2019.12.25

2019/12/15 文献紹介

12月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①Kearon C et al. Diagnosis of Pulmonary Embolism with d-Dimer Adjusted to Clinical Probability.
N Engl J Med. 2019 Nov 28;381(22):2125-2134.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31774957

「低リスク患者はD-dimer<1000ng/mLで肺塞栓否定できそう」という前向き試験です。

肺塞栓症除外のためにD-dimerを測定しますが、500ng/mL以下ってなかなか厳しい基準ですよね…。
今回のスタディは、もし患者が臨床的に低リスクであれば、1000ng/mL以下をカットオフ値にして良いのでは?という主旨です。

具体的にはWellsスコアを用いて
低リスク(0〜4点): D-dimer<1000ng/mL
中リスク(4.5〜6点): D-dimer<500ng/mL
をカットオフ値とします。

そして、これに当てはまれば造影CTなどの画像検索は行いません。

これを肺塞栓症を疑う主に外来患者2017人対象に行い、初期診療で7.4%に肺塞栓症が見つかりました。
結果、上記の方法で除外診断された1325人は全員、3ヶ月間のフォローでも肺塞栓を含めた深部静脈血栓症はみられませんでした。

ええやん!

2014年、患者年齢に応じてカットオフ値を変更する方法が報告されました。(Righini Mら. JAMA:2014)
D-dimer<年齢×10ng/mL(50歳以上)

しかしこの方法では、造影CTによる被曝を避けたい若い患者のカットオフ値が厳しくなります。

今回の方法は、シンプルですし、実臨床の感覚とも一致しています。
ゲームチェンジャーとなるのではないでしょうか。

②van Oppen JD et al. What older people want from emergency care: a systematic review.
Emerg Med J. 2019 Dec;36(12):754-761
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31649070

「高齢者が救急外来に望むものは何か?」についてのシステマティック・レビューです。

基本的に、若者のものと同様でした。
・待ち時間の短縮
・適切な治療
・わかりやすい説明
・快適な環境

…そりゃそうだ!

しかし、高齢者特有のものがありました。
・全人的医療
・意志決定を助けてほしい
・きちんと理由を説明されれば多少待ち時間が長くても構わない

例えば、患者に少しでも認知機能低下がみられれば、医療者は治療方針について家族とだけ話し合いがちです。
これでは個人として尊重されていないと感じるはずです。

逆説的ですが、医療者は高齢者をひとくくりに扱うのではなく、個人として尊重する姿勢が大事ということです。
…明日から仕事がんばろうっと。

後半は福岡徳洲会病院の鈴木です。
さらに2 つの文献を紹介いたします。

③Yu S, et al. Efficacy and outcomes of lipid resuscitation on organophosphate poisoning patients: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med. 2019 Sep;37(9):1611-1617. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30527914

皆さんは薬物中毒に対する脂肪乳剤の投与を試したことがありますか?
主に局所麻酔薬中毒に対する有効性が多く報告されており、日本麻酔科学会の医薬品ガイドラインでも紹介されています。またCaチャネルブロッカー中毒や抗精神病薬などに対する有効性も説かれています。

今回の文献は、有機リン中毒に対する脂肪乳剤の有効性について論じたMeta Analysisです。
Includeされた7つの文献で、計630人の患者に対して脂肪乳剤の有効性を調べています。
回復した割合(OR: Odds Ratio=2.54)や死亡率(OR=0.31)、採血データなどもすべて有意に改善したという結果でした。
注意したいポイントは7つの文献とも中国で行われたRCTです。本文にも記載されていますが、元の文献のエビデンスレベルが低いため、結果をそのまま鵜呑みにするのは避けたほうが良いと考えられます。とは言え有機リン中毒に脂肪乳剤という視点は、重要で興味深いテーマです。今後は中国以外の国からの報告にも期待したいところです。

なぜ中国でばかりRCTが組まれてきたかというと、患者数の多いことが理由として挙げられます。中国では薬物中毒の半分が有機リン中毒で、中毒死の80%以上が有機リン中毒なんだそうです。とても驚かされる事実ですね。

④Kapur J, et al. Randomized Trial of Three Anticonvulsant Medications for Status Epilepticus. N Engl J Med. 2019 Nov 28;381(22):2103-2113. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31774955

てんかん重積の患者に第一段階の治療としてベンゾジアゼピンを投与しても痙攣が止まらない場合、皆さんは何の薬を投与していますか?
ホスフェニトインを第二段階の薬剤として使用している施設は多いと思います。
またてんかん重積に対するレベチラセタムの投与は保険適応外になりますが、諸外国で安全に使用されている状況をみて適応外使用に踏み切っている施設もあるようです。
また海外にはバルプロ酸の注射薬もあり、一般的に使用されています。
今回のStudyは純粋な薬剤の効果として、ホスフェニトイン・レベチラセタム・バルプロ酸の3つの注射薬を比較して、どの注射薬が成績が良かったかを比べたRandomized Trial(ESETT Trial)です。

384人の患者に3剤をランダムに割り付けして比較しています。
投与開始後から1時間後に、てんかんが止まっていて意識が回復していたのは47% vs 45% vs 46%で、ほぼ同等の効果でした。
また有害事象の頻度に有意差はありませんでした。

ホスフェニトイン(ホストイン