2020.01.17

[解説] 心電図19:10月心電図 7歳男児 - 体育の授業中に倒れた。診断したその後はどうする?

みなさま、たくさんのコメントありがとうございます。本当に的を射たコメントばかりで頭が下がります。解説も必要がないくらいですね。。
失神をみたら心原性、血管性、神経調節性失神などの鑑別が挙がると思いますが、今回は心電図症例と言うことで、若年者の心電図異常を来す失神として想起しなければならない鑑別はQT延長症、WPW症候群、Brugada型心電図、HOCM、ARVD(不整脈原性右室心筋症)のなどがないか注意して読むといいと思われます。

着目すべき心電図所見としては
QT延長症候群:QTc450msec以上が延長とされ、おおざっぱな読み方としてはG先生のおっしゃっているようにRR間隔の1/2を超えるようなら疑った方がよいと言われますね。
WPW症候群:デルタ波の出現、PR間隔の短縮、QRS間隔の延長などがみられることが特徴とされます。
Brugada型心電図:右脚ブロック、V1-3でのSTの上昇が特徴とされます。ST上昇はcoved typeとsaddle back typeに大別されます。
HOCM:ST低下や巨大陰性T波が最も高頻度に認められるとされますが、その他左室高電位、左軸偏位、左房性Pなどがみられます。
ARDV:右脚ブロック、V1-4の陰性T波とQRS波終了直後の小さい結節状の波(=ε波)が特徴とされています。

症例提示で掲示した受診時の心電図では自動解析で
・QTc 531ms
・PQ 118ms
・QRS 74ms
・ QRS軸 59度
とあり、QT時間の延長が認められました。

診断:QT延長症候群

3年前のマイコプラズマ肺炎での入院時の心電図は以下でした

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QT延長症候群は先天性と後天性があり、後天性の多くは薬剤や電解質異常を原因とするのに対し、先天性は心筋細胞のイオンチャネルや膜構成タンパクの異常などによる再分極障害が原因となります。現在12種類の遺伝子型(LQT1-12)が報告されていますが、90%超を1-3が占めています。責任遺伝子と病型分類をまとめた表を以下に挙げます。また、Romano-Ward症候群は常染色体優性遺伝、Jervell,Lange-Nielsen症候群は常染色体劣性遺伝の形式をとることが知られています。

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さらに遺伝子型により不整脈発作の誘引や予後が異なり以下のような特徴があります
LQT1では運動中特に水泳との関連が指摘されており、発作も頻回ですが死亡率は低いとされています
LQT2では情動ストレスや聴覚刺激(朝の目覚ましや電話の着信、機械時計)が引き金になると言われています。
LQT3では交感神経の緊張が低下する睡眠中などに起こるとされており割合は低いものの死亡率は高いとされています。

QT延長症候群ではtorsade de pointes(TdP)を生じ失神などをきたしますが心室細動に移行し突然死の原因にもなるため早期診断、治療が求められます。

本患児も追加の問診で
祖母が突然死している。
母親が小学校4年生の時に当時中学1年生だった姉(本人からみて伯母)が突然死している。(死因はQT延長症候群とのことだが詳細不明)
母:小学校4年生~大学生まで通院していた(内服は小学生の一時期にしていたが、手術加療はなし)
叔母:近医通院中(病歴は詳細不明)
従兄弟2人(叔母の子供):近医にて内服加療中(テノーミン服用中)
といった濃厚な家族歴が明らかとなりました。
さらに叔母とその子供について近医に問い合わせたところ遺伝子検査でLQT1(遺伝子型:KCNQ1)が判明しており、従兄弟は運動制限を指示されているとのことでした。

また、QT延長症候群は本症例のようにけいれんや失禁を伴うこともあるため、初診時にてんかんを始めとした他の疾患に間違えられることも多く、特にてんかんと診断された患者では診断がつくまでの期間が有意に延長するとした報告もみられます。
そのため診断として発作の出現時の上記のような状況や、速やかな回復、家族歴やQT延長を来たすような薬剤摂取(小児ではEMやCAMなどの抗生剤が最多)があればてんかんや迷走神経反射を考えても心電図の確認が勧められます。参考までにQT延長症候群の診断に用いられるSchwartzの基準を添付します。

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再発作予防はLQT1ではβ遮断薬と運動制限になりますが、診断と同時に速やかな専門医への紹介が勧められています。さらにTdPの発作時の治療にはマグネシウムの有用性が示唆されており、10~20分かけて25~50 mg/kg(最大投与量2g)を静注/骨髄内投与(心停止となった多形性VT(torsades de pointes) にはより速く)して下さい。尚、蘇生についてはPALSに準じます。QT延長症候群はきわめて稀で健常小学生の中での有病率は0.038%とする日本からの報告もあります。しかし、見逃すと致死的な不整脈を来たすことがあるので一般的な失神では説明が困難な時は心電図でQT時間を確認するのがいいかもしれません。

今月の症例は京都府立与謝の海病院救急科の隅田靖之先生、京都府立医科大学救急医療学講座の安炳文先生より提供を頂きました。この場を借りて深謝いたします。

参考文献
Hayashi K, Fujino N, Uchiyama K, et al. Long QT syndrome and associated gene mutation carriers in Japanese children: results from ECG screening examination. Clin Sci (Lond) 2009; 117: 415-424
MacCormick JM, McAlister H, Crawford J, et al. Misdiagnosis of long QT syndrome as epilepsy at first presentation. Ann Emerg Med 2009; 54: 26-32.