2020.01.17

[解説] 心電図30:10月心電図 87歳女性 - 意識障害。鑑別に挙がりますか?

素晴らしい回答ありがとうございました。

まず今回のアンケート結果を振返ってみましょう。

第1週

心電図を読む前にこの症例でどういった疾患を疑いますか?
心原性ショック、心筋梗塞、狭心症、大動脈解離、心原性脳梗塞、伝導路障害を伴う心房細動、高カリウム血症、高マグネシウム血症、迷走神経反射

心電図を読む際にどこに注意して読影しますか?

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第2週

心電図を読影した上でどういった所見が気になりますか?
P波消失、QT延長、QRS幅が小さい、大きい、洞房ブロック、補充収縮など

追加したい検査は何ですか?
頭部CT、MRI、電解質、甲状腺、副腎機能、胸部レントゲン、ホルター心電図、血中ピルジカイニド濃度など

解説

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心電図の所見はいかがでしょうか?

徐脈、P波の消失、RR間隔不整(上図1)、その後に前より脈拍の速いP波を伴わない幅の狭いQRS、QT延長(上図2)といった所見が読み取れると思います。先月の心電図症例にあった洞停止、促進性房室接合部調律です。(洞停止、房室接合部調律に関しては9月心電図解説に素晴らしい解説がありますので参考にされてください)。房室接合部調律ですが、通常40~60回/分の心拍で60~100回/分では促進性房室接合部調律、100回/分以上では房室接合部頻拍となります。今回の症例は徐脈により通常の房室接合部調律ではなく促進性となったと思われます。

心電図からの鑑別はいかがでしょうか?

洞不全症候群(洞停止)は、洞房結節およびその周囲の組織の解剖学的機能不全によるものです。従って原因としては虚血(特に下壁梗塞)、浸潤性や炎症性の経過による組織の繊維化(心膜炎、アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス、リウマチ疾患など)があります。
またQTは心筋の再分極相ですので、虚血や電解質、薬物や自律神経によって鋭敏に変化します。QT延長から想起される疾患として心筋梗塞(特に心内膜下梗塞)、たこつぼ型心筋症、電解質(特に低カリウム血症、高低カルシウム血症、高低マグネシウム血症)、薬剤性(抗不整脈薬、抗生物質、抗真菌薬、向精神薬、抗アレルギー薬など)、先天性などがあります。
そのため救急現場では虚血の有無のために心電図、心エコーをまず確認し、その後心筋逸脱酵素や電解質、薬剤を確認することになると思います。

また徐脈+ショックで有名な語呂として VF AED ONがありそちらからアプローチされた先生もいらっしゃるかもしれません。

V: Vasovagal reflex
F: Freezing
A: AMI/Acidosis/Adam-Stokes
E: Electrolyte/Endocrine
D: Drug
O: Oxygen
N: Neurogenic shock

さて今回の症例のその後の経過ですが心エコー上の異常、心筋逸脱酵素上昇は認めないものの、血清マグネシウムが13.6mg/dlと著明な上昇を認めていました(クレアチニン0.99mg/dl)。幸いなことに初回の心電図からしばらくすると自然と洞性徐脈に改善を認め、カルシウムを投与しICU入室となりました。入室後は心拍数30台まで一過性に低下を認めましたがカルシウム持続投与にて徐々にマグネシウム値、意識も改善を認め、入院10日目に無事帰宅となりました。原因としては酸化マグネシウム250mgを1日6錠毎日内服しており入院後に自然と高マグネシウムが改善した事からintakeによるものと考えられました。

診断:高マグネシウム血症

マグネシウムは施設によって測定の可否があるかもしれませんが、一般的に高くなる事はまれです。ある横断調査研究ではランダムに5100人に採血を行った所2.4mg/dl以上(正常1.8-3.0mg/dl)であったのは95人のみであったそうです。

高マグネシウム血症の臨床症状/心電図は、血中のマグネシウム濃度に依存しています。5-10mg/dlで心伝導障害が始まり、QRS拡大、PR間隔延長、QT延長、悪心、腱反射低下が生じます。10mg/dl以上で呼吸抑制、イレウス、意識レベル低下、20mg/dlに近づくと心停止が起こります。マグネシウムはカルシウムと性質的に似ているためカルシウムチャンネルを細胞内外でブロックし心収縮、心伝導障害をおこすとされています。

治療としては生理食塩水、フロセミド、カルシウム点滴となります。カルシウムは細胞内のマグネシウムの効果と拮抗し、低血圧、呼吸抑制、不整脈に対して作用します。投与方法は100m-200mg(グルコン酸カルシウム;商品名カルチコール425mg/5ml)を初回投与し、重症患者では持続点滴もしくは透析を行います。

意識障害を伴う徐脈、PR延長、QRS拡大、QT延長では高マグネシウム血症を鑑別に入れる
高マグネシウム血症の治療はカルシウム投与

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ADAMS: EMERGENCY MEDICINE 1st ed
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Melemed: Williams Textbook of Endocrinology, 12th ed