申し込むことができます。
 個人でできる対応としては、ストレスや負荷を減らす工夫を考え実行することです。医師になることを選んだ人の多くは、まじめで患者さんのためになることをしたいという思いがあり、医師になる前もなった後も長年にわたり多くの要求にこたえ続けていることが多いです。すべての期待や依頼にこたえ続けるのではなく、今の仕事量を把握し、新たな仕事を引き受ける時はもともとの就業時間で引き受けることが可能か考え、時には「無理です」と返事をすることが必要になります。

・同僚など自分以外に対して
 メンタル不調のサインとしては、遅刻が多くなった、残業が増えた、イライラすることが増えた、他の部署からのクレームが増えた、などが知られています。一見、怠けや本人の資質の問題ととらえがちですが、困っていることや悩みがないか尋ね、背後にバーンアウトなど精神的な問題がないか確認をすることが必要です。
 チームとしては、気軽に問題を相談できる環境、また、仕事から完全に離れてリフレッシュできるような雰囲気づくりが重要です。

・組織として
 マネージャー的立場にある人が最前線に立って一番多くの診療を行っている状況では、うまくいきません。マネージャーが個々のスタッフの状況を把握し、他の医師や部署との調整を行いながら円滑に部門としての目標を達成できる組織作りが重要となります。
 具体的な方法の一つとして仕事量そのものを減らす工夫があげられます。個々の医療機関内の業務の効率化や、不要なメールの削減も対策の一つです。メールのフィルター機能を利用する、「念のため」にCcに入れているメールアドレスを見直すことも有用です。

<自分がバーンアウトしていると思ったら>


 バーンアウトしているかどうかは自分で気づきにくいです。健康診断のストレスチェックで「高ストレス」と判断された場合、周りの人から「忙しそうだけど大丈夫?」といわれた場合は、「自分が危ない状態なのだ」と理解しましょう。
「他の人も同じようにつらいのだ」と我慢をして仕事をしてしまいがちですが、まずは同僚や上司など信頼できる人に状況を相談してみましょう。

 バーンアウトについては医師に限らず様々な職種・業界で対策が考えられています。この文章が、みなさん自身や周りの人の働き方を見つめなおす一助となると嬉しいです。

参考文献
1. Maslach C, Schaufeli WB, Leiter MP. Job Burnout. Annu Rev Psychol. Annual Reviews; 2001;52: 397–422. doi:10.1146/annurev.psych.52.1.397
2. Shanafelt TD, Hasan O, Dyrbye LN, Sinsky C, Satele D, Sloan J, et al. Changes in Burnout and Satisfaction with Work-Life Balance in Physicians and the General US Working Population between 2011 and 2014. Mayo Clin Proc. Elsevier Ltd; 2015;90: 1600–1613. doi:10.1016/j.mayocp.2015.08.023
3. Stehman CR, Testo Z, Gershaw RS, Kellogg AR. Burnout, drop out, suicide: Physician loss in emergency medicine, part I [Internet]. Western Journal of Emergency Medicine. eScholarship; 2019. pp. 485–494. doi:10.5811/westjem.2019.4.40970
4. Boutou A, Pitsiou G, Sourla E, Kioumis I. Burnout syndrome among emergency medicine physicians: An update on its prevalence and risk factors. Eur Rev Med Pharmacol Sci. Verduci Editore s.r.l; 2019;23: 9058–9065. doi:10.26355/eurrev_201910_19308
5. 海野佳子. バーンアウトに対する個人でできる対策. 医学のあゆみ. 2019;269: 244–246.
6. West CP, Dyrbye LN, Shanafelt TD. Physician burnout: contributors, consequences and solutions. Journal of Internal Medicine. Blackwell Publishing Ltd; 2018. pp. 516–529. doi:10.1111/joim.12752
7. 一ノ瀬英史. 燃え尽きやすい職場、燃え尽きにくい職場. 治療. 2019;101: 567–569.