第2回「RCT」
【登場人物】
・G先生:初期研修医2年目(救急部研修中)
・M先生:ER後期研修医1年目
・Y先生:ER指導医
【今回の症例】
今日もペアで夜勤をしているG先生・M先生のところに、深夜の2時になってちょっと派手な女性が2歳の子供を連れて来院した。Nsによると、夕方から発熱・右耳痛を認めており、少し様子を見ていたが夜になっても痛がるので受診したとの事であった。
G「○○さんどうぞ、救急部のGです。今日はどうされました?」
母「この子が夕方から熱を出して耳を痛がってるんです。私は明日仕事もあるし、早く治して欲しいんですけど~。」
G「(そんなにすぐ治るわけないじゃん…)そうですか。耳を見せて下さいね。ん~、ちょっと鼓膜が赤いかな?」
母「それって中耳炎ですか?」
G「そうですね。急に熱が出て鼓膜が赤いから中耳炎ですよ。とりあえず熱冷ましと痛み止め出しときますから様子見て下さい。数日で良くなりますよ。今回が初めてですか?」
母「中耳炎は初めてですけど、数日じゃ困るから来たんじゃないですか!抗生物質とか飲めば早く治るんじゃないんですか!?」
G「(あ~、もう。こっちは夜勤で眠いのに…)えーと、まずどんなお薬を使っても明日には治らないです。抗生物質も初回の中耳炎で軽症の子には使わなくていいんですよ。」
母「こんなに辛がってるのに軽症ってどういうこと?抗生物質だって使った方がちょっとでも早く治るんじゃないの?」
G「わ、分かりました。そ、そうですね、抗生物質も出しましょう!」
母「先生、言ってる事がさっきと違うじゃない!#%&▼+○場ル*★!!」
しどろもどろになりながらもアセトアミノフェンとアモキシシリンを処方し、なんとか診療を終えて後ろを見ると、そこにはニヤニヤしているM先生がいた。
M「先生、大変だったね~。」
G「ああいう患者には困りますよねー。すぐに怒りだすし。小児の軽症中耳炎には抗菌薬不要で経過観察でいいのに。」
M「それは先生が患者さんにちゃんと説明できていないからだよ。慣れてきて適当な対応をしたり、患者さんや母親の気持ちをおざなりにしたりすると痛い目を見るからね。」
G「うう…、はい…」
M「ところで中耳炎に抗菌薬って本当に不要なの?」
G「いや、そう習ったので…調べてないですが…」
M「実は最近のNEJMの論文で面白い論文が出たんだよね~。という事で、Journal Clubの題材はそれにしてみようか。Y先生にも提案するからちゃんと読んで発表してね。」
G「えー!!」
Journal Club
Y「さて、記念すべき第一回Journal Clubを始めようか。じゃ、G先生よろしく。」
G「はい。この前小児の中耳炎で手痛い思いをしたのでこの論文にしました。(M先生に半強制されたんだけど…)」
Y「了解。まずは研究の大筋を掴むために、PICOとEMA methodで全体像を見てみようか。細かいところは改めて別にやるから大雑把にね。」
G「PICOは作ってきましたけど、EMA methodってなんですか?」
Y「先生、podcastを聞いていないな?EMA methodは1.new knowledgeかどうか、2.selection biasの評価、3.infomation biasの評価、4.交絡因子、5.外的妥当性の評価、の5項目で簡単に論文を評価しようという方法だよ(※詳しくはPoscastをご参照ください)。」
G「すいません。いきなりは良く分からないのでEMA methodはお願いします…。」
問題1
・この論文のPICO(前回参照)を作ってみましょう。また、EMA methodで簡単に評価してみてください。
(→ 解答 PICO編 / EMA methods編)
Y「PICOは先生が作ってくれた通りだね。EMA methodに関しては大雑把にこういう風になると思う。じゃあ細かいところを少しずつ見ていこう。まず大事な研究デザインはどうかな?」
G「えー、randomized, double-blind, placebo-controlledのRCTです。」
M「ちなみに先生、さらりとrandomized, double-blind, placebo-controlledって言ったけど、その意味は?」
G「ランダム化、二重盲検、偽薬コントロール、って事です。」
M「直訳じゃねーか!そうじゃなくて、わざわざそうする意味は?」
G「…」
問題2
・randomized, double-blind, placebo-controlledにする理由はなんでしょう?
(→ 解答・解説へ)
M「…と、こんな感じかな。」
Y「そうだね。まずはこういう概念を知っておく必要があるね。RCTの注意点として、ランダムなら何でもいいって訳じゃないから、いくつかのポイントをチェックしてみようか。まずはどういう患者群で研究し、振り分けたのかを見てみよう。大事なのは治療群と偽薬群の患者が同じようなグループになっているかどうかだね。」
M「確かに。もしランダム化した結果、治療群は重症が多くて偽薬群は軽症ばかり、なんて事になったら差が出て当然ですもんね。」
G「えーっと、それはですね…」
問題3
・患者群での違いがないかチェックしてみよう。
(→ 解答・解説へ)
M「なるほど。特に問題はなさそうですかね。それにしてもひとつひとつ検討していくと中々な量になりますね。」
Y「確かに。この辺で少し休憩を挟もうか。」
…………………………
G「ここまででPICO, EMA method, RCT, 患者群の違いについてはまとまりましたね。患者群はあまり違いが無いですし、介入も良さそうに見えるんですがどうでしょう?」
Y「ん~、薬剤選択と盲検化はどうかな?担当医、もしくは患者さんが偽薬だと分かってしまったらプラセボ効果のようなバイアスが発生してしまうかもしれないからね。」
M「確かに自分が偽薬群だと知ったら治らないだろうって思い込んでしまいそうです。」
問題4
・使用されている薬剤は何をどれだけ使っているでしょう?
・double-blind(盲検化)はどの様にされていますか?
(→ 解答・解説へ)
G「あれ?AMPC/CVAって日本と配合量違うんですね?知りませんでした。」
Y「そうなんだよ。だからAMPC/CVAにAMPCを追加している先生も多いね。」
M「僕もそうしてます。ところで盲検化もチェックしないといけないんですね。今までdouble-blindって書いてあれば気にもしてませんでしたけど…。」
Y「うん。細かく見ていくとポイントは一杯あるんだけど、いきなり沢山やるとちょっと辛いから基本的なところを流していこう。じゃ、グループに分けて研究開始した後、最終的にどうなったかな?」
G「Resultですが…」
Y「その前に、治療経過を見ているんだから途中で脱落した人とかはいないかチェックしよう。」
問題5
・研究完了時点で脱落者が多くないかどうか、研究はちゃんと追跡されているかをチェックしてみよう。
(→ 解答・解説へ)
G「…いつまでたっても結果にいけないですね…」
Y「むしろここまでが適当だったら結果を信じること自体がおかしくなってしまうからね。だからみんなでこういったところを検討していくんだよ。で、結果は?」
G「抗菌薬投与群で有意に改善しています。やっぱり効果あるんですね。」
M「ちょっと待ったー!!G先生、まず改善したってその指標は何?primary outcomeとかSecondary outcomeとかあったでしょ?それに有意ってどれくらい有意なの?」
G「もう、パス」
問題6
・今回の評価項目はなんでしょう?治療効果の大きさはどれくらいでしょうか?
(→ 解答・解説へ)
Y「G先生、大丈夫?ついてこれてる?」
G「ええ、まぁ…」
Y「最後だから頑張ろう。今までのところ、大雑把には研究内容は妥当なようだね。じゃあ、実際に僕たちがこの論文の内容を使えるかどうかについてだ。そもそも中耳炎の定義って何?」
M「え?」
Y「この研究ではかなり厳密に行っているよ。チェックしたかな?僕たちがそこまでやっているかどうか。薬剤の使用量も違うし、それに副作用はどうだったかな?」
問題7
・実際にこの論文を日常診療に応用できるでしょうか?
(→解答、解説へ)
Y「これで一通り終わったね」
G「ぐー、ぐー」
M「寝てる…」
Y「まぁ、量も多かったからね。はじめは辛いけど、その内楽になってくるよ。何ごとも一回でうまくいこうなんて思わない方がいい。地道に続けていく事の方が大事。」
M「ですね。次は僕の番ですね、また色々考えてみます!」
第2回 おわり