2019/9/15 文献紹介
文献班の川口@聖マリアンナです。
朝晩の気候がやや涼しくなり秋の訪れを感じさせますが
ご紹介させていただく文献×5は大変お熱くなっております。
最初の2つはCPRの質に関する研究です。
AHAの成人の心停止アルゴリズム(2018年最終更新)では
・強さは少なくとも5cm
・速さは100~120回/分
・胸骨圧迫の中断時間は最小限にする
が質の高いCPRとされています。
①JAMA Cardiol. Published online August 14, 2019. doi:10.1001/jamacardio.2019.2717
Optimal Combination of Compression Rate and Depth During Cardiopulmonary Resuscitation for Functionally Favorable Survival.
CPRにおける最適な胸骨圧迫のペース(CCR)と胸骨圧迫深度(CCD)を調べた論文です。
CCRとCCDはそれぞれモニタを用いて測定しており、詳細は記載されておりませんでしたがおそらくこういった機器が用いられたと推測されます https://www.ak-zoll.com/medical/x_series/
結果、最も効果が高かったのは速度:毎分107回、深さ:4.7cmの組み合わせで、ほぼ現行ガイドラインの推奨通りの値でした。
もちろんその数値ジャストのCPRを人力で提供するのは困難なので、現実的にはその前後10%の範囲(86-128 cpm, 3.8-5.6 cm)を目指すことになると思います。
また、CPRの質をリアルタイムに評価するモニタを使用した場合、標準的なCPRと比較して有意に高い生存確率と関連(オッズ比1.90)がみられました。
ただし本研究は院外心停止のみが対象となっていること、蘇生の最初の5分のみを評価していることに注意が必要です。
②Resuscitation. 2019 Aug 14. pii:S0300-9572(19)30575-1. doi: 10.1016/j.resuscitation.2019.08.015.
Pauses in compressions during pediatric CPR: Opportunities for improving CPR quality.
CPRの速さ・深さと並んで重要となるのが中断時間を最小限にすることです。
一般的には10秒以下にすることが推奨されています。
本研究は小児(といっても21歳未満が対象になっていますが)の蘇生におけるCPRの中断時間に関するものです。
解析の作業が非常に大変そうで、蘇生の様子をビデオ録画し、胸骨圧迫とその中断時間を1サイクル毎に計測するというものでした。64症例の蘇生においてCPRは1424分間行われており、そのうち胸骨圧迫は1279分、中断時間は145分(合計900回)あったそうです。
CPR中断時間の中央値は4秒で、10秒以上の中断が22%でみられました。
中断時間の短縮に寄与したのは
・脈拍を1箇所で測定すること
・パルスチェックの直前に指を測定箇所においておくこと
・CPR中断時に行うタスクは少なくすること
※タスクが多いほど中断時間が長くなる (r = 0.559)
例:パルスチェックと胸骨圧迫者の交代を同時にやると"タスク2つ"と数える
の3点です。
あくまで「時間の長さ」を評価した研究であり、予後や治療効果との関連を調べたものではないことは注意しておく必要があります。
また、本研究で行われたCPRの75%で圧迫速度がAHAガイドラインの推奨速度よりも速くなっていたことも印象的でした。
③Resuscitation. 2019 Aug 20;143:100-105. doi:10.1016/j.resuscitation.2019.08.022.
Shorter defibrillation interval promotes successful defibrillation and resuscitation outcomes.
動物実験ではありますが①②と同じく既存の蘇生アルゴリズムと関係する興味深い研究です。
AHAのガイドラインではshockable rhythmであれば2分ごとの電気的除細動を行うことが推奨されていますが、その「2分ごと」というのは実はエキスパートオピニオンであり、根拠となる強いエビデンスはありません。
本研究はVFを誘発したブタ26頭を対象に、2J/kgの電気的除細動を1分間隔に行う群と2分間隔に行う群を比較し、短い間隔で除細動を行うことの効果を検証したものです。
血行動態のパラメータと動脈血ガスの所見は両群でかわらず、ROSCは1分間隔群が多く、ROSCまでの時間の差はなし。
24時間生存率は1分間隔群で高く、24時間での神経学的欠損スコア(NDS:400が脳死に相当。数値が小さいほど神経障害は小さい)は2分間隔グループ(272±190)よりも1分間隔グループで低い(92±175)というものでした。
すぐにヒトへの臨床応用はできない内容ではありますが、普段当たり前に行っているCPRについて改めて科学的に考えるきっかけになれば幸いです。
④BMJ. 2019 Jul 24;366:l4225. doi: 10.1136/bmj.l4225.
Diagnosis of elevated intracranial pressure in critically ill adults: systematic review and meta-analysis.
頭蓋内圧亢進を身体所見やGCSの低下やCT所見、超音波ドプラ法(TCD-PI)で判断するのは、侵襲的な頭蓋内圧測定に比べるとあまり正確ではないという結果が得られました。
エコーの視神経鞘径(ONSD)がAUROC 0.94と好成績ですがまだまだEvidenceの蓄積を要する印象です。
実臨床ではこれらの手法はいずれもICPセンサーの代用というよりも、センサー未挿入の入院症例においてICPモニタリングが必要な病態をベッドサイドで早期に発見し、CT室への移動や専門家にセンサー挿入を依頼するための判断材料という位置付けになると思います。
⑤Ann Emerg Med. 2019 Aug 19. [Epub ahead of print]
Managing the Breastfeeding Patient in the Emergency Department.
老若男女問わず多くの患者さんが訪れるER。授乳中の患者さんが来院された際に「薬はどれにしよう」「授乳は一時的にやめてもらうべきか」などマネジメントに悩んだことはありませんか?
当文献は投薬、検査、授乳期の(母体の)感染症の3つのトピックスに分けて役立つ情報が整理されており、授乳と投薬について信頼できるリファレンス(サイト)や安全な薬剤の選択肢、授乳に制約が生じる母体の感染症の一覧がTableになっています。
今回の文献紹介は以上です。