2020.01.17

[解説] 心電図24:4月心電図 56歳女性 - 労作時の息切れが。

みなさま、教育班です。
遅くなりましたが、4月心電図の解答です!
たくさんのご意見をありがとうございました。
まずは1週目の質問の集計を示します。

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やはり不整脈や虚血を念頭においた点にチェックする方が多いのでしょうか。あまり学年差は明らかではないように感じます。

2週目に掲載した心電図を再掲します。

EKG4

本症例はaVRでのST上昇を認めその他の誘導で広範なST低下を認めました。
その上で2週目の回答です

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みなさまご指摘の通り本症例は血圧低下に加え、トロポニンの上昇も認められたことから急性冠症候群が疑われ、緊急冠動脈造影が行われました。その結果左冠動脈主幹部に90%の狭窄をみとめ左室の広範な壁運動低下を認めました。そのためPCIを行わず準緊急に冠動脈バイパス術(CABG)が行われています。

急性冠症候群におけるaVRでのST上昇はST上昇型急性冠症候群(STEMI)での診断における「ST上昇」に考慮されておらずSTEMIの診断において蚊帳の外に置かれてしまっている状況です。しかしながらaVRのST上昇は他の誘導のST低下より予後不良の強力な予測因子であることが数多く報告されています1-3。また、aVRでのST上昇とトロポニン上昇の組み合わせは最も予後が悪かったという報告もあります。
その病態生理としてaVRは左心室内腔を覗きこむようにする誘導で左室内膜側の虚血を反映しST上昇となるためとされています4

本症例のように左冠動脈主幹部病変の診断に関してもaVRでのST上昇は左主幹部病変もしくは3枝病変の最も強力な予測因子であったとするメタ解析があります5。逆にaVRでのST上昇を認めなければ陰性的中率98%という報告もあります。

また、心電図の読影とはずれますが、救急外来でアスピリン内服を行うことに異論はないと思いますが、経皮的冠動脈形成術(PCI)を視野にいれた時、クロピドグレルのローディングは皆様いかがされておりますでしょうか。PCI予定患者に対し施行前にクロピドグレルを投与させることにより脳心血管事故リスクを減少したとする報告は多く6、救急外来でクロピドグレルを内服させている施設もあるかと思います。
一方で、左主幹部病変にPCIを行うかCABGを行うかは施設の状況やSYNTAXスコアなどに寄ると思います。そこで本症例のようなCABGの適応になるかもしれない左主幹部病変を疑った時に救急外来でクロピドグレルのローディングを行うかどうかが意見の分かれるところだと思ったのですが1人もクロピドグレルのローディングと答えた方がいらっしゃらなかったのは意外でした。皆様の施設での状況をまた教えて下さい!

というわけで今月の心電図でした!

Take home message
・ 通常のSTEMIの診断にaVRにおけるST上昇は含まれていない
・ aVRでのST上昇は左室の広範な虚血を示唆する
・ aVRでのST上昇はCABGの適応となるような左主管部病変や3枝病変を示唆し、また陰性的中率も高い

参考文献
1 Circulation 2003; 108: 814-819
2 Circ J 2008; 72: 1047-1053
3J Am Coll Cardiol 2001; 38: 1355-1356
4 Circulation 2007; 115: 1306-1324
5 J Am Coll Cadiol 2001; 38: 1355-1356
6 JAMA 2002; 288: 2411-2420