2019.12.25

2019/10/15 文献紹介

EMA文献班より東京大学 公衆衛生大学院の宮本です。
10月前半は“prehospital”をテーマに3つの文献を紹介させていただきます。

①Efficacy of the presence of an emergency physician in prehospital major trauma care: A nationwide cohort study in Japan.
Am J Emerg Med. 2019 Sep;37(9):1605-1610.

「重症外傷患者におけるドクターカー診療は予後と関連しなかった」

軽症外傷患者におけるドクターカーの恩恵は小さいと考えられるため、重症外傷患者(ISS16点以上)に患者を絞って、ドクターカーの効果を検討しています。
日本外傷データバンク(JTDB)に登録されている鈍的・鋭的外傷でISSが16点以上の患者を対象に、ドクターカー群と通常の救急隊群とで予後を比較しました。
ドクターカー群で患者のISSは高い傾向がありましたが、これらを調整しても生存退院率はドクターカー群と救急隊群で有意差はありませんでした。(OR1.16 [95%CI:0.97-1.40] p=0.11)

②Association of Prehospital Time to In-Hospital Trauma Mortality in a Physician-Staffed Emergency Medicine System.
JAMA Surg. 2019 Sep 25. [Epub ahead of print] doi: 10.1001/jamasurg.2019.3475.

「フランスの病院前診療において接触から病着までの時間が長ければ長いほど予後は悪化する(10分ごとに死亡率が4%ずつ上昇)」

この結果自体は筆者も「ある意味当たり前」と言っていますが、この結果以外にも以下の点にも注目するべきであると考えます。
・secondary outcomeではあるが出血による死亡率は共変量を調整すると、病院前時間が長くても死亡率は上昇しなかった点
・疾患群によって、どの処置までは行うべきで、どの処置を行わないのか(scoop and runなのか、stay and playなのか、play and runなのか)についてさらなる研究が必要であると示されている点

また個々の症例でどのように対応するべきかについて、「intervention-to-time ratio(病院前の時間に対する処置時間の割合)」に応じて考えることも必要であると筆者は主張しています。

医師による病院前診療が有用かどうかに関してはまだまだ議論が尽きませんね!
もしかすると医師による病院前診療全般が有用でない可能性もありますし、特定の疾患群や処置のみ行うのであれば有用なのかもしれません。

次にその具体的な処置として、病院前の胸腔穿刺についての文献もご紹介します。

③Prehospital needle thoracostomy: What are the indications and is a post-trauma center arrival chest tube required?
Am J Surg. 2019 Sep 21. [Epub ahead of print] doi: 10.1016/j.amjsurg.2019.09.020.

「病院前での胸腔穿刺は適応も処置自体も正確に施行されていない可能性がある」

この研究は胸腔穿刺を行われた患者データを前向きに収集した単施設ケースシリーズです。
59人・63例の病院前で緊張性気胸の診断にて胸腔穿刺を施行された外傷患者が対象となりました。

しかしながら穿刺前後の収縮期血圧(Difference:-4.04 95%CI:-10.83,2.74)や脈拍(Difference:2.81 95%CI:-1.96,7.59)は変化しなかったとのことです。
また胸腔穿刺に至った理由は「呼吸音減弱もしくは呼吸音消失」が最多(66.7%)で「血圧低下」を理由に穿刺した症例はわずか5例(7.9%)でした。
さらに胸腔穿刺抜去前にCTを施行された51例のうち、胸腔穿刺が正確に胸腔内に挿入されているのはたった3例(5.8%)しかありませんでした。

・緊張性気胸でない状態を「緊張性気胸である」と誤診している
・胸腔穿刺自体の成功率が低い(多くは胸壁の分厚さのため)
などの可能性が示唆されます。

今回の文献紹介は以上です。
皆様、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
今後ともEMA文献班をよろしくお願い申し上げます。