2020.01.04

2019/12/31 文献紹介

みなさまこんにちは。
沖縄県立中部病院救急科の山本です。
文献班より12月後半、2019年最後の文献紹介です。

もう今年もあと数時間ですね!!年越し当直や夜勤中の先生もいらっしゃいますでしょうか!?
今年はどのような年だったでしょうか??

個人的には1年間、あっという間だったな...と思っています。
だいぶ年も取ってきて、新しいことに挑戦したつもりでも、自分が本当に成長しているか不安になる今日この頃です!!

私の個人的なことはさておき、今年最後の文献紹介を始めましょう!!
前半は山本から救急関連の文献を、後半は飯塚病院集中治療科の竪から集中治療関連の文献を紹介いたします。
最後までお楽しみください!!

1. Maxien D, et al. needles in pediatric cadavers: rate of . Resuscitation. 2019;145:1-7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31585187


“小児の骨髄針は報告されているよりもはるかに成功率が低い!!"

小児はIV確保が難しいため、蘇生の際に骨髄針を使用することが多いと思います。大人と比べて華奢な足にとる骨髄針は意外に難しいと感じることはありませんか??

実は小児に対する骨髄針の留置は成功率が高い(80%程度)という報告があります。しかしいずれもマネキンや七面鳥の骨を使用した研究で、実際の臨床での成功率とは解離がある可能性がありました。

そこで著者らは骨髄針が留置されたまま撮影された小児のご遺体のAI画像から骨髄針の成功率を調べました。

著者らの地域の法医学研究所では,剖検対象となる小児(18歳未満)のご遺体は全例CT検査が施行されており,骨髄針が留置された状態でCT検査を行ったご遺体が研究に組み入れられました。脛骨の骨欠損像や脛骨周囲の軟部組織の空気像など骨髄針が挿入された可能性が高いものの、画像が撮影された時には骨髄針が抜かれたいたご遺体は除外されました。骨髄針が正しい位置にあるかは、2人の放射線科医により判断されました。骨髄針の先端が骨内にあれば位置異常はないとし、どちらか迷う場合も、位置異常はないと判断しました。

結果です、2012年8月から2017年6月の間に18歳未満のご遺体が212体、そのうち骨髄針が留置されていたのが38体ありました。1歳未満が22体、1歳以上が16体でした。

1歳未満では22体、合計34本の骨髄針が留置され、位置異常は64%(14体)、47%(16本)でした!!
1歳以上では16体、合計23本の骨髄針が留置され、位置異常は50%(8体)、39%(9本)でした!!

上記の結果から半分近くの骨髄針が正しく挿入されていないことが判明しました!!

剖検対象となったご遺体のみ対象としていることや、症例数が非常に少ないこと、施行者のトレーニングレベルが不明なこと、骨髄針が取られた具体的な条件・状況が不明なこと、など一概に小児に対する骨髄針の成功率は低いと言い切れないと思います。またこの研究では誰が骨髄針を留置したのかがはっきりしません。
とはいえ、この結果は非常にインパクトがあると思いました。


2. Nazerian P, et al. Integrated use of conventional chest radiography cannot rule out acute aortic syndromes in emergency department patients at low clinical probability. Academic emergency medicine. 2019;26(11):1255-1265.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31220387


“たとえ事前確率が低いと推定される状況でも、胸部レントゲンが正常だけでは急性大動脈症候群の除外に不十分である!!”

大動脈解離を否定したい時に皆さんはどれくらい胸部レントゲンを信頼していますか??たとえば胸痛のみで受診した患者に対して、いきなり造影CTは撮影しませんよね??しかし胸痛患者で大動脈解離は重要な鑑別診断です。そんな時に胸部レントゲンが正常だと安心していませんか??

大動脈解離や大動脈壁内血腫を含む急性大動脈症候群を疑う場合Acute Aortic Syndrome Risk Score (ADD-RSを用いて事前確率を推定することは国際ガイドラインで推奨されていますADD-RSは患者背景・状態疼痛の特徴身体所見の3項目からなりそのうち何項目を満たすかでスコアリングするものですADD-RS≦1の場合はいきなり造影CTを撮影するのでなく胸部レントゲンや心電図などの検査から始めることが推奨されています

これから紹介する文献はADD-RS≦1点、つまり大動脈解離の事前確率が低いと予測される場合に胸部レントゲンが診断に寄与するかについて調べたものです。

この研究はADvISED studyの二次解析です。ADvISED studyはADD-RSとd-dimerを組み合わせることで大動脈解離を含む急性大動脈症候群を否定することができないかを調べた前向き研究です。2017年の11月に文献紹介で取り上げております (https://www.emalliance.org/education/dissertation/journal-20171120)。

2014年9月から2016年12月までに4ヶ国、5ヶ所の三次病院で救急外来を受診した急性大動脈症候群疑いの患者が対象です。胸部レントゲンは臨床診断目的に読影した放射線科医とは別の放射線科医により読影されました。

読影で確認されたのは以下です。
- 縦隔の拡大 (大動脈弓部で80mm以上、もしくは縦隔胸郭比>0.25)
- 大動脈の輪郭の不明瞭もしくは不整
- aortic knob sign
- 10mm以上の大動脈の石灰化の内側への偏位
- 右側への気管偏位
- NGチューブの位置異常
- 左側胸水
- 心嚢液貯留疑い
- 左肺尖部の不明瞭

結果です。1030人の患者で最終的に急性大動脈症候群と診断されたのは48人いましたが、ADD-RS≦1点+胸部レントゲンで上記のいずれの異常(縦隔拡大を含む)も確認されなかった患者(766人)では15人が急性大動脈症候群と診断されました!!
なお縦隔拡大はないものの、胸部レントゲンでその他異常が確認された患者(60人)では、1人が急性大動脈症候群でした。

ADD-RS≦1点+胸部レントゲンで縦隔拡大なしは陰性尤度比 0.4 (0.27-0.6)、ADD-RS≦1点+胸部レントゲンで何も異常なしは陰性尤度比 0.41 (0.27-0.62)でした。

事前確率が低いと推定される状況で、胸部レントゲンで異常なしでも、1/3の急性大動脈症候群は見逃してしまう結果になりました!!

たとえ強く疑っていない状況でも、胸部レントゲンのみでは急性大動脈症候群を見逃す可能性があり、常に総合的な判断が必要そうですね!!


飯塚病院集中治療科の竪です。私からは集中治療関係の文献を2つ紹介します。

3. Jacquet-Lagreze M, et al. Capillary refill time variation induced by passive leg raising predicts capillary refill time response to volume expansion. Critical Care. 2019; 23: 281
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31420052


「 capillary refill timeのpassive leg raisingによる変化量が輸液反応性の指標として使えそう」という前向き観察研究です 。

<背景>
Sepsis-3が発表されてから敗血症や敗血症性ショックにおける蘇生の指標として乳酸値がより重要視されるようになり-targeted standardとなっています。しかし乳酸値は様々な要素の影響を受けるため末梢循環が改善していても乳酸値はまだ減少していないという事があり得ます輸液過剰の原因となり得ますmottled skin斑状皮膚とcapillary refill timeCRTは末梢循環を正確に反映しており perfusion-targeted ANDROMEDA-SHOCK Trial )一方でpassive leg raisingPLRによる輸液反応性の評価が注目されています

<方法やアウトカム>
場所:フランスのリヨンの三次病院の胸部心臓ICU
対象:急性循環不全と診断され、麻酔科専門医が輸液負荷を行うと判断した患者
Primary outcome: PLRによるCRTの短縮ΔCRT-PLRが輸液反応性の指標となるか
です。
CRTの測定に関しては、iPhone 6で撮像された4回の動画を後で別の評価者が見て、計測し、その平均値を最終的な値として出します。圧迫の手技に関しては、胸部の皮膚に10mLの空気が入ったピストンを3mLに空気が入るまで押し当てて、決まった圧力がかかるようにしています。
また「輸液反応性がある」の定義は実際に500mLの乳酸リンゲル液を20分で投与した後にCRTが25%以上短縮する事です。

<結果>
ΔCRT-PLRの27%以上の減少は末梢循環の改善を感度87%、特異度100%で推測する事ができました。ROCAUCは0.94でした。

<私見>
CRTを指標にした蘇生が予後の改善につながるかに関しては今後の研究が待たれます。またリアルタイムにCRTを測定できるようなデバイスの開発が今後の課題ですが、CRTはLow costで、非侵襲的で使用しやすく期待大だなと思います。

4. Ma J et al. Early Palliative Care Consultation in the Medical ICU: A Cluster Randomized Crossover Trial. 2019; 47: 1707-1715
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31609772


「ICUの患者でルーチンに緩和ケアチームへの介入依頼を行う事が、ハイリスクな重症患者のケアに影響を与えそう」というRCTです。

<背景>
最近「救急緩和」という言葉が注目されるようになり、高齢化が進む日本では、ますますその需要が高まってくる事が予想されます。集中治療の分野もその例外ではありません。予後予測に関わらず、ICUにおいて緩和ケアチームへのコンサルテーションを行う事でICU入室、ICU滞在日数、医療資源の利用などが少なくなる可能性があるとsystematic reviewで示されていますが、RCTはほとんどない状況です。緩和ケアチームへのコンサルテーションを行うタイミングも重要で、早期の方がその効果が大きいと言われています。

<方法やアウトカム>
単施設の2つのICUをcrossoverで、
・早期に(ICUに入室して48時間以内に)緩和ケアチームへコンサルテーションを行う群(早期群)
・これまで通りICU主治医の判断でコンサルテーションを行う群(通常群)
に割り付けています。
Primary outcome: DNR/DNIにcodeが変更された割合
Secondary outcome: 気管切開術の施行率退院後の再入院率救急外来受診率ICU在室日数入院期間院内死亡率などです
早期のコンサルテーションの対象は、多臓器不全、ショックで6時間以上昇圧剤を要する、呼吸不全でマスク換気や気管挿管を要するなどの患者です。

<結果>
DNR/DNIへのcodeの変更は、早期群で50.5%、通常群で23.4%と早期群で有意に多かったです(p<0.0001)。また気管切開術の施行率、再入院率、救急外来受診率も早期群で有意に低かったです。興味深いことにICU在室日数、入院期間、院内死亡率に関しては両群で有意差はありませんでした。

<私見>
病院全体の病床数に対するICUの病床数が少ない日本では、ICUのベッドマネージメントがより重要になってくるため、その意味でも早期の緩和ケアチームの介入は有用である可能性がありますが、今回の研究でICU在室日数に有意差はありませんでした。また患者や家族の精神的な満足度に関しては今回評価できていませんので、今後の研究に期待です。


最後までありがとうございます。
個人的には、竪先生の紹介して下さった、ICU患者への緩和ケアチームの早期介入の研究が印象的でした。緩和ケアチームが早期に介入しても、ICU在室日数や入院期間、院内死亡率などに有意差がないということは、大きなインパクトがありました。

12月後半、今年最後の文献紹介は以上となります!!
来年も文献班をよろしくお願いいたします!!
それでは、みなさま、よいお年を!!