2020.01.17

[解説] 心電図32:12月心電図 45歳男性 - 胸痛といえば。

患者さんは、胸の痛みを主訴に救急搬送された45歳の男性でした。

【経過】

まずこの患者さんの経過を説明します

心電図にてV4~V6のST低下、Ⅱ・Ⅲ・aVFのST上昇、完全房室ブロックがみられ(心電図を再掲します)心臓超音波検査からも右室梗塞が疑われ循環器内科医へのコンサルトを行いました。

12EKG1

循環器内科医が心臓超音波検査を実施したところ、上行大動脈の拡大及びflapを認め急性大動脈解離を疑い造影CTを撮影しました(CT供覧)

12EKG2


急性大動脈解離DeBakeyⅡ、右室梗塞と診断され緊急手術となり術中所見からも解離が右冠動脈に及んでいることが確認されました。

【アンケート結果発表】

さて、アンケートにご協力いただいたみなさんはどう考えられたでしょうか?

12EKG3

多くの方が急性心筋梗塞と診断をされていました。中には、「大動脈解離から右室梗塞」と患者さんとぴたり同じの診断名を挙げてくださっている方もお一人いらっしゃいました!

12EKG4

それでは実際の心電図を踏まえての意見はどうだったでしょうか?

心電図で気になる所見は?…

12EKG5

多くの人が、房室ブロック・ST変化を指摘されていました

心電図を踏まえた鑑別診断は・・・

12EKG6

ずばり、「右室梗塞を合併した下壁梗塞」と診断された方も1人いらっしゃいました!

【解説】

この患者さんは、右室梗塞を合併していた胸部大動脈解離(DeBakeyⅡ型)という最終診断となりました。

心筋梗塞と胸部大動脈解離の合併症例は救急診療におけるピットフォールとして記載されていることも多いですが、心電図の側面から復習をしておきましょう。

1:右室梗塞の心電図所見

右室梗塞で生じる心電図変化を復習しておきましょう

*右室梗塞で特徴的な心電図変化

Ⅱ,Ⅲ,aVFでのST変化・T波の異常

右側胸部誘導のV4R~V6Rでの1mm以上のST上昇

特にV4RにおけるST上昇は右室梗塞に特異的な所見として知られており、房室ブロックの合併が20~30%に見られます。

2:急性大動脈解離における心電図所見

急性大動脈解離に特徴的な心電図はありません。

*急性大動脈解離で見られた心電図所見の報告

正常:31% 非特異的ST変化/T波変:42%、虚血性変:15%

大動脈解離が冠動脈まで及ぶと冠動脈虚血が生じます。上行大動脈解離と診断された患者さんの5%に心筋梗塞があったという報告もあります。その一方で、解離が冠動脈に及んでいても心電図変化をきたさないこともあり注意が必要です。

障害される冠動脈は右が多いことが知られていますが、破裂を伴わないStanford A急性大動脈解離突然死症例の75%に冠動脈解離がみられすべて左冠動脈であったという報告もあります(左冠動脈に解離が及ぶと重篤になるのですね。)

今回は心電図症例でもあり、画像も含めた診断方法については割愛します。

というわけで

<Take home message>
・右室梗塞を診断したときには、大動脈解離を必ず鑑別にあげる!

<参考文献>
1) Hagan PG, et al The International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD): new insights into an old disease.JAMA. 2000;283(7):897.
2)Bossone, E, et alCoronary artery involvement in patients with acute type A aortic dissection: Clinical characteristics and in-hospital outcomesJ Am Coll Card. 2003; 41S:235.
3)村井直子:Stanford A型急性大動脈解離における冠動脈解離:突然死への関与に関する病理学的研究。法医学の実際と研究42:315-324,1999