2019/7/16 文献紹介
EMA文献班より東京大学 公共健康医学専攻の宮本です。
今回ご紹介するのはpublishされたばかりの2本の文献です!
この紹介文も読みつつ、ぜひ本文も読んでみてじっくりお楽しみください!
(1) The Association of the Average Epinephrine Dosing Interval and Survival With Favorable Neurologic Status at Hospital Discharge in Out-of-Hospital Cardiac Arrest.
Grunau B et al. Ann Emerg Med 2019 Jun 24. [Epub ahead of print]
「心肺蘇生時のアドレナリンの投与間隔は3分がいいの?4分がいいの?5分がいいの?」
JRCやAHA、ERCのガイドラインいずれにおいても心肺蘇生時のアドレナリンの投与間隔は3-5分と記載されています。
しかし、この投与間隔はエキスパートオピニオンを基にしているというのです。
本当は何分間隔がいいの?そんな疑問に答えるかもしれない文献をご紹介します。
2015年に発表されたROC CCC試験(心肺蘇生において胸骨圧迫は換気時に中断するのがよいか検討したRCT:https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1509139)の二次解析として行った研究。
ROC CCC試験は北米の多施設における、救急隊による胸骨圧迫処置を受けた院外心肺停止患者を対象にしている。
「最初にアドレナリンを投与した時間」から「救急隊が蘇生処置を終了するまでの時間」を「アドレナリンの総投与量(mg)」で割ったものを「アドレナリンの平均投与間隔」とした。
従って今回の研究では上記の計算が困難な患者(アドレナリンの投与が2回未満・上記の計算ができないような欠損値がある・心拍再開した後に再度心肺停止になった例)は除外されている。
アドレナリンの投与間隔を3分以下・3-4分・4-5分・5分以上の4群に分類し、プライマリアウトカムを「良好な神経学的指標(mRS3以下)で生存退院した率」としてその関連性について検討した。
結果として、15909人が解析対象となり、アドレナリン投与間隔の平均値は4.3分(四分位点:3.5-5.3)であった。良好な神経学的指標を持って退院した患者は全体の4.7%であった。投与間隔3分未満と比較した調整済オッズ比は「3-4分:0.44(95%CI:0.32-0.60) 4-5分:0.26(95%CI:0.19-0.36) 5分以上:0.21(95%CI:0.15-0.30)」であった。
以上より、院外心肺停止患者においてアドレナリン投与間隔が短いことと良好な神経学的予後は関連していると筆者は結論づけています。
もちろん二次解析の研究であるため、測定できていない交絡因子が存在する可能性はあります。
しかし今後の研究に一石を投じる非常に興味深い研究だと思われます!
またこの文献は、院内心肺停止における過去の同様の研究と結果が異なっています。
お時間があれば過去の研究と比較しながら「なぜこんなに差が出たのか」を検討してみるのも良いですね!
続いてご紹介するのは外傷に対する肺塞栓の予防のためにIVCフィルターを挿入するかどうかについて検討したNEJMからのRCTです!
(2) A Multicenter Trial of Vena Cava Filters in Severely Injured Patients.
Ho KM et al. N Engl J Med. 2019 Jul 7. [Epub ahead of print]
「抗凝固療法が禁忌の外傷患者に対して早期IVCフィルター留置は肺塞栓を予防するか?」
重症外傷患者に起こりがちな肺塞栓症。実は重症患者に対するIVCフィルター留置は学会によっても意見が別れているのです!
the Eastern Association for the Surgery of Trauma (EAST)と Society of Interventional Radiology (SVIR) は血栓ハイリスク患者かつ抗凝固薬が禁忌の外傷患者の場合、IVCフィルターの留置を推奨していますが、the American College of Chest Physicians (ACCP) ではこれを推奨していません。
今回ご紹介するのは、この論争に終止符を打つべく発表された研究です!
オーストラリアの複数の3次病院で行われたRCT。
18歳以上で外傷を受傷し、ISSが15点より高く、かつ抗凝固療法が禁忌である患者を対象とし、ランダムに「早期IVCフィルター留置を受ける群」と「コントロール群」に割付された。
なおこれらの割り付けは盲検化できず、介入群の測定バイアスを排除することと患者の安全性を両立させるために、試験開始に先立って造影CTを行うタイミングについては厳格にルールを決めていた。(収縮期血圧90mmHg以下が30分以上持続した場合・説明不可能な胸痛が出現した場合・酸素を6L以上必要とした場合やSpO2 94%以上を維持するために50%以上の濃度の酸素を必要とする場合 etc)
また対象者全てはフットポンプが装着され、割り付け後2週間経過した段階でルーチンで下肢エコーを実施した。
試験中に死亡した対象者は全て検死を依頼し、必要であれば死因の同定のために解剖を含む死後検査を行った。
IVCフィルターは特別な理由のない限り、抗凝固療法が可能になった段階、もしくは90日以内に抜去した。 抗凝固薬の再開のタイミングは医師の裁量に委ねられた。
プライマリアウトカムは有症状の肺塞栓発症と割り付け後90日時点での死亡との複合アウトカムとした。
セカンダリアウトカムとしては受傷後7日間生存しその間抗凝固療法を受けることができなかったサブグループの有症状の肺塞栓発症とした。
その他、IVCフィルター留置に伴う合併症・90日時点での死亡・90日時点までの出血イベント・90日時点までの深部静脈血栓症の発症をアウトカムとした。
2015年6月から2017年12月までで計240人がランダム化の対象となった。ISSの中央値は27(四分位点:22-34)であった。対象者が有する疾患で最も多いのは頭蓋内出血や脳挫傷(57.5%)であった。
プライマリアウトカムとしての肺塞栓+死亡の複合アウトカムは両群間で有意差はなく、(13.9% vs. 14.4% hazard ratio:0.99 95%CI:0.51 to 1.94)年齢とISSのみがプライマリアウトカムと相関していた。
セカンダリアウトカムとして、サブグループ(受傷後7日間生存し、その間抗凝固療法を受けることができなかったグループ)に関しては介入群(46例)では有症状の肺塞栓は1例も発症しなかったのに対し、コントロール群(34例)では5例、有症状の肺塞栓症が発症しており、(介入群の相対リスク:0 95%CI:0.00-0.55 )これら5例はいずれも受傷後9-19日の間に発生していた。
出血イベント・深部静脈血栓症の発症・輸血の必要量に関しては両群で有意差はなかった。合併症として、IVCフィルター抜去時に外科的介入を要した例が1例あった。
いかがでしょうか?
結果としてはプライマリアウトカムには差がなく、症例を絞ったセカンダリアウトカムでは肺塞栓の発症に一定の差がでました。
しかし、サブグループでは軽症の患者が集まっている可能性があること、IVCフィルターの存在によって抗凝固薬の開始に影響を与えるなど潜在的なバイアスが存在する可能性も考慮すると安易に結論付けることは難しいと考えます。
しかし、少なくともこの研究からは「重症外傷で抗凝固薬禁忌だからルーチンに早期IVCフィルター留置を行うということは推奨されない」と考えられますね。
今回の文献紹介は以上です。
お楽しみいただけましたでしょうか?
今後ともEMA文献班をよろしくお願い申し上げます。