2020.01.17

[解説] 心電図41:9月心電図 67歳女性 - 心電図とりますか?-

2014年9月心電図の解説です。失神を主訴に来院した67歳の女性の症例でした。今回のアンケートは医学生の方からベテランの方まで幅広い方が参加してくださいました。ありがとうございました。

まず、アンケート結果からお伝えします。1名のみの回答はスペースの都合上省いています

質問1(第1週)心電図を読む際に気をつけるポイントは?(3つまで)

795316b92fc766b0181f6fef074f03fa

患者情報に脈拍数を記載したので、徐脈を手がかりに「徐脈になる不整脈は…」と考えを進められた方が多かったようです。

質問2(第1週)心電図を見る前に疑う疾患は?

2b530e80c7d0de90885e285c5d798063

徐脈となる不整脈や、その原因となる電解質異常など緊急性が高く除外が必要な疾患が多く挙げられていました。また、頻度の高い迷走神経反射を挙げた方もいらっしゃいました。

質問3(第2週)気になる心電図所見は?

c8856789ec11ab8b1013037cef6929f9

見るべきポイントに沿って記載してくださった方もいました。心電図についてはこの後で解説します。

質問4(第2週)心電図から上がる鑑別疾患は?

ほとんどの方が完全房室ブロックと判断されていて、その上での鑑別疾患を挙げてくださった方も大勢いらっしゃいました。心筋梗塞や高カリウム血症、心筋炎やサルコイドーシスなどによる心筋症が多かったです。

では、症例の解説と経過です。

まず、患者さんのバイタルサインに注目しましょう、HR 38回/分と徐脈ですが血圧が98/48 mmHgであり、意識や他の全身状態からもショック状態ではないことを確認したうえで、次のアクションにうつります。徐脈ですし、患者さんの心電図をみてみましょう(患者さんが低血圧だった場合はすぐに治療が必要です)

下にリズムがわかりやすいように長めに記録されたⅡ誘導のみの心電図を示します(青矢印はP波、赤矢印はQRS波)。RR間隔約40mmで、心拍数は1500÷40 =37.5 回/分と徐脈であることがわかります。次に、P波とQRS波の関係を見てみましょう。QRS波の直前直後にあって一見するとP波とわからない場合(①)や、T波と重なってT波の形が変わっている場合もあります(②)。これをみると、P波とQRS波は個々では規則正しく波形がありますが、P波とQRS波の関係性はなくバラバラであることがわかります。このことから、この心電図は完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)であるとわかります。

3a4f695a458cb0ac0aceaa2eb13ac2dd

*追加事項 上に示したP波の位置について、実は規則正しくないのでは?と指摘をいただきました。改めて見直したP波の位置は下の図のようになります。

f96d9b4281f6d16b3c7589aed5a17be5

このP波とQRS波の位置関係では、「QRS波を挟むPP間隔(青両矢印)」が「QRS波を挟まないPP間隔(赤両矢印)」よりも短いことがわかります。このような心電図波形をventriculophasic sinus arrhythmia in complete AV block、日本語で無理に訳すと完全房室ブロックにおける室陰性洞不整脈?と言い、完全房室ブロックの患者さんの40%に見られるという報告もありました。房室結節の順行性伝導の障害によりこのようなPP間隔となりますがその原因はよくわかっていません。

心電図が確認できた後の対応です。この患者さんは失神という主訴で来院しました。徐脈がありますので、心電図をとるのは自然な流れですが、徐脈でない場合も心電図は必要でしょうか?失神の原因には多くのものが考えられます。その中でも命にかかわる原因としては1)心原性(不整脈、心筋梗塞など)2)大量出血3)肺梗塞4)くも膜下出血などがあげられます。病歴聴取と身体診察、そして心電図をとることで、約半数の症例で失神の原因が特定されたという報告があります1)。失神の患者さんを診察する際には不整脈&心電図検査の必要性を考慮する必要があります。

さて、心電図で完全房室ブロックと診断されてそれで終わりではありません。徐脈性不整脈の治療については成書に譲るとして、今回は完全房室ブロックの原因について考えてみたいと思います。先天性以外の完全房室ブロックの原因検索としては、可逆的原因の有無と基礎疾患の検索となります。

可逆的原因としては1)薬剤(抗不整脈薬、ジギタリス製剤、β遮断薬、Ca拮抗薬)2)高カリウム血症(ACE拮抗薬、抗アルドステロン薬など)が挙げられ、これらの薬剤を内服している可能性の高い高齢者では内服薬の確認をすることが重要です。高齢者では薬剤以外にも、加齢に伴い刺激伝導系にかかわる組織の線維化や脂肪化により房室ブロックや洞不全症候群をきたしやすくなるといわれています。

基礎疾患としては、虚血性心疾患、拡張型心筋症、サルコイドーシスなど多くの疾患が完全房室ブロックの原因となります。完全房室ブロックの患者さんの診療においてはこれらの原因がないか調べることが重要で、特に55歳以下の比較的若年者に生じた完全房室ブロックでは25%が心サルコイドーシスであったという報告2)もあり注意が必要です。

<患者さんの経過>

先にも記載しましたが血行動態が落ち着いていたため、薬剤は使用せず経皮ペーシングのパッドのみ装着しCardiac ICUに入院しました。血液検査結果で特に電解質異常などもなく、完全房室ブロックの原因としては加齢に伴うものだろうと判断されました。ペースメーカーが挿入され、4日後無事退院となっています。

<Clinical Pearls>

失神の原因として完全房室ブロックなどの不整脈を考えて心電図をとろう。
心電図に埋もれるP波をうまくみつけよう!

<参考文献>

1) Farwell DJ, Does the use of a syncope diagnostic protocol improve the investigation and management of syncope? Heart. 2004;90(1):52-58.
2)Kandolin R, Cardiac sarcoidosis and giant cell myocarditis as causes of atrioventricular block in young and middle-aged adults. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2011;4(3):303-309.
3) Liu T, Shehata M, Wang X. Paradoxical ventriculophasic sinus arrhythmia during 2:1 atrioventricular block. Journal of Cardiology Cases. 2011;3(1):e37-e39.