2020.01.17

[解説] 心電図22:2月心電図 83歳女性 - 繰り返す意識消失。

まず、皆さんの回答結果をご紹介します。

質問1:何を疑うか?(29人)

EKG1303ans1

質問2:心電図を読む際にどのポイントに気をつけますか?(29人)

EKG1303ans2

さて、この患者さんの病態をどう表せばいいでしょう?

そうです、「繰り返す失神」ですね。
急性発症で、短時間の意識消失であり、麻痺も伴わず完全に戻っていることからこの患者さんの病態は失神であると考えました。
患者さんが自ら「失神」という主訴を言ってくれることは少なく、現病歴から失神という病態に落とし込めるかがまずはポイントになります。
回答では、多くの方が失神を想起しその背景疾患を記載されていました。アリセプトによる失神」との回答もありました。高齢者でコリンエステラーゼ阻害薬であるアリセプトが処方されている場合、失神の原因となるので注意が必要です。

失神の原因を調べるために実施した、来院時(意識清明時)の心電図は以下のようでした。

EKG1303ans3

心電図をよくみると、P波とQRSの関係がばらばらであることに気づきます
→完全房室ブロックですね
脈拍は39回/分 QTC 487msであり徐脈,QT延長もあります

みなさんの回答を見てみましょう
質問3:気になる所見は?(11人)

EKG1303ans4

質問4:ずばり診断は?(11人)
完全房室ブロック:9人 QT延長:2人 1度房室ブロック:1人という結果でした

質問5:意識消失を繰り返している原因は?(11人)
思考過程も含めて記載をして下さりありがとうございました。多かった意見は・・・
・QT延長→TdP, VT,VFを繰り返している
・完全房室ブロックが原因
・徐脈によるAdam-Stokes発作     でした

質問6:今後の心電図モニターの注意点は?
モニター、原因検索など様々な注意点を挙げて下さいました
・モニター波形では:VT,VF,心静止,wide QRS,TdP,さらなる徐脈の出現
・対応について:早めのペーシングを考慮, 心筋傷害の評価を行う
痙攣が起こるとモニタリングが難しくなるので、
ノイズと思ってもすぐにベッドサイドに見にいく
というERで働く皆さんならではの回答が寄せられました

この患者さんのその後の経過です

モニター装着し検査をすすめていると、突如モニターのアラームがなり響きました。
モニター波形をみると心室細動(波形は残っていません・・・)
患者さんに駆け寄ると、呼びかけに反応せず、頸動脈触知不可、直ちにCPRを開始しました。除細動を行い、胸骨圧迫を続けると短時間で「痛い痛い」と声が出るようになりました。心拍再開後の意識は清明で、麻痺もありませんでした。
そうです、この患者さんの失神の原因は心室細動だったのです。
完全房室ブロックも失神の原因となりえますが、完全房室ブロックの心電図波形が得られたときの患者さんの意識は清明でした。一つの異常を見つけただけで安心せず、他に隠れた原因がないか注意を怠らないことが重要と実感しました。

全失神の10~30%を占めると言われる心血管性失神について簡単に復習しましょう。
心血管性失神は5年後の死亡率が50%という報告もあり、速やかに原因を究明し治療を行う必要があります(a)
失神患者341人をしらべた研究では、心血管性失神を予測する独立した因子としては「心疾患の既往」のみであったという報告があります(b)
また、ESCの失神診療のガイドラインでは、年齢が増えるごとに心血管性失神の頻度が増え、75歳以上では16%が心血管性失神であるとの報告もあり、特に心疾患を考慮した対応が推奨されています(c)
この患者さんでは致死的な不整脈があり直ちに入院となりましたが、救急外来の診療のみでは失神の原因があきらかにならない場合もあります。経過観察入院の適応については、サンフランシスコ失神ルール(うっ血性心不全、Hct<30%、心電図異常、息切れ、収縮期血圧<90mmHgのいずれも認めない患者は入院を必要としない)など様々なクライテリアが存在しています(d)が、感度特異度共に優れたクライテリアは現時点ではないので、病院として統一した入院基準を定めておくのが望ましいでしょう。

Pearls

1:意識消失を繰り返す患者→失神の可能性を考える
2:一つ異常を発見しても、他の原因や新たな異常が起こらないか十分な診察&観察が重要

参考文献

a : W N Kapoor. Evaluation and outcome of patients with syncope. Medicine (Baltimore). 1990 May;69(3):160-75
b:P Alboni,et al. Diagnostic value of history in patients with syncope with or without heart disease.J Am Coll Cardiol. 2001 Jun 1;37(7):1921-8.
C:ESC, et al Guidelines for the diagnosis and management of syncope (version 2009). Eur Heart J. 2009 Nov;30(21):2631-71. doi: 10.1093/eurheartj/ehp298. Epub 2009 Aug 27.
d: James V Quinn et al. Derivation of the San Francisco Syncope Rule to predict patients with short-term serious outcomes. Ann Emerg Med. 2004 Feb;43(2):224-32.