2019.12.25

2019/9/30 文献紹介

皆様こんにちは。

文献班の沖縄県立中部病院の山本 一太です。
救急医学会の準備で忙しいと思いますが、9月後半の文献紹介です。
今回は小児診療に関連のある文献を3つと、患者の待ち時間に関する文献を紹介いたします。
お楽しみください。

1. Ramgopal S, Walker LW, Tavarez MM, Nowalk AJ, Vitale MA. Serious Bacterial Infections in Neonates Presenting Afebrile With History of Fever. Pediatrics. 2019;144(2)

生後28日以下の小児は、発熱の病歴があれば来院時から入院後にかけて発熱がなくても、重症細菌感染症(serious bacterial infection: SBI)や侵襲性細菌感染症(invasive bacterial infection: IBI)のリスクがそれなりにあるという研究です。あえてこの文献の著者の結論とは異なる点を提示しました。

この文献からER医が学ぶべきポイントは以下の3つです。
・生後28日以下の小児は、発熱の病歴があれば、来院時発熱がなかったとしても、SBIが十分ありうる。
・来院後発熱する場合は平均5.6時間後である。
・そして、来院時無熱で来院後発熱した場合にはむしろSBIの可能性が上がる。

単施設の後ろ向き研究です。救急外来に来院しSBI疑いで調べられた小児が対象です。
1. 発熱の病歴あり 来院時発熱あり
2. 発熱の病歴あり 来院時発熱なし 入院後発熱なし
3. 発熱の病歴あり 来院時発熱なし 入院後発熱あり
の3群で比較しています。

この研究ではSBIは菌血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症の総称、IBIは菌血症と細菌性髄膜炎を指しています。

結果です。
発熱の病歴あり、来院時発熱なし、入院後発熱なしでは4.7%がSBI(来院時発熱ありと比較してオッズ比0.42 95%CI:0.23-0.79)
発熱の病歴あり、来院時発熱なし、入院後発熱ありでは18.3%がSBI(来院時発熱ありと比較してオッズ比1.93 95%CI:1.07-3.50)
でした。
発熱の病歴あり、来院時発熱なし、入院後発熱ありでは、平均して来院5.6時間後に発熱していました。
IBIの頻度は3群で差がありませんでした(1.8%, 4.3%, 3.4%)。

来院時に発熱がなくても油断せず、発熱の病歴があれば、SBIやIBIを念頭に精査する必要がありますね。

2. Davis J, Lehman E. Fever Characteristics and Risk of Serious Bacterial Infection in Febrile Infants. J Emerg Med. 2019.

次に紹介する文献は、生後2ヶ月未満の小児では発熱の高さがSBIのリスクと関連があるという研究です。

この文献からER医が学ぶべきポイントは以下の3つです。
・生後2ヶ月未満の小児は、来院時の体温が高いほどSBIのリスクが上がる。
・特に体温が39度を超える場合は39度未満と比べてリスクが2倍になる。
・とはいえ、体温が39度未満でも9.1%はSBIである。

PECARNのデータを用い、38度以上の発熱があり血液培養、尿培養、髄液培養が最低でも1つ採取された生後60日未満の小児が対象です。

最終的に4821人のうち、443人(9.2%)が最低でも1つ培養が陽性でした。体温の高さは菌血症、尿路感染症、髄膜炎のいずれのリスクとも関連があり、odds ratioは1.48でした。39度未満でも9.1%がSBIでしたが、39度を超える場合SBIのリスクは約2倍の20.4%でした。一方で発熱の持続時間(<12時間 vs >24時間)はSBIのリスクと関連がありませんでした。

2ヶ月未満の発熱が、もし高熱であれば、SBIのリスクが上がることを念頭におきましょう。

3. Griffin BR, Frear CC, Babl F, Oakley E, Kimble RM. Cool Running Water First Aid Decreases Skin Grafting Requirements in Pediatric Burns: A Cohort Study of Two Thousand Four Hundred Ninety-five Children. Ann Emerg Med. 2019.

続いでは小児の熱傷の応急処置の話題です。熱傷後3時間以内に20分間冷流水で処置することが、植皮の可能性を下げたという研究です。

この文献のポイントは以下の2つです。
・熱傷受傷後3時間以内に20分間流水で処置すると植皮のリスクが5.8%下がる。
・流水処置は20分間連続した処置ではなく、間を置きながら合計20分間で良い。

熱傷後冷流水で処置することはガイドラインで推奨されていますが、その施行時間は各国でバラバラのようです。例えばオーストラリア、英国、ヨーロッパでは20分と定められていますが、米国では5分間のようです。

この研究は0-16歳の熱傷患者を登録したオーストラリアのデータベースを使用して行われました。化学熱傷や電撃症は除外されています。20分間の冷流水処置は3時間以内であれば連続でなくてもよく、間をあけて合計20分でも20分間とカウントされています。プライマリーアウトカムは植皮です。植皮は熱傷の重症度や治癒が望めるかどうか、morbidityなどを示唆しています。

2495人の患者のうち、1780人が20分以上の冷流水処置を受け、処置が不十分だったのは715人でした。85.3%は自宅で受傷、上肢が40.3%、熱傷面積5%未満が89.7%でした。熱傷深度はSDBが65.7%でもっとも多く、続いてDDBの27.1%でした。Ⅲ度熱傷は4.1%でした。

植皮率は十分な治療を受けた群で7.8%、治療不十分な群では13.6%(リスク差5.8% 95%CI:4.5-7.0%)と有意に減少しました。

流水で冷やすことが予後を改善するのではなく、重症な熱傷ほど冷やされずに来院している可能性があります。潜在的な交絡因子が隠れているかもしれません。
何れにせよ十分な流水処置を侮ってはいけません。3時間以内の処置が有用ということは、来院後も20分間流水でしっかり処置するべきかもしれませんね。


4. Spechbach H, Rochat J, Gaspoz JM, Lovis C, Ehrler F. Patients' time perception in the waiting room of an ambulatory emergency unit: a cross-sectional study. BMC Emerg Med. 2019;19(1):41

最後は少し視点が異なる文献をご紹介いたします。救急外来の待ち時間に関する研究です。
スイスの救急外来で行われたこの研究では、患者が待ち時間をどのように感じているかを調べています。この研究によると、患者が待ち時間が長いと感じるもっとも大きな要因は、『自分の重症度が正しく評価されていないと感じる』こと、2番目の要因は、『忘れられていると感じる』ことでした。『プライバシーの尊重』が3つ目の要因で、これは待合室でプライバシーが守られているかどうかということです。最後の要因は『実際の待ち時間』でした。著者によると待ち時間が2時間を過ぎると、診察を待たずに帰宅する人が増えたようです。

沖縄県はインフルエンザが大流行しており、当院の待ち時間もかなり長くなっています。患者が忘れられているのではと不安にならないような待合室の工夫が必要かもしれません。
9月後半の文献紹介は以上です。

これからも文献班をよろしくお願いいたします。