2019.11.15

第3回「RCTその2」

【登場人物】
・G先生:初期研修医2年目(救急部研修中)
・M先生:ER後期研修医1年目
・Y先生:ER指導医

【今回の症例】
昼下がり、患者もあまり来ず、久しぶりに時間のある救急外来。あくびをしていたM先生のところに「転んで膝を切った8歳男児」が受診してきた。

M「どうぞー」
患児「えーん!!えーん!!」
M「どうしたのかな?遊んでたら転んじゃった?」
患児「えーん!!えーん!!」
M「泣いてばっかじゃわからないよ。お兄ちゃんに教えてくれるかな?」
親「ほら、ちゃんと説明しなさい。」
患児「えーん!!えーん!!」
M「(はぁ…)ちょっと傷見せてねー。あ、こりゃ深いね…。」
患児「痛いー!!痛い!!」
親「先生、やっぱり縫わないとだめですか?」
M「そうですね。これだけ切れてると縫った方がいいですね。」
患児「やだー!!絶対やだー!!」

大暴れする患児を3人がかりで抑え込みながら何とか縫合したM先生。

M「・・・はい、じゃ、明日傷を見せに来て下さいね。」
親「すいません、大騒ぎさせてしまって…。」
M「いや、いいんです。子供は元気ですから。(・・・でも、実際鎮静かけれたら楽だよなぁ。最初の点滴だけで済むし。少しいい方法が無いか探してみるか。)」

【今回のテーマ】
Amit Shah, MD, et.al. A Blinded, Randomized Controlled Trial to Evaluate Ketamine/Propofol Versus Ketamine Alone for Procedural Sedation in Children. Ann Emerg Med. 2011;57:425-433.

Journal Club

Y「journal club、第2回だね。さて、今回はM先生かな?」
M「僕です。今回のテーマは手技の際の鎮静に関してです。子供とかでたまに大暴れして処置がやり辛い時があるので、そういう時にもっとスムーズに出来ないかと思って少し調べてきました」
Y「いいテーマだね。けど小児科はともかく、日本のERじゃまだそういった考え方はあまりないんじゃないかな?」
M「そうなんです。でも、必要に応じて使い分けられるといいなと思うんです。なので今回、新しいこの論文を基にして、みんなに一度考えてもらえたらと思って。」
Y「なるほど、さすが一歩深いね!あれ、G先生、大丈夫?顔暗いよ。女の子に振られた?」
G「なんでですか。いや、子供は苦手だし処置すら怪しいのに、鎮静ってハードルが高いからついていけるか不安で…」
M「大丈夫大丈夫!」
G「先生、適当ですね…。」
Y「はっはっは。G先生、頑張ってね!じゃ、PICOからいこうか。」

問題1 この論文のPICO(前回参照)を作ってみましょう。

問題1の解答・解説

Y「PICOはそろそろ慣れてきたかな?」
G「あのー、そもそもケタミンって救急外来で使ってます?見た事無いんですけど…。」
Y「うーん、それは麻薬扱いになるから施設によりけりだけど、使う施設ではかなり積極的に使ってるね。色々と使える薬だから、昔は良く使っていたけど麻薬扱いになってからは減ったようだね。」
M「G先生もプロポは良く使うじゃない。でも、ケタミンもうまく使えたら幅が広がるよ。ま、俺も使った事ないけどな。」
G「(やっぱ適当だな、この人…)」

問題2 患者の振り分け方法とブラインドはちゃんと行えているでしょうか?

問題2の解答・解説

Y「これは前回の復習も兼ねて考えてみよう。」
G「振り分け方も色々あるんですね。ブラインドは大丈夫そうです。」

問題3 アウトカムの設定と評価方法は適切でしょうか?

問題3の解答・解説

G「何か聞いた事のない単語や評価方法が山のように出てきて分かり辛いんですけど…。」
Y「これは仕方ないね。評価方法はある程度global standardを使わないと駄目だから。適当に僕らが決めた基準じゃ信頼性がないでしょ?」
M「今回は患者群も両者で差は無さそうですね。でも、個人的にはもっと対象患者(=n)が各群で100人とかないと信頼性が乏しいように感じてしまうんですが、このnってどうやって決めているんですか?」

問題4 対象患者数(=n)はどのように解釈すればいいでしょうか?

問題4の解答・解説

G「へえ。ってことは、多ければ多いに越したことは無いけど、そうしないと差が出ないような試験では臨床的にどこまで意味があるかはちょっと実感し辛い、って事ですか?」
M「そんな感覚でも間違ってないんじゃないかな。逆に新しい知見だったら少数報告でも凄い事だよね。有意差が出ていればだけど。確かACEIに腎保護作用がある、って最初にNEJMに載ったのは日本人の先生がまとめた10例程度の報告じゃなかったっけ?」
Y「少数でもデザインがしっかりしてあって、有意差を認めればそれは十分な結果だよね。RCTなどでは副作用の問題とかもあるからある程度大規模な追試が必要になるのは仕方ないだろうけど。逆に自分が研究する時は、サンプルサイズの計算を予めしないといけない。適当なnを集めて評価しているのか、ちゃんと統計学に基づいてnを決めているのかという点はその論文の信頼性に関わってくるから。例えばRCTを行う場合は、どれくらいの差が出ると仮定するか、パワーはどれくらいにするのか、あるいは非劣勢試験なのか、といった所を考えていかないといけないね。逆に僕らはそういった所も評価していかないといけない訳だけど。」
G「RCTってカッコイイですよね。僕もやってみたいです。」
Y「いきなり前向きでの介入研究はハードルが高いからねぇ…。先生はまずは症例報告や、カルテチェックで出来そうな研究から初めてみたらいいと思うよ。」
M「さて、続きに行きましょうか。」

問題5 Meanとmedian、IQRに関してそれぞれどう使い分けているでしょう?

問題5の解答・解説

G「ぐふっ」
Y「あ、そろそろショートしてきた。でもここは大事な所だから理解しておきたいね。」
M「つまり、外れ値が大きい場合は平均値への影響が大きすぎるから中央値であるmedianをつかい、箱髭図は集団の分布を表わしていて、大雑把に言うと箱の中がメインの集団があるところなんですね?線や点(外れ値)は残りの部分で。」
Y「そんな感じでいいんじゃないかな。」

問題6 結果と副作用はそれぞれどうだったでしょうか?また、p値と信頼区間はどう評価すればいいでしょうか?

問題6の解答・解説

G「p値ってそういう意味だったんですねー。これなら聞いたことあるから何となく分かります。」
M「お、起きてきた。なんかp値<0.05って聞くと分かりやすくなる気がするけど、結構落とし穴があるんですね。」
G「なんか結果とかにp<0.05ってのが並ぶと”これは凄い結果なんだ―”って思ったんですが、大分勘違いしてました…」
M「自分で引っ張っておいてなんだけど、結果は微妙だよね。研究で出た有意差が、臨床的にほとんど意味がない場合もある、ってことだし。ところでclinical gov.ってなんですか?」
Y「アメリカにある、世界中の研究のデータベース(http://clinicaltrials.gov/)だね。ここに行う研究を登録しておく事で、誰がいつどのような研究をしているのか、どのような設定で行っているかをチェックする事が出来るんだよ。結果を出すために途中でアウトカムが変わっている場合もあるからね。」
G「はぁ…。そんなに沢山研究があるんですね。みんな必死だなぁ。」
Y「そうだよ。それでお金をもらっている人もいるし、名誉のために頑張る人もいる。でも本当は研究というのは”自分が疑問に思った事”を研究するのであって、研究のための研究が為されるのは違うよね。話が逸れてしまった。元に戻そうか」

問題7 実際にこの論文を日常診療に適応できるでしょうか?

問題7の解答・解説

M「まぁ、totalで見ると、なんとも言えない結果なわけですが…」
Y「でも先生の目的は救急外来における鎮痛に興味を持ってもらう、って事だし。ね?G先生?」
G「…へっ!? そ、そうですよ。今回p値の事とか勉強になりましたし。」
M「(また寝てやがったな…)ま、手技の際に小児の鎮静はcommonであって、他にも色々な手段があると思います。なので、もうちょっと色々勉強してみようかと。」
Y「いいねー。そうやってどんどん勉強を進めていこう。じゃ、今回はこれにて終了!!」
G・M「ありがとうございましたー!」