2024.03.22

どうなる?!医師の働き方改革

どうなる?!医師の働き方改革

森川 美樹

 20244月より医師の働き方改革の新制度が始まると、ニュースなどで耳にした方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そもそも我々の仕事に労働基準法など適用されているのか??と突っ込んでしまいたくなりますが、これを機に私たちを取り巻く労働環境の現状を知り、何が大きく変わっていくのかを知りましょう!

 

◎私たちの現状

 ご存知の通り、我が国の医療は医師の長時間労働によって支えられています。病院常勤医の約4割が年960時間超の時間外労働・休日労働を行なっており、さらに約1割が年1860時間超となっています。特に救急科は過労働時間が多い診療科1位となってしまっています。また、若手の医師に長時間労働が多くなっています。

 

(厚生労働省令和3年度第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議資料より抜粋)

これからさらに高齢化が進む日本において医療需要が増えることは目に見えていますが、それに対し持続可能な医療を提供するため、医師が働きやすい環境を作ろう!とのことで働き方改革が始まることとなりました。

◎そもそも労働時間とは?

 法定労働時間は8時間/日、40時間/週と決まっています。しかし、やむを得ずこのルールを超える場合には労働者と医療機関との間で協定を締結する必要があります。その協定は労働基準法36条に基づくことから、36協定と呼ばれています。36協定締結後の時間外労働の上限は月45時間、年360時間とされています。36協定では、時間外・休日労働で行う業務の種類や延長することができる時間外労働の上限時間、休日労働の上限回数が定められています。しかし、医師についてはその業務の特殊性から、特別条項付き協定を締結すれば、法律上の上限時間の適応はなく、各施設の36協定で定められた上限に準じるとされていました。

◎何が変わるの?

 20244以降、時間外勤務の上限は、36協定に則った場合「原則月45時間、年360時間」、特別条項付き36協定を締結した場合は「月100時間、年960時間」となります。とはいうものの、日本の医療の現状を見ると、とても現実的な規定ではありません。そこで、都道府県の指定を受けた医療機関では、下記のような時間外労働の上限が設定されています。1860時間を上限としているのは、先述の通り、年1860時間を超える時間外労働を行なっている医師が1割いることから、まずその1割の医師の労働時間を確実に減らす目的で設けられました。

宿日直許可とは?

 病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければいけないこととされています(医療法第16条)。宿直中は待機時間も原則は労働時間になりますが、医療機関が労働基準監督署による宿日直許可を受けている場合、待機時間は労働時間に含まれません。宿日直許可基準の概要は下記となりますので(いわゆる寝当直のような勤務を想像してください)、まずは勤務されている医療機関での取り扱いを確認してみましょう。

<宿日直許可基準の概要>

l  状態としてほとんど労働する必要のない勤務であり、通常の労働の継続ではないこと

l  問診等による診察(軽度の処置を含む)等、特殊な処置を必要としない軽度または短時間の業務に限ること

l  夜間に十分睡眠が取り得ること

 

◎オンコールは?

 オンコールに関しては具体的な基準がなく、医療機関や診療科ごとに様々なため個別に判断されます。呼び出しの頻度や待機中の活動制限などにより労働時間に該当するかどうかが決まります。

 

◎自己研鑽とは?

 私たちは臨床診療以外にも勉強会の資料作り・学会発表のスライド作り、勤務外の手術症例の見学など、いわゆる勉強のためにしていることがたくさんあります。それらを自己研鑽と言います。自己研鑽のうち、上司などの指示により行われるものは労働時間に該当します。しかし自己研鑽のために在院している時間全てが労働時間となるわけではなく、使用者の指揮命令下に置かれているかによって判断されます。

<労働時間に当たる自己研鑽の具体例(上司の指示の下で行われる場合のみ)>

l  診療ガイドラインや新しい治療法等の勉強

l  学会・院内勉強会等への参加や準備

l  専門医取得・更新に係る講習会の受講

l  勤務外の手術・処置の見学

 

◎インターバル

 十分な休息時間を確保するため、医師の勤務間のインターバルが規定されます。始業より24時間以内に9時間、24時間を超える勤務の場合は始業より46時間以内に18時間、連続してインターバルを取ることとなります。細切れは認められていません。しかし、やむを得ずインターバル中に緊急の業務が発生した場合は翌月末までに代償休息を取ることとされています。C-1水準の医療施設に勤務する臨床研修医は、24時間を超える勤務の場合は始業から48時間以内に24時間の連続したインターバルの確保が必要となります。

 

◎労働時間以外に変わることは?

 労働時間以外でも、医師の働き方改革で新しくなることがあります。時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師には面接指導が実施されます。面接で確認される事項は勤務・睡眠・心身の状況や疲労の蓄積状況です。この面談は本人の希望の有無に関わらず、面談を受けなければならないこととなっています。

 

以上、働き方改革に関してまとめてみました。では実際私たちへの影響はどうなるのでしょうか?労働時間を意識することで、さらにメリハリのついた時間の過ごし方ができるかもしれません。インターバルが確保されることにより、睡眠時間が確保され、心身の健康維持にはメリットがあるかもしれません。施設によっては他職種へのタスクシフトも進んでいくかもしれません。しかし、限られた労働時間内の業務量の増大や、インターバル確保のための外勤の減少、時間外労働への対価の有無、派遣人員不足による地域医療の崩壊、他診療科による救急業務からの撤退なども囁かれています。始まってみないとわからないこともあるかと思いますので、EMA for usとしても動向に注目しつつ皆様に有用な情報を引き続き提供していきたいと思います。皆さんの施設ではどのような工夫をされていますでしょうか?是非メーリングリストなどでシェアしていただけると嬉しいです。

 

参考:厚生労働省HP. 医師の働き方改革https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355.html

いきいき働く医療機関サポートwebいきサポ.

https://iryou-kinmukankyou.mhlw.go.jp/beginner

厚生労働省令和3年度第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議資料

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf