2020.01.17

[解説] 心電図34:2月心電図 25歳男性 - 発熱、だるい。えっ、どうしよう。

みなさま

多数のご意見ありがとうございました。

まずは第一週の心電図掲載前のアンケート結果から

12

みなさまさまざまな点に着目されています。

なかでも頻脈を呈していることからそこに特に言及している先生もいらっしゃいました。

鑑別も数多く頂きましたがすでに診断を挙げていらっしゃる方まで。。すごいですね。

では第二週のアンケート結果です

気になる所見は?

13

心電図診断は?

14

やはりみなさま重篤な病態を念頭に置かれていてすごいなと思いました。

病名も正解が大部分でした。マネジメントも詳細に言及して頂いて非常に参考になりました。

心電図の解説です

一見してwide complex tachycardiaであることが分かります。その際のマネジメントは救急外来ではどう考えればいいのでしょうか。

今回の目標は

・ wide complex tachycardiaのマネジメントができる

・ wide complex tachycardiaの心電図の読み方を知る

の2点を学びたいと思います。

wide complex tachycardiaのマネジメント

救急外来で対峙するwide complex tachycardiaではまず安定か不安定かを考えます。具体的には

・ 末梢循環不全を示唆する冷感(決して血圧のみで決まるわけではない)、冷や汗、網状皮斑、胸痛、息苦しさ、めまい、不穏など

がないかを確認します。

これらがあれば不安定な状態と判断しカルディオバージョンを選択しなければなりません。

その間、頭のなかで考えるべき鑑別疾患は

VT VT VT!

ということです。

後述するような上室性頻脈の変行伝導を伴ったものはもちろん考慮しなければなりませんが、バイタルが不安定な時に種々の上室性頻脈を評価する時間は限られています。さらにこの場面で必要なのは早期の除細動であり、疾患特異性の高い薬剤の使用ではありません。しかも上室性頻拍であったとしても除細動が有効とされます。

wide complex tachycardiaの心電図を読む

wide complex tachycardiaで大きく問題となってくるのはこれまで繰り返し述べたようにVTであるのかそれ以外を考える必要があるのか、という点でしょう。『不安定な状態であれば、まずVTとして対応すべきですが』 循環動態が安定している患者に対してはどのように考えていけばいいのでしょうか。

ACC/AHAガイドラインを見るとまず推奨されているのは脈を見ることです。脈が不整であれば、心房細動に変行伝導を伴ったものを考えるといいとされています。

では次に脈が早すぎて判断が難しかったり、脈が整の場合はどうすればいいのでしょうか。その時に心予備能が十分あればATPを使用するという選択肢があります。ATPを使用することで一時的な房室ブロックを引き起こし

・ 頻拍が停止し、逆行性のP波も認めなくなる→房室結節が関与しておりSVTが疑われる

・ 頻拍が継続し逆行性のP波の位置が変化する→房室解離が考えられVTが疑われる

という戦略も有効かもしれません。

確定診断には電気生理学的検査(EPS)をするしかありませんが、心電図の波形から推測するruleも複数発表されています。

代表的な3つを挙げます。

Brugada criteria

胸部誘導でRS型でない はい→ VT、

↓いいえ

前胸部誘導でRの起始部からSの頂点までが100msec以上 はい→VT

↓いいえ

房室解離 はい→VT

↓いいえ

morphology criteria(下記Bayesian criteriaの項目を用います)

名称未設定

Griffith criteria

V1とV6で典型的な脚ブロックパターン いいえ→VT

↓はい

房室解離 いいえ→SVT

↓はい

VT

外的妥当性の検討はなされておりどのアルゴリズムを用いても感度特異度には有意差がないこととされています。ただ、あいまいな所見を判断せずに点数化できる点においてBayesian criteriaは一日の長があるかもしれません。

これをもとに今回の心電図を読むと

房室解離であることや典型的な脚ブロックであるとは判断できずアルゴリズムを用いるのが困難です。各種の波は幅が狭いため各項目をさらうとVTへの尤度比は高くはなさそうです。しかしそれでも悩ましい波形ですね。

本症例では末梢循環不全の徴候を認めたため、不安定と判断し除細動を施行しようとしたところで脈が落ち着きましたがそれでも収縮力の著名な低下をみとめV-A ECMOでの循環補助となりました。最終的には心筋炎の診断となりました。(心筋炎ではVTをはじめとした多彩な不整脈が出現しますが、今回は心電図の読みが中心なので心筋炎の管理や治療についてはまたの機会に譲ります。)

Take home message
・ 不安定なwide complex tachycardiaはVTと考え、除細動を考慮!
・ 心機能が保たれていればATPは診断に有効となる
・ VTかSVTかの鑑別にはさまざまな診断基準が提唱されているが決定的なものはない

参考文献
1)J Am Coll Cardiol 2003 15; 1493-1531.
2)Clin Electrophysiol 2000 23; 1519-1526
3)Lancet 1994 12; 343 386-388.
4)Pzcing Clin Electrophysiol 2002 25; 822-827