2020.01.17

[解説] 心電図35:3月心電図 28歳男性 - 失神。大事な症例です。

今回も学生さんから28年目のベテランの先生まで、また、救急や循環器の他にも産婦人科や腎臓内科、神経内科、泌尿器科とたくさんの方々にご回答いただきました。ありがとうございました。

皆さん推測の通り、今回の症例はBrugada症候群です。

Brugada症候群は、12誘導心電図で右脚ブロック様波形と、V1-3におけるcoved型またはsaddle back型のST上昇を呈し、主として若年〜中年男性が心室細動(VF)を引き起こし、突然死する疾患です。アジア圏に多いとされ、心筋梗塞を除く突然死の20%を占めるといわれています。心筋のNaチャネルのSCN5A遺伝子変異などが原因である遺伝性不整脈疾患です。それらの遺伝子異常のため、右室流出路を中心にした貫壁性の再分極異常が生じ、心外膜側と心内膜の拡張期の電位差による局所の興奮旋回により心室細動が生じるとされています。

Brugada症候群の心電図波形は以下の3タイプに分類されます。

いずれもV1-3の右側前胸部誘導で認められる所見です。

Type Ⅰ coved型
type1-brugada

上向きに凸のcoved型ST上昇を認め、J点またはST部分が基線から2mm以上上昇します。 陰性T波を伴い、右脚ブロックは必ずしも全例には認められません。このタイプで、PQ時間が170msec以上もしくはV1でのT波が-105μV以下であった場合は突然死のリスクが高いという報告もあります。

Type Ⅱ saddle back型
brugada-type2

下向きに凸のsaddle back型ST上昇を認め、J点は基線より2mm以上、下向きに凸のST部分も基線より1mm以上上昇しています。陽性または二相性T波を伴います。

Type Ⅲ
type3-brugada

ST部分はcoved型もしくはsaddle back型で、ST上昇は基線より1mm未満です。

健常成人で、Type Ⅰ波形は12/10000、Type Ⅱ, Ⅲは58/10000の頻度で認められたという報告があります。

これらの波形は心内膜と心外膜の活動電位の差によって生じます。

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(QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドラインより抜粋)

Brugada症候群の診断基準は、

type Ⅰの心電図波形を右胸部誘導のひとつ以上に認めることに加え

1) 多形性心室頻拍(VT)・VFが記録されている

2) 45歳以下の突然死の家族歴がある

3) 家族に典型的type Ⅰの心電図の人がいる

4) 多形性VT・VFが電気生理学的検査(EPS)によって誘発される

5) 失神や夜間の死戦期呼吸を認める

のうち、ひとつ以上を満たすものとしています。

type Ⅱやtype Ⅲの心電図は、薬剤負荷で典型的なtype Ⅰになった症例のみ上記の診断基準に当てはめています。薬剤負荷にはVaughan Williams分類ⅠA群およびⅠC群のNaチャネルブロッカー(ピルジカイニド、フレカイニド、プロカインアミドなど)が用いられます。

さて、今回の症例に振り返ってみましょう。今回は既往歴のない若年男性の失神でした。

失神の鑑別は多岐にわたるため詳細は割愛しますが、今回は不整脈原性の失神にfocusをあててみましょう。失神で受診した患者さんを診察する際みなさん心電図をとると思いますが、以下の所見が認められる場合は不整脈原性で失神が生じたと考えられ、高リスク群となります(死亡や心血管イベント発症のリスクは2倍に上昇)。

2束ブロック
心室内伝導異常(QRS≧0.12秒)
房室ブロック
50/分以下の洞性徐脈もしくは3秒以上の洞停止
WPW症候群
QT延長もしくは短縮
Brugada patternのST上昇
右前胸部誘導での陰性T波、イプシロン波、心室遅延電位など不整脈原性右室心筋症を示唆するもの
非持続性VT
心筋梗塞を示唆するような異常Q波
特に致死的なものはVF、QT延長症候群、Brugada症候群、房室ブロック(Mobitz Ⅱ型もしくはⅢ型)、洞不全症候群(3秒以上の洞停止)です。

アンケートでは、心電図を提示する前からみなさんは鑑別に上記不整脈を挙げていらっしゃいました。さすがですね!!また、消化管出血や薬剤性失神、心筋症、大動脈弁狭窄症なども鑑別に挙げられていました。このような症例の心電図を読む際に気になるポイントは、多い順から整か不整か、QT間隔、QRSの形が挙げられていました。

最初に掲載した心電図は心房細動(Af)でしたね。それが自然にsinus rhythmに戻っていますので、発作性心房細動(PAf)であったと考えられます。sinus rhythmに戻った後の心電図のV1,2のST変化を所見に挙げてくださった方がいらっしゃいますが、これは非特異的ST変化と考えられます(問題で提示した心電図を御参照ください)。心電図を掲載してからの鑑別疾患は甲状腺機能亢進症、肺塞栓、COPD、徐脈頻脈症候群、左房粘液腫が挙げられていました。これらの鑑別を踏まえ、次に選択する検査は多い順から採血検査、心臓超音波検査、心筋マーカーが挙げられていました。

今回は既往のない男性の失神ということでBrugada症候群も鑑別に挙げ、1肋間挙げて心電図を取ったところ、V3にsaddle back型のST上昇を認めました (type Ⅱ)。以下は問題の最後に掲載した心電図です。

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そして、後日EPSを施行したところ、ピルジカイニド負荷にてV1,2でcoved型のST上昇を認め、Brugada症候群の診断に至りました。

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また、3連刺激でVFが誘発されました。

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Brugada症候群はVFの他にAfも合併しやすく、そのほとんどがPAfです。本症例もそうでしたね!

なぜ1肋間挙げて心電図をとったのでしょう?それは、第2,3肋間の方が右室流出路の心電図を反映しやすいので、Brugada症候群を疑った際の心電図は第2,3肋間でも検査するよう勧められています。

Brugada症候群による突然死の予防には植込み型徐細動器(ICD)が唯一有効な治療法です。しかし、全例にICDを植え込みするわけではなく、失神の既往や家族歴、VFの出現の有無で適応が判断されています。また、頻回にICDが作動する場合はキニジン、シロスタゾール、ベプリジルといった薬物療法も考慮されます。

本症例は、家族歴はありませんでしたが、今回の失神のエピソードとEPSでVFが誘発されたため、class ⅡaでICD植え込みの適応となり、ICD植え込み術が施行されました。

Take Home Messages

若年男性の既往のない失神では必ずBrugada症候群を鑑別に考えよう!
Brugada症候群を疑った場合は1,2肋間挙げて心電図をとろう!

参考文献
1) QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン. 日本循環器学会ほか
2) 失神の診断・治療ガイドライン. 日本循環器学会ほか
3) Berne P, Brugada J. Brugada Syndrome 2012 (Circ J 2012; 76: 1536-1571)
4) Veerakul G, Nademanee K. Brugada Syndrome – Two Decades of Progress – (Circ J 2012; 76: 2713-2722)
5) Miyamoto A, Hayashi H, Makiyama T, et al. Risk Determinants in Individuals With A Spontaneous Type 1 Brugada ECG. (Circ J 2011; 75: 844-851)
6) Shimizu W, Matsuo K, Takagi M, et al. Body Surface Distribution and Response to Drugs of ST Segment Elevation in Brugada Syndrome (J Cardiovasc Electrophysiol. 2000; 11: 396-404)
7) UpToDate; Evaluation of syncope in adults.
8) UpToDate; Approach to the adult patient with syncope in the emergency department.