2020.01.17

[解説] 心電図39:7月心電図 56歳男性 〜お〜、Regular Wide Complex Tachycardiaと来たら⚪︎×△だ!〜

 今月の心電図、30名の方に回答を頂きました。看護学生の方や泌尿器科、産婦人科の先生など幅広くご意見頂きありがとうございました。

<心電図をみるまで>

 まず病歴からの疾患の想定としては肺塞栓が18名、冠動脈疾患が15名、大動脈解離が10名、その他心不全や緊張性気胸が挙げられました。呼吸苦があったことから肺塞栓を挙げる方が多かったです。
 心電図読影のポイントとして重きを置いた点としてはST上昇/低下が最も多く24名、T波の陰転が9名、QRSの幅/形が8名、レートが7名、整か不整かが6名、脚ブロックとT波の形や大きさ、T波の存在が5名、軸とP波とQRSの関係が4名、P波の大きさ/形が3名、QT間隔が1名となっていました。やはり心肺停止後で心筋梗塞のためのST変化は見落とせないですよね。

<心電図をみて>

 そして今回の症例の心電図は実際にはⅡ、Ⅲ、aVfでST上昇、S1Q3T3、さらに前璧でST低下とそれに引き続く高く二等辺三角形のようなT波を認めていました。S1Q1T3の所見から心電図を見た後の診断として肺塞栓を挙げられた方が最も多く、その他に心筋梗塞、大動脈解離を挙げられた方が多くいらっしゃいました。今回の心電図の前璧誘導のST変化はde Winter ST/T wave complexといわれています。
 de Winter ST/T wave complexは前璧心筋梗塞、特に前下行枝(LAD)近位部の閉塞を示唆する心電図といわれ、その特徴は前胸部誘導でSTの1〜3ミリの低下とupslope型の波形をもち、高くて左右対称型の(二等辺三角形のような)T波を特徴とします。今回の症例では他にも心電図変化があったので読影は難しかったと思います。

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<de Winter ST/T wave complexについて>

 2008年に報告されたWinterらの研究では1532人の前璧心筋梗塞と診断された患者のうち30人に認められたと言われています(1)。Hyper acute T waveとは異なり超急性期の心電図所見としては非典型的ですがSTEMI(ST上昇型心筋梗塞)で一過性に認められることがある所見です。前壁心筋梗塞のLAD病変といえばWellen’s症候群(今週の心電図 症例1参照)が有名ですが、こちらは慢性的な高度狭窄病変がある時に認める事が多いです。
 STEMIと同様の所見として見逃してはならない心電図として他に有症状のWellens‘症候群、Sgarbossa’s criteriaに該当する左脚ブロック(今週の心電図 症例3参照)、aVrでのST上昇、後壁梗塞、Hyper acute T waveが挙げられます(2)(3)。

<心肺停止後の心電図>

 心肺停止後の心筋梗塞の心電図所見としてST上昇は感度88%、特異度84%、ST低下は感度95%、特異度62%とする文献(4)や、心肺停止後の患者91人(そのうち44%がST上昇)に心臓カテーテル検査を行った所、新規発症もしくはそうと考えられる有意冠動脈病変をみとめるのはST上昇している患者で85%、その他の心電図患者で33%であったとする文献もあります(5)。蘇生に成功した133人に冠動脈造影を行った研究では71%に少なくとも1カ所の有意狭窄を認め、53%が冠動脈形成術(PCI)を施行したそうでその多変量解析では以下がリスクとして示されています。
糖尿病 OR7.1 95%CI:1.4−36
院外の心電図でSTの低下 OR5.4 95%CI:1.1-27.8
冠動脈疾患の既往 OR5.3 95%CI:1.4−20.1
公共の場所での心停止 OR3.7 95%CI:1.3−10.7
VFかVTが初回リズム OR3.1 95%CI:1.1−8.6(6)
 その他の研究でも上記の他に心肺停止前の胸痛の存在が冠動脈病変を示唆するとしています(7)。大事なことはやはり心肺蘇生後の心電図でも普段と同じでST変化や上記STEMIに該当する心電図を見逃さないようにすることです。

<症例の経過>

 最後に今回の症例の経過ですが心エコーでは少なくとも巨大な肺塞栓はなさそうだったので、蘇生後心電図から心筋梗塞をまず考えカテーテル検査を行いました。結果として右冠動脈、前下行枝に有意狭窄を認めて治療を行い最終的には独歩で帰宅されました。実際の診断名としては右室梗塞+de Winter ST/T wave complexの診断です。

まとめ

○前壁のUpslope型ST低下+左右対称型の高いT波は心筋梗塞を疑う
○STEMIと同等の心電図変化を見逃さない
○心肺停止後のST変化は冠動脈造影を考慮する

参考文献

1.De Winter RJ, et al. A new ECG sign of proximal LAD occlusion. NEJM 2008.359(19)2071-2073
2.Ivan C R, et al. Appropriate Cardiac Cath Lab activation: Optimizing electrocardiogram interpretation and clinical decision-making for acute ST-elevation myocardial infarction. Am Heart J 2010.160(6)995-1003.e8
3.Lawner, et al. Novel Patterns of Ischemia and STEMI Equivalents. Cardiol Clin 2012(30)591-599
4.Sideris G, et al. Value of post-resuscitation electrocardiogram in the diagnosis of acute myocardial infarction in out-of-hospital cardiac arrest patients. Resuscitation 2011 82(9)1148-1153
5.Zanuttini D, et al. Predictive value of electrocardiogram in diagnosing acute coronary artery lesions among patients with out-of-hospital-cardiac-arrest. Resuscitation 2013 84(9)1250-1254
6.Aurore A, et al. Predictive factors for positive coronary angiography in out-of-hospital cardiac arrest patients. Eur J Emerg Med 2011.18(2)73-76
7.Garcia-Tejada J, et al. Post-resuscitation electrocardiograms, acute coronary findings and in-hospital prognosis of survivors of out-of-hospital cardiac arrest. Resuscitation 2014 http://dx.doi.org/10.1016/j.resuscitation.2014.06.001