[解説] 心電図38:6月心電図 12歳女児 - 動悸。12歳となると。
(解説)
多くの回答をお寄せいただき有難うございました。
解説の構成上第2問と第6問の回答状況を示します。
第2問回答「心電図を読む際にどのようなポイントに気をつけますか」
第6問回答「使用可能な薬剤は次のうち、どれでしょう」
体育の授業や友人関係というストレス因子もあるようですがバイタルサインは明らかに頻脈を認めます。RR間隔は6マス(0.04sec*6=0.24sec)ですから心拍数は約250/minで、QRS波形に先行するP波を認めません。QRS波形の前にあり一見P波に見えるのはT波です(下図矢印)。QRSは心室の脱分極でT波は再分極を表しますからT波のないQRS、つまり再分極のない脱分極は考えられません。再分極できなければ次のQRSが出現(脱分極)できませんから、これを不応期というワケでしたね。
P波が見えないのはP波がない(つまり心室性)か、P波が隠れているか(ほんとは上室性)のどちらかです。P波がなく心室の興奮(QRS)があると考えた場合は恐ろしいVTかもしれません。ここが我々をいつも悩ませるところです。
一般的にはwide QRSかどうかがVTかどうかの鑑別になりますが、体の小さい小児では少し気をつけなければなりません。小児は心臓のサイズそのものが小さいため刺激が伝播する時間が短く、成人とはQRS時間の正常値が異なりますので注意が必要です。一見SVTかと思ったらVTだったということがあります。今回は12歳児でQRS=0.085secと正常範囲でした。
以上のことから、今回の心電図はみなさんお分かりの通りPSVT(発作性上室頻拍)と考えられました。第1問の回答もほとんどがPSVTで、中にはWPW症候群に伴うPSVTと丁寧に答えていただいた方もありました。他に、脱水、心因性動悸、甲状腺機能亢進症、神経性食思不振症と広く鑑別が挙がっていました。
患者の状態は頻脈のため血圧がうまく測定できていませんでしたが、橈骨動脈は触知可能で循環動態は安定していると判断されています。
波形はQRSの狭い頻脈で、明らかなRR不整がないことから、すぐに迷走神経刺激手技や薬剤投与を考えたことと思います。4月心電図症例の解説も参照ください。
本症例で薬剤を使用した後の心電図を見てみましょう。
忙しい救急外来では特に問題なければ、ACLSのnarrow complex tachycardiaに準じて薬剤投与などを行い発作が治まれば「ハイ、終了」となるかと思いますが、薬剤投与後の心電図波形では⊿波が出ておりWPW症候群であったのかと分かります。
WPW症候群の中でも高いR波であることからKent束を持つA型です。
一方、WPW症候群のAfibの場合の心電図を示します。
脈拍数200台の頻脈ですがRR間隔不整でQRSの形は様々なパターンが含まれた多形性があります。Wide QRSでP波が見当たらないところからVTと間違えやすく偽性心室頻拍(Pseudo VT)などと言われます。本物のVTならRRの間隔は整ですがPseudo VTはRR不整なのが特徴です。本症例のPSVTパターンと比較するとQRSの形やRR間隔が異なるのが分かるでしょうか。
WPW症候群のAfibではPSVTで通常First choiceとなる薬剤のアデノシンやCa blocker(他にジギタリスやβブロッカーも)はKent束の正常伝導路を抑制することでVfを誘発しうるため禁忌となりますから、PSVTの薬剤投与には注意深い心電図診断が必要となります。
WPW症候群によるPafの禁忌薬はABCDで覚えましょう!
・ A:アデノシン
・ B:βブロッカー
・ C:Caブロッカー
・ D:ジギタリス
なおWPW症候群の発作予防にはβブロッカーやベラパミル、ジルチアゼム、ジゴキシンなどが使われ、繰り返す場合にはアブレーションが適応となります。
以下に今回の症例での思考範囲の例を図示します。
(参考文献1より一部改変)
Take Home Message
・ PSVTとPafの鑑別はRR間隔とQRS多形性で
・ WPW症候群に伴うPafの禁忌はABCD!
・ 予防投与やアブレーションといったFollow up
参考文献
1)Delacrétaz, E. (2006). Supraventricular Tachycardia. New England Journal of Medicine, 354(10), 1039–1051. doi:10.1056/NEJMcp051145
2)Dale Dubin,MD(2000). Rapid Interpretation of EKG’s..an interactive course 6th edition. Cover Inc.
3)Ken Grauer, Daniel Cavallaro(1997). ARRHYTHMIA INTERPRETATION: ACLS Preparation and Clinical Approach. Mosby-Year Book, Inc.