2020.01.17

2020/1/15 文献紹介

EM Allianceメーリングリストの皆さま

令和2年も2週間ほど経ちましたが、いいスタートは切れましたか?
本年もEMA文献班をよろしくお願い申し上げます。

今年最初の文献紹介は、
・高カリウム血症&GI療法シリーズ(①②③)
・ERからICU入室までの時間と死亡率(④)
・CPRにおけるバイスタンダーのAED使用と生存率(⑤)
をお送りします。

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① Singer AJ, et al. Rapid correction of hyperkalemia is associated with reduced mortality in ED patients.
Am J Emerg Med. 2019 Dec 10. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31884025

「ERでの迅速な高カリウム血症補正は,院内死亡率の低下に関連する」

 救急外来で高カリウム血症(>5.5mEq/L)を補正することに異論はないと思いますが、どのように管理するかに関しては意外とエビデンスがありません。著者らは、米国の教育病院のERを受診し高カリウム血症であった患者の院内死亡率との関連を後方視的に調べています。
 1年間で1033人の高カリウム血症患者がおり、そのうちカリウム値を3〜8時間以内に再検した884人を解析したところ、再検時に5.5mEq/L以下に補正されていた患者群(576人)では、まだ5.5mEq/L以上だった患者群(308人)に比べて、院内死亡率が半減することがわかりました。(6.3% vs. 12.7%)これは年齢や性差、血清クレアチニン、初期のカリウム値などで補正を行っても死亡率の低下と関連していました。(OR 0.47,95%CI 0.28-0.80)なお今回の研究では、両群とも高カリウム血症の治療が全体6割程度しか行われておらず、またどの方法が最も効果的かを判断することはできませんでした。
 後方視的な研究であるため、そもそも高カリウム血症が持続するような患者は重症で予後が悪い可能性があります。とはいえ高カリウム血症を早期に認識して介入を行い、適宜カリウム値を再検して治療効果判定する努力が必要といえそうです。

② Moussavi K, et al. Management of Hyperkalemia With Insulin and Glucose: Pearls for the Emergency Clinician.
J Emerg Med. 2019 Jul;57(1):36-42.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31084947

 高カリウム血症を迅速に補正することの重要性に続いて、グルコース-インスリン療法(GI療法)のレビューを紹介します。

インスリンはNa+ーH+アンチポーターを刺激することでK+の細胞内へのシフトを促します。インスリンの静脈内投与により15分以内にカリウムシフトは起こり、インスリン10単位で0.6〜1.2mEq/LのK+を下げる効果があると推察されます。

 しかし、このGI療法にはリスクがないわけではなく、過去の報告では8.7%〜75%の低血糖の合併が報告されています。低血糖のリスクファクターとして、腎機能障害、糖尿病の既往がないこと、治療前血糖値が<150mg/dL、体重<60kg、女性を覚えておきましょう。

 低血糖を避ける戦略としてこのレビューでは以下の治療を提案しています。
 ①インスリン5単位+ブドウ糖25-50g
 ② インスリン0.1単位/kg(max10単位)+ブドウ糖25-50g
 ③ インスリン10単位+ブドウ糖≧50g
 ※血糖値が70mg/dL以下の時に必要なブドウ糖25gを事前にオーダーしておく
 ※治療開始後4〜6時間は毎時間ごとに血糖値のモニタリングを行う。

 GI療法における低血糖のリスクを認識して、安全にカリウムの補正を行いましょう!

③ Yang I, et al. Assessment of dextrose 50 bolus versus dextrose 10 infusion in the management of hyperkalemia in the emergency department.
Am J Emerg Med. 2019 Nov 16. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31837905

「GI療法で10%ブドウ糖液の持続投与という戦略もある」

 高カリウム血症になりやすい慢性腎臓病の患者では、細くてもろい静脈路しかとれなくて困ることはないでしょうか?そんな静脈路に高浸透圧液である50%ブドウ糖液を流すと、頻度は多くないものの静脈炎や血管外漏出のリスクがあります。また薬理学的なプロファイルを考慮すると、50%ブドウ糖は投与後30分で血糖値でベースラインに戻ることが予想されますが、インスリンは効果は約4時間持続するため低血糖を起こす可能性があります。
 著者らは、10%ブドウ糖液の持続投与が50%ブドウ糖液のボーラス投与と比較して、低血糖を予防する効果があるかを後方視的に調べました。(ちなみにこの研究をしようとしたきっかけは、50%ブドウ糖液の供給不足で10%ブドウ糖液を代替薬として使わざるをえなかったからだそうです)
 米国の同じ医療システムの3つの都市型ERで、高カリウム血症の診断後3時間以内にGI療法を行った134人のデータレビューを行いました。50%ブドウ糖液ボーラス群(D50群)と10%ブドウ糖液持続投与群(D10群)で、患者背景や初期の血清カリウム値や使用したインスリンの量、再検時の血清カリウム値(5.5 vs. 5.6)、初期のブドウ糖投与量などに差はありませんでした。なお10%ブドウ糖液の投与速度の中央値は250ml/hでした。
 結果、D50群とD10群の間で低血糖の発生率に差は認められませんでした(16[22%] vs. 16[26%])。また、両群ともに血管外漏出や静脈炎は認められませんでした。
 この研究では、高カリウム血症の治療および低血糖の治療のプロトコルが定められていないため、インスリン投与や低血糖治療の制限はなく、血糖チェックも標準化されていないという制約があります。
 しかし、この結果から50%ブドウ糖液ボーラスの代替手段として、10%ブドウ糖液の持続投与を考慮してみてもよいのではないでしょうか。

④ Groenland CNL, et al. Emergency Department to ICU Time Is Associated With Hospital Mortality: A Registry Analysis of 14,788 Patients From Six University Hospitals in The Netherlands.
Crit Care Med. 2019 Nov;47(11):1564-1571.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31393321

重症度が高い患者はERからICU入室までの時間が長くなると院内死亡率もあがる!

みなさんの施設では重症患者がERに搬入されてからICUに入室するまでどのくらいの時間を要しますか?
施設によっても異なるでしょうし、国によってもさまざまなようで、フィンランド 4.8時間、オーストラリア・ニュージーランド 3.9時間、オランダ 2.2時間だそうです。

ERからICU入室までの時間(ED to ICU time)と死亡率の関連は過去にも検討されているようですが、結果がまちまちで定まっていません。
そこで、本文献ではED to ICU timeを重症度で補正し、院内死亡率との関連に関して、既存データベースを用いて観察コホート研究を行っています。

オランダの6つの大学病院でERから直接ICU入室した症例、約1万5千人が対象となりました。
ED to ICU timeは中央値2.0時間で、院内死亡率は22.2%でした。

ED to ICU timeを5つ(<1.2時間、1.2〜1.7時間、1.7〜2.4時間、2.4〜3.7時間、3.7時間<)にわけ、さらに重症度の指標であるAPACHE IVスコアで調整したところ、APACHE IVスコアが高い(>60.9%)患者では、ED to ICU timeが院内死亡率と相関していました(2.4〜3.7時間 オッズ比1.29、3.7時間以上 オッズ比1.54)。

本文献の結果を踏まえると、我々はERで重症度が高い患者をいち早く同定してICU入室を急ぐ必要がありそうです。
Discussionで「NEWS(National Early Warning Score)が病棟だけでなくERでも有用」なんて話もでています。
みなさまの施設で実際「重症度の患者を見極める」ためにどうのような工夫をされていますか?

ERからICU入室というと複数の診療科が関わることでもあります。
ただただ急ぐというのではなく、患者安全と予後改善のためにERとICUのスムーズな連携とコンセンサスが必要ですね!

⑤ Nakashima T, et al. Public-access defibrillation and neurological outcomes in patients with out-of-hospital cardiac arrest in Japan: a population-based cohort study.
Lancet. 2020 Dec 21;394(10216):2255-2262.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31862250

バイスタンダーがAED使用すると、即座に自己心拍再開しなかったとしても神経学的転帰も生存率も良い!

日本では、国際的なガイドラインで推奨されているウツタイン様式で、2005年1月以降総務省消防庁により院外心停止症例の全例記録が行われています(All-Jpan Utstein Registry)。
このRegistry 10年間(2005/1/1~2015/12/31)の記録から、「心原性心停止」で「市民による目撃」があり「市民によるバイスタンダーCPR」を実施された「初期波形が除細動適応」の28,019人を対象としています。
このうち、2,568人(8.0%)が救急隊接触前に市民からCPRとAEDによる除細動を実施され、25,451人(89.5%)はCPRのみで除細動は実施されていませんでした。
この2群で救急隊接触までに自己心拍再開しなかった症例を比較しています。(自己心拍再開したのはそれぞれ326人、364人。少なっ!)

院外心停止30日後、主要評価項目の神経学的転帰良好(CPC 1 or 2)を示した患者の割合は、CPRとAEDによる除細動を受けた患者の方がCPRのみの患者よりも有意に高くなりました(37.7% vs 22.6%、プロペンシティスコア調整オッズ比 1.45、95%CI 1.24-1.69、P<0.0001)。
また、30日後生存率も、CPRとAEDによる除細動を受けた患者の方が有意に高くなりました(44.0% vs 31.8%、調整オッズ比 1.31、1.13-1.52、P<0.0001)。

市民バイスタンダーがAEDで除細動した場合としなかった場合で、患者が最初に除細動されるまでの時間が大きく違っていました(1分 vs 12分、P<0.0001)。
実際AED使用しようとしても場所がわからなかったり躊躇したりで時間がかかってしまいそうですが、1分ってスゴイ!救急隊が除細動する場合より10分以上早くなっていますね。

ちなみに、発症から救急要請までの時間、ならびに、発症から病院到着までの時間はともに、バイスタンダーがAEDによる除細動を行った患者の方が有意に長くなっていました。
それでもなお、神経学的転帰や生存率が良いわけですから、市民のAED使用の啓蒙をバンバンやっていく励みになりますね!

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 EMA文献班
 大林 正和(中東遠総合医療センター 救急科)
 関根 一朗(湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科)