2022.10.17

アンコンシャス・バイアス

アンコンシャス・バイアスを知ろう

大阪大学公衆衛生学教室
花木 奈央

 アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)という言葉を聞いたことがありますか? 今回は、アンコンシャス・バイアスの中でも、個人に見られるものについて解説します。

1 アンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアスとは、考え方の癖であり、出来事に対する捉え方や受け止め方の偏りのことです。他にも「無意識の思い込み」「無意識バイアス」などと表現されることがあります。

アンコンシャス・バイアスは私たちが生活するうちに知らず知らずの間に刷り込まれた価値観の偏りです。気が付きにくいことが特徴でもあるため、アンコンシャス・バイアスを持っていること自体は責められるべきものではありません。

しかし、近年このアンコンシャス・バイアスの負の側面が知られるようになりました。今回の内容が、自分の中のアンコンシャス・バイアスに気づき注意をしていただくきっかけになればと思っています。

アンコンシャス・バイアスは、個人に見られるものと、組織に見られるものとに大別されます。今回は個人に見られるアンコンシャス・バイアスについて事例を交えてご紹介します。

2 アンコンシャス・バイアス事例紹介

アンコンシャス・バイアスにはさまざまなものがあります。

以下に3つ事例をあげながら説明します。

事例1)親と息⼦が交通事故に遭った。⽗親は死亡、息⼦は重傷を負い、救急⾞で病院に搬送された。 運び込まれた男の⼦を⾒た瞬間、外科医が思わず叫び声を上げた。「⼿術なんてできない、その⼦は私の息⼦だから」
これはどういう状況でしょうか?

この事例はけっこう紹介されているので、ご存じの方もいるかもしれません。
これは「この外科医が母親だった」もしくは「この外科医が同性のパートナーだった」ら起こりえます。

この背景にあるのはステレオタイプバイアスパフォーマンスバイアスです。

● ステレオタイプバイアス
人の性別や年齢などの属性や特定の職業や地位などの傾向に対するアンコンシャス・バイアスです。例として、「裁判官は男性」「高齢者にITは向いていない」「九州の人はお酒が強い」等があります。

● パフォーマンスバイアス
「性別/人種/年齢」などの属性を無意識に「能力」に結びつけるアンコンシャス・バイアスで、「見た目が年長の人は、若く見える人より専門知識が高いと思う」「2つの同じ内容の履歴書を比較した際に、男性の名前がついているもののほうが、女性の名前がついたものより「雇用しがいがある」と判断する」等があります。

事例2)「女性って色々訴えが多いよね」「○○出身の人ってそうだよね」

このように、性別や出身大学、職業でその人となりを判断することはありませんか?実際にはそのような大きなくくりで人の特性が決まることはありません。

● 過剰な一般化バイアス

極度に限られたサンプルをもとに、全ての同じ属性の人に対して「一般化」をすることを、過剰な一般化バイアスと呼びます。例えば、「外科で働くのは大変だから女の人には無理だよね。」「男は浮気する生き物だよね・・・ 。 」など自分の身の回りの数人が世の中全体を表しているかのように考えることが該当します。

● マイクロアグレッション
特定の属性を持つ人に対する無意識の偏見、無理解、差別などの言動のことをマイクロアグレッションと言います。本人にとっては傷つける意図がなく無意識に行っている可能性もあり、国籍やセクシャリティなどが対象となることが多いと言われています。

事例3)女性に対して「先生、お子さんいて大変でしょう?次の講演はほかの人に行ってもらおうか。」
男性に対して「先生は、奥さんがお子さんの面倒をみてくれていいですね」

● 慈悲的差別
女性が家事や育児で忙しく家庭を優先すべきだという思い込みから、学会発表を譲らせることはキャリアや成長機会を奪うことになります。これは、少数派に対する好意的ではあるが勝手な思い込みである慈悲的差別に当たります。同じようなものとして、「子どもがいる女性には負荷の高い業務を任せない」等があります。

● 家庭内性別役割バイアス
家事や育児は「女性の役割」という無意識バイアスのことです。「女性には負担のかかる仕事を任せない」「育休明けの女性に対し、仕事量をセーブすることが前提と考え、簡単な仕事しか任せない」等の例があります。

以上、事例を交えてアンコンシャス・バイアスについてご紹介しました。

3 そのほかの個人に見られるアンコンシャス・バイアス

個人にみられるアンコンシャス・バイアスには、以下のものもあります。

● ハロー効果
「犬好きの人に悪い人はいない」など、ある人物に好意を抱くとその人に関するすべてのものに対して好意的になること。

● 親和性バイアス
「同じ学校や地域出身の人により好感を持つ」など、自分と似た人の方により親しみを感じやすく、好感を持ちやすくなることです。

● インポスター症候群
自分自身を過小評価し、可能性を閉ざしてしまう思い込みのことです。過去に、Essential for usでも取り上げています。
詳細( https://www.emalliance.org/emaforus/essential/individual/imposter

● 確証バイアス
「長時間働かないと成果がでない」など、自分がすでに持っている先入観や仮説を肯定するため、自分にとって都合のよい情報ばかりを集めることです。

4 医学領域での扱い

医学の領域についてですが、Pubmedで「unconscious bias」で検索をすると、2010年代に入ってから論文数が増加し、2021年は85本の論文が出版されていました。医中誌Webで「アンコンシャス・バイアス」「無意識バイアス」で検索をしたところそれぞれ16本11本の文献が見つかりました。扱われている内容は、患者に対するアンコンシャス・バイアスの影響と女性医師の役割が多く見られました。

以上、個人にみられるアンコンシャス・バイアスについてご紹介しました。これ以外にも組織にみられるアンコンシャス・バイアスも存在します。アンコンシャス・バイアスを完全になくすことはできませんが、自分の中のアンコンシャス・バイアスに気づくことで互いを尊重した対応ができると思います。今回の記事がアンコンシャス・バイアスについて知るきっかけになればうれしいです。

参考資料

第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~(令和2年12月25日閣議決定) | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)
https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/5th/index.html

無意識のバイアス‐Unconcious Bias-を知っていますか(男女共同参画学協会連絡会)
https://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2019/UnconsciousBias_leaflet.pdf

福岡県女性の活躍推進ポータルサイト(福岡県人づくり・県民生活部男女共同参画推進課 女性活躍推進室)
https://joseikatsuyakuoentai.pref.fukuoka.jp/unconscious_bias/