2020.01.17

[解説] 心電図16:5月心電図 三例とも同じ疾患に関連しています。それぞれの所見に注目。

みなさま、6月はおやすみしてしまい申し訳ございませんでした。
どうぞよろしくお願い致します。

まずは心電図の解説からです。

Case1
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Ⅰ誘導の深いS波(≧1.5mm)

ⅢのQ波(≧1.5mm)、T波の陰転化を認めます。

Case2

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Ⅰ度房室ブロック、右軸偏位、右脚ブロックを認めます

Case3

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洞性頻脈、時計方向回転
誘導のS波
前胸部誘導での陰性T波、
Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でのST低下と陰性T波を認めます。

この症例はいずれも急性肺血栓塞栓症の心電図です。

肺塞栓はショックや心肺停止から軽度の呼吸苦まで非常に多彩な症状を来します。また、愁訴も失神や胸痛など多岐に渡り診断の難しい、けれども時に致死的な疾患の1つです。そこで今月は肺血栓塞栓症を心電図から見抜くための要点を今回の心電図を元にまとめました。

・ SⅠQⅢTⅢ
急性の右室負荷、肺高血圧を示唆する所見として現れます。
陽性率は高くない(10〜20%程度)上に、急性期以降は消失する事が多い。(つまり感度は高くないとされます)

・ 右脚ブロック
右室圧上昇に伴った右室拡大などで右脚繊維が伸展され伝導障害を来します。
比較的重症例に出現されるとされ、これも感度は高くないと言われていますが、特異度は高いとする報告が多くみられます。

・ 前胸部誘導におけるT波の陰転化
報告された当初は右室梗塞によるものと考えられていたが否定的な意見もあり、詳しい発生機序は不明であります。ただ、最近の報告ではもっとも診断的価値が高いとも言われ重要な所見の1つになっています。
有名なscoreとしては2001年に発表された以下のものが挙げられ、項目の中で上記に紹介したものの他には洞性頻脈などを含みます。
発表論文では10点をカットオフとすると重症肺塞栓に対する診断制度がもっとも高いとされましたが、その後の追試験では6点から12点まで幅があり、やはりその他の病歴などと併せて用いる必要がありそうです。

Streamらの基準として肺塞栓で入院した患者のうち76%が以下の7つのうち3つを有していたとする報告もあります。
1.不完全または右脚ブロックで、V1のST上昇や陽性T波を伴う
2.Ⅰ、aVL誘導に1.5mmを超えるS波がある
3.前胸部誘導における移行帯がV5 へ左方移動する
4.Ⅲ、aVF誘導におけるQ波、ただしⅡ誘導では見られない。
5.90°を超える右軸偏位
6.肢誘導における5mm未満の低電位
7.Ⅲ、aVF誘導またはV1-4誘導における陰性T波

参考文献
Daniel KR, Courtney DM, Kline JA. Assessment of cardiac stress from massive pulmonary embolism with 12-lead ECG. Chest 2001; 120: 474-481.
Streeram N, Cheriex EC, Smeets JL et al. Value of the 12-lead electrocardiogram at hospital admission in the diagnosis of pulmonary embolism. Am J Cardiol. 1994; 73: 298-303.

文責: 船越 志賀