2020.02.01

2020/1/31 文献紹介

EMA文献班より東京大学 公衆衛生大学院の宮本です。
今回は「小児の院外心停止」をテーマに日本発の文献をお送りします!

①Matsuyama T et al. Pre-Hospital Administration of Epinephrine in Pediatric Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
J Am Coll Cardiol. 2020;75:194-204
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31948649

「院外心停止の小児に対して病院前のアドレナリン投与は予後を改善させるか?」

最初にご紹介するのはEMA文献班 アドバイザーの松山先生が執筆された文献です!
日本の全国ウツタインデータベースを用いて、2007〜2016年の期間小児(8−17歳)院外心停止症例を対象に病院前アドレナリン投与の有効性を検証しています。
この研究の特徴として、時間依存性傾向スコアマッチング(※1)を用いて、蘇生時間バイアス(※2)を可能な限り除外しています。
観察期間内に3961人が対象となり、最終的に304人ずつがマッチングされました。
結果として、1ヶ月後生存率および1ヶ月後の良好な神経学的予後の割合には両群間に有意差は見られませんでしたが(生存率:RR 1.13, 95%CI 0.67-1.93 神経学的予後:RR 1.56, 95%CI 0.67-3.96)病院前ROSCの割合はアドレナリン投与群で有意に改善していました。(RR 3.17, 95%CI 1.54-6.54)

本邦での救急隊における病院前アドレナリン投与の特徴として

・8歳以上しか投与できないこと
・骨髄針が確保できないので、諸外国と比較してアドレナリンの投与割合が低いこと
が挙げられ、どうしてもサンプル数が少なくなってしまう傾向があります。
過去の研究でも、サンプル数が大きくなれば生存退院の割合などに有意差が出ていることから、今回の研究で、生存率に有意差が出なかったのはサンプル数が少なかったことが原因かもしれないと筆者は述べています。

とはいえ、ROSCしないことには生存退院は望むべくもないので、今後の小児の蘇生ガイドラインに一石を投じる研究になるかもしれません!

※1 時間依存性傾向スコアマッチング:「その患者がどのくらいアドレナリンを投与されやすいかという確率」を蘇生開始から1分ごとに算出し、アドレナリンが投与された群とそうでない群において、同じタイミングでその確率が近いもの同士をマッチさせる手法
※2 蘇生時間バイアス:「蘇生時間が長い(予後が悪いであろう患者群)の方がアドレナリン投与を受けやすい」というバイアス

もっと勉強したい方はこちらの文献もどうぞ!
②Okubo M et al. Prehospital advanced airway management for paediatric patients with out-of-hospital cardiac arrest: A nationwide cohort study.
Resuscitation. 2019;145:175-184
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31539609

「院外心停止の小児に対して、病院前の高度な気道確保は予後と関連がなかった」

同様のデータベースと解析手法を用いて、小児の院外心停止に対する高度気道確保が予後を改善するかについて検証している文献です。
こちらは蘇生時間バイアスを排除しても、小児に対する病院前の高度気道確保を行った群と行っていない群では予後に有意差がなかったという結果になっています。

③Kido T et al. Outcomes of paediatric out-of-hospital cardiac arrest according to hospital characteristic defined by the annual number of paediatric patients with invasive mechanical ventilation: a nationwide study in Japan.
Resuscitation. 2020 [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31931094

「院外心停止から蘇生した小児症例では、重症患者治療をより多く診ている病院に入院している方が良好な予後であった」

こちらは日本のDPCデータベースを用いた文献です。
18歳未満の院外心停止から蘇生し集中治療室に入室した患児を対象に、病院を重症患者(年間の小児呼吸器管理症例)の数で4グループに分けて、それぞれのグループのアウトカムを検証しています。プライマリアウトカムは死亡率、セカンダリアウトカムは死亡もしくは「新規に生じた医療依存状態での退院」の複合アウトカムとしています。
2010年-2017年の観察期間で計2540人が対象となりました。結果として、重症患者の経験が少ない病院(<48例/年)と比較して、経験の多い病院(>164例/年)では患児の死亡率や複合アウトカムの割合は有意に低かったとのことです。(死亡率OR: 0.46, 95%CI: 0.31-0.70 複合アウトカムOR: 0.67, 95%CI: 0.46-0.96)
「レセプトデータを用いた研究であり、prehospitalでの情報が少ない」「年間人工呼吸器管理症例数が本当に小児重症管理の質を推定するものか」など、様々なlimitationはありますが、この結果は小児の心停止症例の搬送戦略に一石を投じる研究ではないかと筆者は述べています。

今回の文献紹介は以上です。
明日、2月1日はEMA meetingですね!皆様、名古屋でお会いしましょう!