2020.01.17

[解説] 心電図31:11月心電図 73歳男性 - 動悸・・・んんん?

皆さん、さすがです。

実は心電図を公開する前からペースメーカー関連頻脈 – Pacemaker Mediated Tachycardia (PMT)をドンピシャで当てている方が2名もいらっしゃいました。

まず、第1週と第2週の皆さんの回答を見てみましょう。

第1週

Q1)この時点(心電図とる前)でどういった疾患を疑いますか?

Q1

*)PMT:Pacemaker-Mediated Tachycardia

Q2)どういった心電図所見を気にして心電図を読みますか?

Q2

頻度からPSVTや心房細動・心房粗動を疑うのはごもっともですね。怖いVTは外せませんし、PM患者なのでPM関連の不整脈も考えないといけません。

第2週

Q3)どういった所見が気になりますか?

Q3

PM調律でRBBBは鋭いところを突きますね。普通PMではLBBBパターンになるはずですが、今回は!!!な心電図所見となっています。結論から申し上げますと、PM調律でも今回のような心電図所見はあり得るのです。詳細は、論文#4(J Electrocardiol)を参照ください。

Q4)心電図からずばり診断は?

Q4

Q5)どのように対処しますか?

Q5

多くの方からご指摘があったように今回の心電図は、ペースメーカー関連頻脈 – Pacemaker Mediated Tachycardia (PMT)。幸い新しいペースメーカーはPMTをキャンセルする機能を備えているものが多いので頻繁に見ることはないですけど、それでもたまに見ることがあり、かつその治療法も独特なので知っておいて損はない疾患です。

まず心電図を見てみましょう。ペーサースパイクがQRSの前にあり、1対1対応であることは明白です。したがって、心拍はペーサーに反応していると言えます。また、ペーサースパイクがQRSの直前にあり、wide QRSなので心室(V)ペーシングであることも分かります。なぜこのようにペースメーカーが本来の機能を果たさず、頻脈を起こしているのでしょうか?注意深く心電図をみるとT波の前半部に小さな波があります(V1/2で見やすいです)。これは何だと思いますか?そうです、これはretrograde P波なのです。

EKG-with-arrows

では、PMTの機序を図を用いて見ていきましょう。

①左室の興奮(例えばPVC)が本来のAV結節を逆行性に上がり、これがretrograde P波となります。

②ペースメーカーに心房の興奮として捉えられます。

③AV synchronyを果たすべくペースメーカーは左室にシグナルを送り収縮させ、それがまた逆行性に心房に伝わりretrograde P波として感知されます。結局、②と③を繰り返します。

これはAVRT (Atrio-Ventricular Reciprocating Tachycardia)と機序が非常に似ていますね。

PMT-pathophys

ペースメーカー装着している患者さんの心電図がペーサースパイクに反応しているwide QRSの頻脈を示している場合は、PMT、Sensor-induced Tachycardia、Runaway Pacemakerを考慮しましょう(各疾患の詳細は省略させていただきます)。

では、治療です。普段使うことのないものを使います。そう、磁石(写真参照)をペースメーカーの上に置くと、ペースメーカーがこれに反応して設定されたレート60−80台(レートは会社によって異なる)に固定できます(Runaway Pacemakerでは磁石が効きませんので注意!)。ペースメーカーはこうなるよう元々設計されているのです。また、上記のようにAV結節を介するようなPMTの場合は、結節をブロックするadenosineなども多くの場合に効果があると言われています。レートをコントロールした後に、ペースメーカープログラマを用いてペースメーカーのプログラムを調整する必要があります(注:病院によっては磁石を当てる前に循環器やMEを呼ぶようにルールを決めている病院もあるかと思いますので皆さんは自分の病院のルールを確認ください)。

pm_magnet

まめ知識ですが、埋め込み型除細動器(AICD)が不適切に作動している場合(これ患者さんかわいそうですよね)にも磁石を用いると止まりますので、ぜひ覚えておいてください。

Pearls

1) ペーサースパイクに反応しているwide QRSの頻脈を示している場合は、PMT、Sensor-induced Tachycardia、Runaway Pacemakerを考慮

2) 相手の心(PMT)を磁石でコントロール(AICDの誤作動にも磁石!)

Reference)
1) Brady WJ, Truwit JD. Critical Decisions in Emergency & Acute Care Electrocardiography. Wiley Blackwell 2009
2) Conti JB, Termination of pacemaker-mediated tachycardia by adenosine. Clin Cardiol. 1994 Jan;17(1):47-8.
3) Chan TC, Brady WJ, Harrigan RA, Ornato JP, Rosen P. ECG in Emergency Medicine and Acute Care. Elsevier Mosby 2005
4) Yang YN, Safe right bundle branch block pattern during permanent right ventricular pacing. J Electrocardiol. 2003 Jan;36(1):67-71.