2020.01.17

[解説] 心電図40:8月心電図 基本は抑えましょう

皆さん、多くのレスポンスありがとうございます。

8月解説の教育目標は以下の通りです。

安定した頻脈の診断アルゴリズム(AHA)を理解する
不整な頻脈において、不規則な不整と規則的な不整の違いを言える
頻脈性の心房細動と多源性心房頻拍(Multifocal Atrial Tachycardia=MAT)の違いを言える
幅広QRSの不整な頻脈の鑑別を挙げられる
まず皆さんのレスポンスを見ていきましょう。

第1問 
この症例でどのような疾患を疑いますか?

response1

さすが臨床に精通した皆さんですね。

頻度的に多い、心房細動・PSVT・心房粗動とお答えになった方が多かったです。身体所見で心音が不整に気づいた方々は心房細動と答えたのではないでしょうか?

第2問 
心電図を読む際にどのようなポイントに気をつけますか?

response2

やはり、上記の3疾患を念頭に置いて心電図を読むのは大切ですね。レートはもちろん、不整か否か、P波の存在、QRSの幅によって診断は大きく変わってくるので、大切な着眼点です。

どういった所見が気になりますか?

response3

心電図を提示されて、まず気になるのは不整なリズムですね。P波がはっきりせず、これで心房細動と最終診断をくだされた方が多いかと思います。QRS幅はギリギリのnarrowですけど、誘導によってはwideにも見えますね。

今回の心電図からの診断は?

response4

Irregularly irregular, narrow complex tachycardiaでAfib RVRと回答された方が多かったです。PSVT はまずregularになりますね。

診断がつかない場合に追加したい検査などあれば記載してください。

response5

ATPはregularなPSVTを疑った際に投与されることが多いですけど、今回の症例では試験的に用いようと考えた方が多かったのでしょうか?甲状腺機能亢進症や電解質異常は心房細動の原因として除外したいのでなるほどです。頻度としては減りますけど、虚血性心疾患の急性期も心房細動の原因として除外しておきたいので、心筋酵素も納得です。

解説

今回の症例は比較的診断は容易だったでしょうか?しかし、年度が始まって間もない時期ですから基本はおさえておきましょう。

みなさんの診断の通り、Atrial Fibrillation with Rapid Ventricular Response=Afib w/ RVR(頻脈性の心房細動)です。

まず安定した(胸痛・呼吸苦・低血圧などなし)頻脈を認めた場合には、以下の のアルゴリズムが便利です。

頻脈診断の簡易アルゴリズム

algorithm

まず症例の心電図を見ますと

1)頻脈

2)不整

3)粗動波やP波を認めない

なので、アルゴリズム通りにまずほとんどの場合は、Afib w/ RVRですね。もちろん心房粗動もありえますけど、この場合は粗動波が見られることがほとんどです。

ここで、悩みどころが3点あります。

1. P波らしきものがある場合は?(MAT)

P波があるのに不整とはどういうことでしょうか?比較的珍しいですけど、多源性心房頻拍(Multifocal Atrial Tachycardia=MAT) なるものがありまして、心房内の様々な場所から自発性の信号が発せられ、これが不規則なP波となり心室に伝わり不規則な頻拍となるわけです。

MATの診断基準は以下の通りです。

1)形の異なるP波が三種類以上ある(主となるP波は存在しない)

2)PP/PR/RR間隔が変動

3)不規則で不整な頻脈

Multifocal-atrial-tachycardia

(Charles Gomersall, http://aic-server4.aic.cuhk.edu.hk/web8/Multifocal%20atrial%20tachycardia.htm)

COPDやCHFなど心臓に負荷がかかった状態に起こりやすく(他に低K/Mg、βアゴニスト、テオフィリンなどでも起こる)、治療は原因疾患に向けられます。

2. 不整の定義は?不規則な不整vs規則的な不整

言葉遊びみたいですけど、不規則な不整と規則的な不整の違いは何でしょう?以下のリズムを見てみましょう。

整:トン・トン・トン・トン・トン

規則的な不整:トーン・トト・トン・トーン・トト・トン(繰り返しがある)

不規則な不整:トン・ト・トト・トーン・ト・トン・トーン(繰り返しがない)

規則的な不整の例:II度AV block(特に1型)、bigeminy (二段脈)、trigeminy(三段脈)

不規則な不整の例:心房細動、MAT、房室伝導が変動する心房粗動

不整な脈もそのパターンによって鑑別が異なることを認識しておきましょう。

3. 幅広QRSで不整の場合は?

幅広QRSの整の頻脈を見た場合は、一にVT、二にVT、三にVTを疑います(VT症例参照)。しかし、幅広QRSで不整の頻脈をみた場合は何を疑いますか?

みなさんご存知の通り幅広QRSを認めた場合には、心拍が上室(心房)由来なのか心室由来かによって鑑別が異なります。

上室性:伝導障害(aberrancy)によって幅広QRSとなる:

伝導障害を伴う心房細動・心房粗動・MAT
WPWにおける心房細動
脚ブロックなどがあると上室性の伝導も遅延し幅広QRSとなります。その代表例が右(左)脚ブロックのAfib with RVRです。それ以外にはWPWの心房細動も幅広QRSとなりますけど、この心電図は独特です。レートは一般的なAfib w/ RVRよりも早く(200台)でQRSの波形も何種類か混じります。

心室性:もともと幅広QRS:

polymorphic VT
比較的稀ですけど、VTの一種、polymorphic VTも幅広QRSで不整で鑑別に出てこないといけない疾患です。

経過

Afib + RVRということで、まずレートコントロールをヂルチアゼムで試みたところ、80−90台(まだ不整)に心拍数が落ち着きました。甲状腺機能は問題なく、電解質ではカリウムが3.2と少々低かったので、補正されました。数時間経過観察していたところ、sinus rhythmに戻りましたが、原因検索のために循環器に入院となりました。結局、原因として軽度の電解質異常以外には見つかりませんでした。

Pearls

不整の脈を診た場合は、その不整は規則的なのか不規則なのかをまず見極めよう。
Afib + RVRは不規則な不整の頻脈性不整脈としての代表格だがMATも見逃さないように。
幅広QRSの不規則な頻脈性不整脈は、伝導障害を伴う上室性の場合がほとんどであるがpolymorphic VTも忘れずに。

References

Kastor J, Multifocal Atrial Tachycardia, N Engl J Med 1990; 322:1713-1717
Chris Nickson,http://lifeinthefastlane.com/ecg-library/basics/ecg-rhythm/
Matul A, Brady W. ECG for the Emergency Physician, London: Blackwell publishing; 2003