2019.12.25

2019/8/31 文献紹介

文献班より福岡徳洲会病院の鈴木です。
今回もとても興味深い論文を5つ、ご紹介します!

 ①4F-PCCは外傷の凝固障害に有用か?(必読)
 ②クループのデキサメタゾン内服は少量で良い?
 ③高齢の失神患者の原因が分からないとき、入院と帰宅では予後が変わる?
 ④自閉症スペクトラム障害の子に初療室で鎮静をかけるときの投与量は?
 ⑤2人でBystander CPRを行うときの裏技

①J Trauma Acute Care Surg. 2019 Aug;87(2):274-281.
Four-factor prothrombin complex concentrate is associated with improved survival in trauma-related hemorrhage: A nationwide propensity-matched analysis.

4F-PCC製剤(ケイセントラ®)が日本でも2017年9月に発売されました。
これはⅡ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ+プロテインC+プロテインSなどを含んでおり、ワーファリンの拮抗薬として使用が承認されています。
さらにワーファリンの拮抗薬としてだけでなく、外傷の凝固障害に対する治療薬としても有効であるという意見が動物実験や小規模Studyでは示されていました。
今回はアメリカのTQIOというデータベースから約12万人の外傷患者にPropensity-matchingをかけて、4-PCC+FFPを使用した群(234人)とFFPを単独で使用した群(234人)を比べています。
4-PCCを加えた群の方が死亡率・ARDS・AKIの割合はかなり下がりました。RBCやFFPの投与量も有意に減りました。
4-PCC凄い!!でも今のところ適応外使用。。。
前向き試験の追試が待ち遠しいですね!


②Pediatrics. 2019;144(3):e20183772
Parker CM and Cooper MN. Prednisolone Versus Dexamethasone for Croup: a Randomized Controlled Trial.

クループに対するステロイドの経口投与は、古典的にはデキサメサゾンの0.6mg/kgです。
UpToDateによるとデキサメタゾンの内服は味が悪いとのことです。日本には比較的飲みやすいデカドロンエリキシル®がありますが、0.6mg/kgで飲むと10kgの子が60mlも飲まなくてはいけないという問題があります。また小児の保険用量は40mlまでです。
いくつかのStudyで0.15mg/kg~0.3mg/kgでも同等の効果があると示されていますが、n数が100例程度の小規模Studyが中心でした。
今回のStudyは1200人以上ものクループの患者を集めて、デキサメサゾン通常量(0.6mg/kg)、デキサメサゾン少量(0.15mg/kg)、プレドニゾロン(1mg/kg)の3群に410名ずつを割り当てたRCTです。
今回のRCTで、デキサメサゾン少量投与やプレドニゾロン投与は、デキサメサゾン通常量投与に対して非劣性を示しました。
すでに0.15mg/kgで処方している施設の方にとっては朗報と言えると思います。
2施設で1200人もクループを集められるのがすごいですね。

皆さんの施設ではクループの子にデキサメタゾンをどうやって内服させていますか?
文献班のメンバーに聞くと、エリキシル製剤にはアルコールが入っているので小児への処方は避けるという意見も複数ありました。施設によっては粉砕したデカドロン錠を単シロップに混ぜて「練り団子」のようにして飲ませたり、粉砕した錠剤を水で懸濁して5mlの注射器でピュッと口の中に入れて飲ませるなどの工夫をしている様です。
とても面白い話題なので各施設の工夫を共有していただけると幸いです。

③Ann Emerg Med. 2019 Aug;74(2):260-269.
Clinical Benefit of Hospitalization for Older Adults With Unexplained Syncope: A Propensity-Matched Analysis.

サンフランシスコ失神ルールやOESILリスクスコアなど、失神患者のリスク評価ツールは沢山発表されてきました。
そのどれを使用してもリスクが曖昧になるパターンが多くないでしょうか?
この様な場合に日本では帰宅させる施設も多いと思いますが、訴訟大国アメリカにおいては、このような60歳以上の患者の50%以上は入院させているというデータもあります。
これが妥当であるかを調べるために、アメリカの11のEDで2500名程度の原因不明の高齢失神患者を集めました。
Propensity-matchingにかけて入院させた患者群と帰宅させた患者群を比べています。
結果として、30日後の重篤な有害事象に差はありませんでした。
入院させても結果を変えることはできなかったという事なのでしょうか・・・

④Am J Emerg Med. 2019 Aug;37(8):1404-1408.
Procedural sedation in children with autism spectrum disorders in the emergency department.

日本のERでも小児の処置時の鎮静をする施設も増えていると思います。
どの様な子に鎮静をかける際に気をつけなくてはいけないのでしょうか?
例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD: Autism Spectrum Disorders)の子には量を調整しなくてよいでしょうか?
7年間で126名のASDの子に処置時の鎮静をかけたデータを集めた結果です。
過去の文献データを参考にすると、鎮静薬の量や合併症の割合などはASDのない子に鎮静をかけた場合と同様でした。


J Emerg Med. 2019 Jul;57(1):51-58.
Feasibility of a Modified Strategy for 2-Rescuer Cardiopulmonary Resuscitation.

最後に、ちょっと面白いTIPsです。
ACLSなどで2人法のBVM換気を指導している方も多いと思います。
ただ胸骨圧迫とBVM換気を2人で行う場合は、普通は1人法のBVM換気を行う事になりますよね。
筆者らは、一人が両手でBVMのマスク部分をホールドして、胸骨圧迫を30回終えた人がバッグを揉むという方法の有効性を人形を使って調べました。
意外にも、胸骨圧迫の中断時間を増やすことなく有効に換気することができました。
さらっと読める論文です。しかも臨床に有用な情報だと思います。

以上です。