[解説] 心電図27:7月心電図 59歳男性 - 下痢、食欲不振。
みなさま、今回もたくさんのご解答、ありがとうございました!
今回は1年目の先生から29年目の先生まで、救急医から外科、産婦人科の先生まで幅広くご解答くださいました☆
さて、今回のEKGは何が隠れていたのでしょうか?まず第1週の皆さんの解答の集計です。
<何を疑うか?>回答数29名
<どういったEKG所見に気をつけるか?>
この患者さんは一ヶ月続く下痢と経口摂取不良があり、るい痩も著明ということでした。
低栄養、電解質異常があるかもしれないと予想されますね。みなさんも低K血症、低Mg血症などをあげてくださっていました。
それではどんなEKG所見を認めたでしょうか?
まず明らかに目につくのは、ⅡやV5,6でのQT延長です。
そしてV2やV3ではQRS波の後の波が2峰性になっており、T波よりも高くなったU波がありそうです。
また、Ⅰ,Ⅱ,aVF,V3~6のST低下、aVRのST上昇も認めます。
ここで第2週のEKG提示後の皆さんの解答の集計です(回答数14)
<気になったEKG所見は?>
ズバリ診断は?
<その後の経過です。>
EKGをみて低K血症がありそうだな・・・と思って、血液検査結果をチェック。
すると・・・血液検査の結果はやはり、血中K値1.6 mEq/L!
Na 133mEq/L, Cl 97 mEq/L, Ca 7.2 mEq/L, Mg 1.7 mEq/Lと、重度の低K血症を認めました
精査の結果、摂取不足が考えられ中心静脈ラインよりKの補充を行いました。その他、低栄養性溶血性貧血、亜鉛欠乏、葉酸/ビタミンB12欠乏の診断となり、各種電解質、ビタミン、微量元素など補充し環境を整えて退院となりました。(診断にいたるまでの経過も興味深いのですが、今回の趣旨ではないので省略します)
(血中K値3.5mEq/Lの時のEKGです。)
<解説>
Kは細胞膜の静止膜電位を決定する重要因子。K濃度異常は細胞の興奮のしやすさ、しにくさを左右します。影響が顕著にでるのは筋肉と心臓です。
低K血症におけるEKGでは、再分極波(major repolarization wave)が収縮期から拡張期へ徐々にシフトしていきます。
(文献1)(上の線は心室筋の活動電位。下は低K血症の進行により変化する心電図波形)
再分極の変化が 進行するST低下、T波の高さの低下、U波の増高として現れます。
さらに低K血症が進むとT波とU波が合体しQT幅が測定できなくなります。
① 0.5mm以上のST低下
② U波の高さ1mm以上
③ 同じ誘導でU波が T波より高い。
2誘導で上記3つ以上認めた場合“typical”なEKG、上記2つもしくはU波を認めた場合“compatible”なEKGと考えられます。
ある報告では血中K値2.7mEq/L未満では 78%に“typical”、11%に “compatible” な所見を認め、血中K値2.7~3.0mEq/Lでは共に35%に“typical”, “compatible” なEKGを認めたと言われます。(2)
<その他のEKG変化>
低K血症が進むとQRS波の高さと幅がやや増加します(成人では0.02sec以上はまれ)。QRS幅の増加は心室内伝導が遅くなる結果と考えられます。
P波の高さと幅は通常増加します。PR間隔はわずかに延長します。
この患者さんのEKGではこれら全てを認めました。
<不整脈について>
また、低K血症は様々な不整脈を引き起こします。
血中K値≦3.2mEq/Lの患者82人のうち28%にPVCを、22%にPACを認めたという報告もあります。(3)
(この患者さんの血中K値1.8mEq/LのEKGです。)
重度の低K血症における不整脈はジギタリス中毒(PAT with block, 様々な房室解離)と似たような不整脈も起こります。(ちなみにジギタリス中毒では低K血症ほどU波は増高しません)
ジギタリス中毒と同様に迷走神経刺激に対する感度が高まります。
また、VT,VF,TdPなどの心室性頻拍もおこることがあります。
ちなみに低Ca血症ではSTとQTc間隔の延長を認めますが、U波は通常認めません。
また低Mg血症に特異的なEKG所見はありません。(低K血症、低Ca血症といった他の電解質異常を伴っている事が多い)
ということで、長くなりましたが今月のEKGでした!
<Pearls>
・低栄養→ 電解質異常があるかも → EKG check!
・血中K値3.0mEq/Lくらいから進行するST低下、T波の減高、U波増高を認める。
① 0.5mm以上のST低下
② U波の高さ1mm以上
③ 同じ誘導でU波が T波より高い。
・致死的心室性頻拍も起こりうる。血中K値は高すぎも低すぎもコワイ。
1) Surawicz B: Relation between electrocardiogram and electrolytes. Am Heart J 73:814,1967
2) Surawicz B, et al. Quantitative analysis of the electrocardiographic pattern of hypopotassemia. Circulation16:750,1957
3) Davidson S, et al. Ectopic beats and atrioventricusemia;Arch Intern Med20:280,1967
4)Surawicz Knilans, CHOU’S ELECTROCARDIOGRAPHY IN CLINICAL PRACTICE 6th ed.
Philadelphia,PA,SAUNDERS ELSEVIER, 2008