2019.12.25

2019/11/15 文献紹介

EMA文献班より健生病院の徳竹雅之です。

青森県では雪がちらつき始めました。
患者さんも多くなる季節ですが、皆様も体調を崩さぬようお気をつけください。

さて、11月前半は救急外来での鎮痛に関わる文献を2つと、SVTへの対応に関わる文献を2つ紹介いたします。

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①Motov S et al. Comparison of Oral Ibuprofen at Three Single-Dose Regimens for Treating Acute Pain in the Emergency Department: A Randomized Controlled Trial
Annals of Emerg Med. 2019 Oct;74(4):530-537. PMID:31383385

救急外来で処方するイブプロフェン、400mgを越えて処方しても鎮痛効果に差はなし

皆さんは、疼痛を訴えて救急外来を受診した患者さんに、NSAIDsを多めに処方したくなることってありませんか?
これはロキソニン®︎1錠では効かないだろうな…と思うこと、ありますよね?
そんな時の参考になるかも知れません。

この論文は、NSAIDs(イブプロフェン)を1.5倍量、2倍量処方して、60分後の疼痛がどうなったか?という論文です。
P:救急外来に急性の疼痛を訴えて受診し、医師の判断でイブプロフェンが適すると考えられた成人患者(NYの病院)
I:1.5倍量(600mg)、もしくは2倍量(800mg)のイブプロフェン
C:通常量(400mg)のイブプロフェン
O:60分後の疼痛(内服前との前後比較)

を調べたdouble blind RCTです。
各群75人ずつのstudyでした。結果は、筋骨格系の疼痛の患者が約60%で、
内服後60分時点での疼痛スケール(VAS)の変化は、400mg群で6.48/10→4.36/10 (-2.12)、600mg群で6.35/10→4.50/10 (-1.85)、800mg群で6.36→4.50 (-1.95)、と有意差があるとはいえませんでした。
単施設での研究で、観察期間も60分と短いですが、あまり高用量のNSAIDsを処方しても患者さんの益にはならなさそうです。
本研究は日本と処方用量が異なるのでそのまま日々のプラクティスに適応は出来ないかもしれませんが、less is moreの観点からも注意が必要ですね。
日本で活動する私達としては、200mg vs 400mgも気になるところですね!

②Gong J et al. Oral Paracetamol Versus Combination Oral Analgesics for Acute Musculoskeletal Injuries
Annals of Emerg Med. 2019 Oct;74(4):521-529. PMID:31378383

救急外来で、アセトアミノフェン、NSAIDs、オピオイドを同時に投与しても鎮痛効果に差はなし(ばかりか副作用多い!)

上記と似たシチュエーションです。
これは痛みが強そうだから、カロナール®︎にロキソニン®︎を加えてあげよう…ってこと、ありませんか?
ちょうど2年前に当MLでもアセトアミノフェン単独vsジクロフェナク単独vsアセトアミノフェン+ジクロフェナクで90分後の疼痛を比べた研究が紹介されています。(結果は群間差なし)
その他にも様々な研究が報告されています。皆さん救急外来での鎮痛に関する悩みは尽きないようですね…。

今回はオピオイド(コデイン)も含まれていますが、救急外来での鎮痛に関する研究です。
北米で社会問題になっているオピオイド依存・オピオイド中毒にも絡んでおり、その意味でもホットなトピックです。

P:救急外来に中等度(3/10)以上の急性の疼痛を訴えて受診し、四肢体幹の閉鎖性の損傷(打撲・捻挫など)のある成人患者(NZの病院)
I:アセトアミノフェン内服(1000mg)+イブプロフェン(400mg)+コデイン(60mg)同時内服
C:アセトアミノフェン内服(1000mg)
O:内服後60分、120分の疼痛(内服前との比較)、その他副作用など

を調べたtriple blind RCTです。
約60vs60のstudyでした。内訳は捻挫が約60%、骨折が10〜20%、打撲が約20%で、
60分後の安静時疼痛スケール(VAS)の変化は、I群で5.8/10→3.8/10 (-2.0)、C群で5.8/10→4.2/10 (-1.6) と有意差があるとはいえませんでした。
その他、運動時痛や120分後の疼痛に関しても有意差があるとはいえませんでした。
一方で、嘔気・めまいなどの副作用はI群で多く、観察期間内での副作用のRelative RiskはI群で2.8倍でした。

こちらも単施設で観察期間も長くはありません。無作為に振り分けたのにCharacteristicsにやや差が見られるのもネックではありますが、
十分量のアセトアミノフェンに他剤を追加しても鎮痛効果に差はなく、副作用が増えてしまうだけになってしまう可能性があります。
はっきりとは記載されていませんが、嘔気・めまいなど、副作用のほとんどはコデインによるものではないでしょうか…。
いきなりアセトアミノフェン1000mgというのは日本ではあまりやらないかも知れませんが、鎮痛薬処方の参考にしていただければ幸いです。
もちろん、骨折の固定など鎮痛薬以外にも痛みを取る手段はありますので、そちらも疎かにはできません。

less is moreの観点から、救急外来で処方する鎮痛薬のプラクティスについて再考するきっかけとなれば、と思って2本紹介させていただきました。

③Ceylan E et al. Initial and Sustained Response Effects of 3 Vagal Maneuvers in Supraventricular Tachycardia: A Randomized, Clinical Trial.
J Emerg Med. 2019 Sep;57(3):299-305. PMID:31443919

血行動態が安定しているSVTにはmodified Valsalva maneuverが有効!

血行動態が安定しているSVTに対しては迷走神経刺激法(vagal maneuvers)が第一選択になります。
特に、2015年にはSVTに対する修正Valsalva法(modified Valsalva maneuver:mVM)が発表され、一世を風靡しました。
座位の患者に対して10mlシリンジの先端を加えさせて15-20秒間ほど限界まで強く息を吐かせます(シリンジが動くことでおおむね気道内圧30-40mmHgが達成されます)。
その直後に患者を仰臥位にして下肢を45度近くまで上げ1分間ほど待機させることで洞調律化が得られるという方法です。

これまでに2つのRCTが行われ、いずれも従来のValasalva法(standard valsalva maneuver:sVM)に比較してmVMを行うことで有意にSVTを洞調律化できることが示されてきました。

この研究は、SVTに対する3つのvagal maneuvers(mVM vs sVM vs carotid sinus massage:CSM)を比較するRCTがでした。3方法を比較したRCTとしては本研究が初です。
mVMに関しては、血圧計に接続したシリンジをふくんでもらい気道内圧を30-40mmHgに20秒間保った後、患者を仰臥位にして45度に下肢挙上させる方法をとりました。
対象は18歳以上の血行動態が安定しているSVT患者で、それぞれの群に3つの方法のいずれかが実施されました。
ただし、対象132人のうち34人が除外されており、ランダム化されたのは98人にすぎませんでした。

primary putcomeは5分後の洞調律維持率であり、28.1% vs 6.1% vs 3.0%という結果でした。
mVMとsMV、sMVとCSMにおいては有意な差を証明できませんでした。
また、いずれの群でも合併症は認められませんでした。

今回の研究では、primary outcomeを5分後に設定していました。直後の洞調律復帰率ではなく、5分間洞調律を維持できていたということが重要です。
そのため、1分間後の洞調律復帰率をoutcomeに据えていたこれまでの研究の結果と比較すると心もとない結果になっているように感じますが、より実臨床で用いるのに有用な形になっていると思われます。

SVTに対して合併症なく行なえるvagal maneuvers。
primary outcomeでは有意な差がありませんでしたが、mVMは洞調律維持率が高い傾向にありました。
5人に1人以上の確率で薬剤なしに治療ができるmVM、成功すると患者さんにびっくりされます!
私は今後もぜひfirst stepとしてトライしていきたいと思います。

④McDowell M et al. Single Syringe Administration of Diluted Adenosine.
Acad Emerg Med. 2019[Epub ahead of print] PMID:31665806

SVTに対するadenosine投与はもしかしたらsingle syringe methodが使えるかも⁉

みなさんは、SVTに対してadenosine投与を行うときにどのように投与していますか?
当院では、三方活栓を2つ連結して2つのシリンジにそれぞれadenosineと生食を満たしたものを急速静注する方法をとっています。
おそらくこのような方法でadenosine投与している施設も多いのではないかと思います。
慣れるまでは意外と難しく、初回トライの研修医では投与にもたつくこともしばしばですよね…。

adenosineは生食と混ぜても安定している性質から、「adenosineと生食を1つのシリンジに混ぜて急速静注する方法=single syringe method」が小規模な研究でその有効性が報告されてきていました。

この研究は、single syringe methodが従来の投与方法(two syringe method)に対して非劣性であることを示すためのpilot studyです。
18歳以上の安定したSVT患者に対して、single syringe methodとtwo syringe methodとで前向き観察研究をしています。

single syringe method群では、adenosine 6mg/2ml+生理食塩水18ml(合計20ml)を1つのシリンジにまとめて急速静注しました。

primary outcomeは初回adenosine投与による洞調律復帰率であり、single syringe method群では73.1%、two syringe method群では40.7%でした。
single syringe methodはtwo syringe methodと比較して非劣性でありました。

ただし、本研究はpilot studyであり、対象数が少なく、非劣性マージンも大きくとられていました。
方法が記載されておらず標準化されていなかったようですが、two syringe methodの成功率も低すぎるような気がします。

Limitationは多く、まだ標準的手法としてよいかには疑問が残りますが、今後の大規模な研究が期待されます。
single syringe methodならば不慣れな人でも大丈夫、看護師の手間も軽くなって一石二鳥!
今後は少しだけ堂々と使ってみても良いかもしれません。

今回の文献紹介は以上です。
今後ともEMA文献班をよろしくお願い致します。