2020.01.17

[解説] 心電図21:1月心電図 38歳女性 - 意識障害。若い女性の意識障害・・・?

まず第1週の皆さんの回答の集計です(39名)。

何を疑うか?

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どういったEKG所見に気をつけるか?

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この患者さんは意識障害と徐脈にて来院しています。しかも、腹壁から何かしらのチューブが出ている。

そうです!この患者さんは腹膜透析をしている患者さんなのです。透析+怪しい心電図となるとまず何よりも先に考えたいのが高K血症ですよね!こういった患者さんの場合にどういったことに注意して心電図を読みたいかを見て行きましょう。

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心電図をよく見てみましょう。まず、明らかに目につくのが「座ると痛そうな」T波。更に気づく点は、QRS幅がやたらと広い。鋭い人は、P波がないことにも気づくでしょう。これだけ揃っているとこの心電図は高K血症を示していることが分かります。

ここで第2週のEKG提示後の皆さんの回答の集計です(17名)。

気になったEKG所見は?

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診断は?

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経過を少々述べさせていただきます。

高K血症の疑いでグルコン酸Caとインスリン/グルコースにて治療開始(メイロンとフロセミドは無尿透析患者ということで使用せず)した後の心電図は以下の通りです(K値7.1)。T波は高いままですが、P波が戻り、QRS幅も狭くなっています。この直後に緊急透析となりました。

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来院時にもどってきたこの患者さんのK値は9.2でした!人間は9.2のK値で生きていられるのだと感心したものです。この患者さんはコンプライアンスがかなり悪く、しばらく腹膜透析をしなかったために尿毒症になってしまいました。

高K血症は様々な心電図変化を起こすことで有名です。様々な様相で来院する梅毒にちなんで「心電図の梅毒」とも呼ばれます。これは、高K血症は症状や心電図変化にかなりの個体差があるからなのです。一般的にはK値によって心電図が変化すると言われていますが、信じる者は裏切られるのが世の常。ある retrospective reviewでは、K値が6.0-6.8mEq/Lでは心電図変化を認めたのはたったの43%、6.8mEq/L以上では55%にとどまったと言われています(a, b)。

辛いことに皆さんは、患者さんの病歴/身体所見と心電図からその診断を求められます。血ガスですぐにK値が出る施設はいいですけど、生化学検査でK値の値を待っていたら、あなたの前の高K血症の患者さんはポックリと逝ってしまいます。

とは言うものの、どのように高K血症によってどのように心電図が変化するのかをおさらいしておきましょう。

とんがるT波君(T波増高)→控えめなP波ちゃん(P波消失)→太るQRS様(QRS幅拡大)→ねじれダンスの曲線さん(サイン波)

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さて心電図変化で気をつけていただきたいのはサイン波です。これは一見するとVT(心室頻拍)に見えてしまいます。脈数が120-130以下のVTらしき怪しい心電図にでくわしたときは高K血症(他にNaチャンネル拮抗薬中毒&再還流不整脈も)を必ず考慮しないと危険です(c, d, e)。ここでVTの治療をしてしまうと致死的転帰をたどることがあるので注意が必要!VTの治療薬はクラス1抗不整脈薬(もしくはそれに似た作用がある薬)であり、高K血症/Naチャンネル拮抗薬中毒/再還流不整脈の病態を悪化させてしまうからです。

Pearls
・透析患者+怪しい心電図=第一に高K血症
・最初に認めるのは「座ると痛そうな」T波
・高K血症はVTにも間違われるので,レート120以下のVTらしきEKGは注意!

a. Sood MM, et al. Emergency Management and Commonly Encountered Outpatient Scenarios in Patients With Hyperkalemia Mayo Clin Proc 2007;82:1553-1561.
b. Acker CG, et al. Hyperkalemia in hospitalized patients: causes, adequacy of treatment, and results of an attempt to improve physician compliance with published therapy guidelines. Arch Intern Med. 1998;158(8):917-924.
c. Kastor JA. Arrhythmias, 2nd ed. Philadelphia, PA, W.B. Saunders Company, 2000.
d. Chou T-C, Knilans TK. Electrocardiography in Clinical Practice, 4th ed. Philadelphia, PA, W.B. Saunders Company, 1996.
e. Marriott HJL. Pearls & Pitfalls in Electrocardiography, 2nd ed. Baltimore, MD, Williams & Wilkins, 1998.