2020.01.17

[解説] 心電図15:4月心電図 87歳女性 - 呼吸困難感、嘔気、食欲低下、黄視。

EMAのみなさま、

遅くなりまして申し訳ございません。今月の心電図4月号の解答です!

東京医療センター 矢吹先生よりご提供です。

症例をもう一度:

87歳女性、呼吸困難感、嘔気、食欲低下、

黄視にて救急外来受診。脈拍66bpm、血圧128/68mmHg、SpO2 96% 室内気、呼吸数 12-16/min、体温 36.5℃

ECG-1

心電図解説:

陰性T波やST低下から今回の心電図変化はジギタリス効果と考えられた。

症例経過:

本症例は、心電図変化等から虚血性心疾患も考慮し、心筋逸脱系酵素のチェックとUCGなど施行したが、虚血性心疾患は否定的であった。ジゴキシン製剤の内服歴があり、ジゴキシン血中濃度を測定したところ3.5ng/mlと高値であった。

症状およびジゴキシン血中濃度からジゴキシン中毒と診断した。呼吸苦、嘔気、食思不振、黄視の各症状は入院・内服中止後速やかに改善を認めた。陰性T波やST低下などの心電図変化も経時的に消失した。

ジギタリス中毒の心電図について補足(ジギタリス効果は中毒と=ではない):

ジギタリス中毒は比較的commonな疾患ではあるが、症状・心電図変化ともに非特異的でしばしば見逃されやすく注意が必要である。低K血症や低Mg血症、高Ca血症等は、ジギタリスの薬理作用を増強することが知られており、ループ利尿薬やマクロライド系抗菌薬、Ca拮抗薬、β遮断薬などの併用薬には注意が必要である。

ジギタリス中毒の心電図変化のポイント:

①“洞結節以外に異常な興奮起原が出現すること”“房室伝導が傷害されること”が、ジギタリス中毒の本態であり、どんな不整脈も出得る。
例)心室性期外収縮(PVC)、洞性徐脈、房室ブロックを伴う心房頻拍(PAT with block)、心室性二段脈、接合部調律、様々な程度の房室ブロック、心室頻拍、心室細動等。

②“ジギタリス効果”と呼ばれるT波変化(平坦化や陰転)、QT間隔短縮、盆状ST低下、U波出現などは、長期間にわたるジギタリス使用でよく認められるが、ジギタリス中毒との関連はないとされている。

③心電図変化自体に典型的なものはないため、臨床症状と疑うことが重要。

T波やST変化を認める症例においてジキタリス効果も考慮し、詳細な病歴・内服歴の聴取が必要である。

参考文献:
Levine M. Digitalis(Cardiac glycoside)poisoning. In: UpToDate, 2011.
村川裕二,循環器薬治療薬ファイル-薬物治療のセンスを身につける-,メディカルサイエンスインターナショナル,2003