2019.12.25

2019/7/31 文献紹介

文献紹介斑より青森健生病院の徳竹です。

とても暑い日が続いています。体調は万全でしょうか?
そろそろ夏休みシーズンだと思いますが、旅の移動の間にでもぜひ今回の文献紹介に目を通していただければと思います。

今回は3つの文献をご紹介します!

①Influence of contrast media on renal function and outcomes in patients with sepsis-associated acute kidney injury: a propensity-matched cohort study.
Crit Care. 2019 Jul 9;23(1):249. doi: 10.1186/s13054-019-2517-3.

敗血症性急性腎障害患者に対して造影CTを行うと腎機能がさらに悪化するか?

1950年代、腎臓病を基礎疾患として持つ患者に経静脈的腎盂造影を施行して腎障害を発症したという報告がなされました。それを発端に、通称造影剤腎症が世に知られるようになりました。
ヨード造影剤血管内投与後に発症した腎機能低下のことをContrast-Indused Nephropathyと呼んでいた時期がありましたが、KDIGO workgroupによりContrast-Associated Acute Kidney Injury(CA-AKI)という用語が提唱され、現在ではこれが頻用されるようになっています。

CA-AKIのリスク因子として糖尿病、敗血症、貧血、低血圧、循環不全、腎毒性薬物の投与などが報告されてきました。
しかし、それらの研究の多くは冠動脈造影にかかわる報告であったり、造影剤以外のリスク因子を考慮されていなかったり、時を経て低~等浸透圧造影剤の使用が進んできていることなどからその真の発症率については議論が残る分野となっています。

NEJMのCA-AKIについてのreview(N Engl J Med. 2019 May 30;380(22):2146-2155.)によれば、少なくとも造影剤使用後の重症急性腎障害(AKI)発症に関してはそう多くなく0.3%程度であったと記載されています。
また、造影剤使用群と非使用群ではAKI発症に差がないか、非使用群でむしろAKI発症率が多くなる(造影剤に腎保護作用があるというわけではなく疾患が重症化することに起因する)ことが報告されています。さらに、meta-analysisを含む最近の報告では、重症患者に対する造影剤投与は腎機能障害悪化や腎症のリスクにはならないと報告されており、当院救急科でも必要な患者に対しては腎機能はそれほど考えずに造影CTを実施することにしています。

ただし、敗血症性AKIを発症している患者に対する造影剤投与が腎機能悪化のリスクになるかどうかはこれまで未解明でした。
これについて調べたのが本研究になります。
この分野はこれまでさまざまな研究がされていましたが、本研究では「敗血症性AKI+造影剤使用」にのみ焦点を当てており、ここに目新しさを感じました。
しかも日本発信の研究です!

・自治医科大学附属病院にて行われたsingle-center, retrospective, propensity-matched cohort study
 ◦inclusion…2011年6月~2017年12月までにICU入室した18歳以上の敗血症性AKIと診断された患者
 ◦exclusion…腎移植既往、透析中、病前腎機能についてのデータ不足、入院24時間以内の死亡、入院前2-3日以内の造影剤使用、入院1週間以内に2回以上の造影剤投与
・primary outcome…腎機能悪化(DRF:deterioration of kidney function)
 ◦Cr≧0.3mg/dL増加または入院時点のCreが1.5倍に増加、入院後72時間以内のRRT導入率
・secondary outcome…人工呼吸器free期間、ICU free期間、短期/長期死亡率、一般病棟入院中または退院後のRRT導入率

・最終的に339人が基準を満たして組み込まれた
 ◦このうち、136人(40.1%)が入院時点または入院後24時間以内に造影剤投与を受けた
 ◦造影剤投与はすべて造影CTでの使用であった
・造影剤投与の有無により2群に分けられた
 ◦入院時点~24時間以内に造影剤投与…C群
 ◦造影剤投与なし…NC群
 ◦propensity score matchingを行い100人ずつが選択され、2群間の患者特性や検査データの有意差が排除された
 ◦high risk群(AKI stage2-3)とlow risk群(AKI stage1)にも分類し、それぞれpropensity score analysisを実施

・propensity-matched analyse前後で腎機能悪化頻度(primary outcome)はC群とNC群で有意差なし
 ◦両群間に有意差なし
 ◦propensity-matched analyse前…34.1% vs 43.0%
→propensity-matched analyse後…34.0% vs 35.0%
 ◦high risk群とlow risk群での比較でも腎機能悪化頻度に有意差なし
・secondary outcomeについても同様に2群間で有意差なし
・腎機能悪化の独立したリスク因子は多変量回帰分析により以下が特定された
 ◦CKD…OR, 3.16; 95%CI, 1.49–6.72
 ◦APACHE Ⅱ…OR, 1.15; 95%CI, 1.10–1.20
 ◦DIC…OR, 1.84; 95%CI, 1.04–3.25
 ◦入院時点のCre…OR, 1.32; 95%CI, 1.11–1.60
 ◦造影剤投与は関連がなかった…OR, 0.94; 95%CI, 0.53–1.69

日本の単施設での研究でしたが、造影剤投与により腎機能が悪化するという証拠は敗血症性AKIにおいても証明されませんでした。
造影剤投与で腎機能が悪化してしまうと考えるよりは、もともとの腎臓の状態(CKD)や病態の重症度(APACHE Ⅱ、DIC発症)が腎機能悪化に関連があると判断できそうです。

個人的な考えとしては、敗血症でAKIを発症していたとしても必要と考えたなら造影剤投与を差し控えることは慎むべきと考えます。
原因の究明や治療に際して造影CTが必要であると判断しているにもかかわらずそれを実施しなかったことで不利益を被る(膿瘍や虚血などを見逃してしまい、最悪の場合には死亡する)可能性もあるため、
あまり腎機能にはこだわらずにするべき検査をしていくというスタンスでよいのではないでしょうか?

上記のようにCKDに対する造影剤投与はCA-AKI発症の最大のリスクであるため、これらの高リスクな患者に対しては以下の予防的対策をとりながら対応するのが現実的かと思います。
(N Engl J Med. 2019 May 30;380(22):2146-2155.より)
・低-等張浸透圧造影剤の使用
・造影剤使用の最小化
・腎毒性薬物の中止
・生理食塩水投与

②Evaluating Effectiveness of Nasal Compression With Tranexamic Acid Compared With Simple Nasal Compression and Merocel Packing: A Randomized Controlled Trial.
Ann Emerg Med. 2019 Jul;74(1):72-78. doi: 10.1016/j.annemergmed.2019.03.030. Epub 2019 May 9.

鼻前方出血にはトラネキサム酸噴霧と圧迫止血で十分!?

これまでにトラネキサム酸(TXA)の効果に関するさまざまなtrialがされてきました。
今回のテーマの鼻出血以外にも外傷、頭蓋内出血、産後出血、上部消化管出血、喀血などで有効(または有効である可能性がある)と報告されています。

鼻出血に関しては、TXA含有ガーゼやコットンを鼻腔内に詰めることが10分以内の止血率改善に有効とされており、この効果は抗血小板薬を内服していても同様でそのNNTは2とも報告されています。
しかしながら、nasal packingは患者に強い不快を与える処置であり、合併症(感染症、組織壊死、抜去時の再出血など)がないわけではないためできる限り避けたいと思っていました。

そんなおり、TXAを鼻腔内に噴霧した後に鼻翼を外的圧迫すれば十分なのでは?ということについて調べた研究がありましたのでご紹介いたします。

・トルコの教育病院にて2018年5月~8月に実施されたsingle-center, prospective, randomized controlled study
 ◦inclusion…ER受診時点で活動性出血を認める鼻前方出血(出血点を確認できる症例)
 ◦exclusion…抗凝固療法(抗血小板治療は含む)、血行動態不安定、外傷性鼻出血、既知の出血性疾患

・3群にランダムに分類し、1:1:1に割り付けした
 ①TXA群(両側鼻腔にTXA500mg/5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
 ②生食群(両側鼻腔に生理食塩水5ml噴霧+鼻翼15分間圧迫)
 ③nasal packing群(2%リドカインを含有したMerocel®を24時間挿入)
・いずれの群でも15分後に出血がないか確認した
 ◦nasal packing群では15分後に口腔内やパッキングを超えて出血がないことを確認
 ◦さらに、いずれの群も24時間後に受診してもらい再評価した

・最終的に135人が対象となった
・primary outcome…15分後の止血率
 ◦TXA群 91.1% vs 生食群 71.1% vs nasal packing群 93.3%
 ◦3群間に統計学的有意差を認め、TXA群とnasal packing群では有意差を認めなかった
・secondary outcome…24時間以内の再出血率
 ◦TXA群 86.7% vs 生食群 60% vs nasal packing群 74%
 ◦nasal packing群と生食群では有意差なし
 ◦TXA群では有意に24時間後の再出血率が少なかった

ただし、以下のようなlimitationはあります。
・TXA群と生食群は同じシリンジ/色/量を用いられたが、nasal packing群に関しては当然ながら盲検化できなかった。
・ランダム化されてはいるが鼻出血の重症度については検討されていない。
・あくまでMerocel®という製品を使用して比較したにすぎずその他の方法が検討されているわけではない。
・抗凝固薬や外傷については検討されていない。
・TXA含有ガーゼやコットンについては検討されていない。

とはいえ自分がされる側だったら…と考えると、nasal packingされるのであればTXA噴霧して鼻翼圧迫を選択する気がします。
ただ、生食群でも70%が鼻翼圧迫のみで止血できているため重症度はあまり高くない症例であったことが予測されます。
覚えておくと便利な小技かもしれませんが、使用については保険適応外ではあるため注意が必要です。

TXA含有ガーゼとの比較や抗凝固薬内服中の症例についても検討されることを望みます。

③Avocado-related knife injuries: Describing an epidemic of hand injury.
Am J Emerg Med. 2019 Jul 2. pii: S0735-6757(19)30446-2. doi: 10.1016/j.ajem.2019.06.051. [Epub ahead of print]

avocado handが増えている!

最近救急外来で遭遇しました、avocado hand!若干興奮しながら読んでみましたので簡単に紹介したいと思います。

avocado handはご存知ですか?私はこのような用語があることは知りませんでした。
アメリカではアボカド消費量が1998年~2017年までの間に3倍になっているそうです。日本でもやたらよく見ますね。
それに伴い手掌や指の切創が増えてきていることがメディアで問題にされていて、アボカドを切っているときに受傷したケガのことをavocado handと称しているそうです。

自分ではあまりアボカド調理に手を染めたことはありませんが、まずはアボカドを半分に切断して種のついている側とついていない側に分離、その後に種を取る際に包丁の根元の部分を刺して除去するというのがスタンダードな調理法のようです。包丁を種に突き刺す際に先端で行うと(もしくは通常の方法であっても)種で滑ってしまい、アボカドを把持している側の手を損傷してしまうそうです。

本研究では米国消費者製品安全委員会のNEISS(National Electronic Injury Surveillance System)というデータベースからアボカド関連外傷(avocado hand)をピックアップ、分析されました。

・1998年~2017年までに50,413件のアボカド関連外傷が発生
 ◦年々増加傾向で、2016年と2017年にピークがあった
  ‣アボカドの消費量と関連があった(1989年:1.52ポンド/人、2017年:7.47ポンド/人)
 ◦週末(日曜日…19.9%/土曜日…15.9%)、夏季(4月~7月…45.6%)に多い
 ◦女性が80.1%、特に23-39歳で多い(32.7%)
  ‣17歳以下の男性では少ない(0.9%)
 ◦人種…白人:83.2%、ヒスパニック系:7.7%、黒人:3.5%、アジア系:2.5%
・創傷の大部分は切創(94.4%)であり、刺創は5.6%
 ◦大部分を指(46.9%)と手掌(52.8%)で占める
 ◦指の受傷箇所は示指…34.4%、母指…18.6%、環指…17.1%
 ◦手掌の創傷の大部分は左手(90.1%)
・合併症は以下が認められた
 ◦感染…124例
 ◦神経損傷…612例
 ◦腱損傷…289例
 ◦切断…70例

なお、筆者らはアボカド調理に際して以下の方法を推奨/提案していました。
・左手(アボカドを把持する方の手)を厚いタオルで保護
・まな板の上で、左手を切断しないよう安全な距離をとりつつ切断
・包丁の代わりとなるような「アボカドカッター」などを使用する

また、イギリスの医師らはアボカドの外皮に警告ラベルを張り付けることを提案しているそうです。
さらに、品種改良で2018年秋からは半分にカットすれば簡単に皮と実の部分を引きはがせるもの(EasyAvo)も販売されるようになっています。

大変身近なことではありしょうがないと諦めて治療するだけになってしまいそうですが、受傷を防ぐために様々な方法を提案し注意を喚起したり、品種改良もされ安全さが追求されるのは素晴らしいと思います。公衆衛生的な取り組みも重要だなと思い出させてくれる文献でした。

avocado handに限らず、危険は身近に潜んでいます。
医学的なことでは全ての患者で血管損傷/神経損傷/腱損傷がないか検索することがご存知の通り重要ですが、予防的な部分についても知識を得ておいて共有してあげられると最高ですね。